魔女と虫除け

「───ということでね」

学校で幸村先輩に呼び出されたかと思ったらとんでもない話を聞いてしまった。

「今日一緒に氷帝に行ってくれるかい?」
「いいいい行きます」

あの時寝てしまった自分が憎い。憎くてたまらない。っていうか元はと言えば丸井先輩のせいじゃないのかそもそもの原因丸井先輩じゃない??
兎にも角にも氷帝側へ説明せねばならないので私と幸村先輩は二人で氷帝へ向かうことになった。大変胃が痛い。

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玄関で待ち合わせをしているため、幸村先輩を待たせないためにHRが終わってすぐに教室を出た。
小走りで玄関へ来ると、幸村先輩ではなく仁王先輩が居た。珍しい。

「早いですね仁王先輩」
「お前さんを待っとった」
「え何!怖い!」
「何でじゃ」

身構える私に仁王先輩は呆れたように溜息をついて、こちらへ近づいてくる。
いざ目の前に立つと背高ぇな……猫背治せばいいのに…

「今失礼なこと考えとる」
「いやそんな馬鹿な」

どうにも仁王先輩にはお見通しのようだ。そんなに私は顔に出ているのだろうか。いっそお面でもつけたらいいのだろうか……

「今から氷帝んとこ行くんじゃろ」
「いえーす」
「あいつらのことじゃ、きっとお前を欲しがる」
「跡部さん達のことよく知らないからなー…行く気はないですけど」
「ホンマか?」
「はい」

即座にそう頷けば、仁王先輩はどこかほっとしたように息を吐いた。そんなに私と離れるのが寂しいのかそうかそうか可愛い先輩だな
内心にやにやと笑っていると一瞬仁王先輩が眉間に皺を寄せた。待ってまた顔に出てた!?

「お前もう少し緊張感持ちんしゃい」
「いざとなれば魔法でどうにでもなるからモーマンタイ!」
「甘い」
「ッで!」

固い音を立てて私の額が弾かれた。なかなか洗練された仁王先輩のデコピンは無駄なく痛い。じわりと目尻に涙が溜まり力一杯額を押さえた。

「頭蓋骨割れる〜〜〜〜」
「大袈裟じゃな」
「割れたら自分でくっつけるけど…」
「ホラーじゃな……………理久、」

痛みに耐えながら、私の名前を呼ぶ仁王先輩を見上げた。途端に額を覆っていた私の手は先輩の手によって外されたかと思うと額に柔らかな感触がした。

「ッ!?せ……!?」
「早く治るおまじない」

何がおまじないか。再び私は額を押さえてしまう。だって今、この人、人のおでこに、キ……!?

「あと、虫除けも必要じゃな」
「は…」

そう言った先輩はどこか妖艶で、色っぽく舌なめずりをする。まずい、と思った時には腰を掴まれもう片手でワイシャツの襟を広げられた。
抵抗する暇もなく肌が露出された首元へ仁王先輩が顔を埋めた。
歯が当たり、強めに噛まれる。少し時間をかけて押し付けられる歯はなかなかに痛い。痛みに顔を歪めれば、噛まれるのとはまた違った痛みが走った。
ピリッとした痛みは一瞬だけで、噛んだ痕をひと舐めしてようやく先輩は離れた。

「な、に、し……!?」
「虫除け」
「はァ!!?」
「じゃ、気ぃつけて行ってきんしゃい」

ひらひらと手を振って、彼は校舎を出て行った。

****

「猫宮さんごめんね、待たせちゃって………?」

しばらく呆然としていれば、幸村先輩の優しい声ではっと我に返る。気の抜けた顔で幸村先輩を見ればどうしたのと困った表情を浮かべた。

「いや……今若干混乱してて…」
「何があったんだい…」

私にも分からないです……