衝撃的な出来事があった次の日。
まだ体は万全ではないが、日吉にもらった栄養ゼリーを腹に収めポカリを鞄に入れて家を出た。
人生初の彼氏ができてしまった。
もしかして夢だったのでは?と何度も思い返していたら現実なのか、はたまた理久が作り出した虚構だったのか分からなくなってきた。顔合わせづらい。
とぼとぼと歩いていればギリギリの時間になっていた。
少し早歩きで教室に向かっていると、見知った背中を見つける。
「めぐるー!おはよ!」
少し大きな声で彼女を呼ぶと、こちらを振り返り満面の笑みを浮かべた。
「理久〜〜〜!!生きてた!!」
「いやLINE返してたじゃん」
「そうだけど〜!よかった〜〜!!」
めぐるは理久に駆け寄るとぎゅうぎゅうと手を握ってきた。
「猫宮」
廊下でめぐるとわいわいしていると背後から呼ばれる。日吉だ。
「おはよう日吉くん」
「ああおはよう」
やはり昨日のは熱にうなされた理久が作り出した虚構だったのではないか。
そう思うと自然と頭がスッキリし、日吉の顔を見ることができた。
「昨日、あれから何か食べたか?」
昨日と言われ、まさかの虚構ではなかったことが判明した。途端に理久は恥ずかしくなった。
「昨日?昨日って何?おい、ねえちょっと」
めぐるが頭上にハテナを浮かべ、理久と日吉を交互に見る。
恥ずかしさを堪え心を落ち着かせている理久を見て、日吉はにやりと笑った。
「顔赤いぞ、理久」
意地の悪そうな笑みを浮かべた日吉が、突如理久の名前を呼ぶ。つい先ほどまで名字呼びだったはずなのに。
その光景をめぐるは目を丸くして見ていた。
名前を呼ばれた理久はぎりりと唇を噛みしめ片手で顔半分を覆う。
「理久、いや日吉くん?どういうことかな?ねえ?」
状況が飲み込めないめぐるは日吉に詰め寄った。
「付き合ってんだから名前で呼ぶだろ」
「……………はああああ!!?!?!?」
まだ朝で、朝礼すら始まらない時間である。
そんな時間に、めぐるの悲鳴にも似た叫び声が校舎に響いた。
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「そんなことが……」
昼食を食べながら、昨日の出来事をめぐるに話した。
話している最中めぐるはにやにやと若干気持ち悪い顔をしながら満足気に大きく頷いていた。
「なんかもう……まさかの日吉くんで…未だに夢じゃないかと思う……」
「日吉くん、妙に理久に対して優しかったじゃん。夢ではない!」
「優しかった?」
「優しかったよ!他の女の子にあそこまでしないよ!フルシカトだよ!」
「マジか…」
途端に照れが込み上げてくる。
ぐっと目を閉じて片手で顔を覆えば、めぐるの笑い声が聞こえた。
「日吉くんなら任せても心配ないかな」
「?」
「いや、日吉くんってハッキリしてるし、ちゃんと好きな子は守りそうだし。ちょっと素直じゃないとこあるけどね」
やめてくれ、ますます照れる。
そもそも自分が日吉と釣り合うのか大変不安だ。
「でもさ……私でいいんだろうか…」
「理久"が"いいんでしょ」
「そうかなぁ……」
「そこまで興味ない子と付き合うことはないと思うよ。そういう人だよ、日吉くんは。っていうか理久可愛いんだから!自信持て!今までの彼氏の人数は!?」
「ゼロ」
「冗談だと言って」
「本当」
立海時代、少しいい雰囲気になる人は居たし告白も何度か受けた。
しかし、それらは全てとある人物によってぶち壊されたのだ。
一生祟ってやろうかと思っていたが、まあ今思えばそのおかげで日吉と付き合うことができたのだ。
少しだけ、ほんの少しだけ、初めて感謝した。ほんの少しだけな。
「もしいちゃつくなら隠れてよろしく」
「なんてこと言うの!」
めぐるのそんな一言に、理久は机に突っ伏した。