とある日の放課後、今日は一緒に帰ろうと日吉に言われその日出された課題を片付けながら部活が終わるのを待つ。
外がオレンジ色に染まりつつあった時、理久のスマホが鳴った。
日吉からかとも思ったが、めぐるからで、しかも電話だった。
「もしもし?」
『理久!?ちょ、やばい!大変!』
「え何何」
『今日男テニ、立海と練習試合だったんだけど!』
またかよ。
『切原くん!?と日吉くんがめっちゃ喧嘩してる!!!』
「今すぐ行くわ」
そう言うと通話を即座に切り、理久は教室を飛び出した。
テニスコートへ走れば、制服姿の切原と日吉が何やら言い争っている。というか切原が一方的に叫んでいるだけだ。
「何でお前が猫宮と付き合ってんだよ!!」
切原の叫び声に、理久はその場で頭を抱えた。
そうだね、中学時代の恋愛全て切原がぶっ壊してくれたもんね。まだ終わらないんだねそれ。
別に切原は理久を恋愛的な意味で好きなわけではない。よくある「仲良い友達をとられたくない」みたいなあれだ。
理久と切原は仲が良いのとはまた違う関係性とは思うのだが。そこらへんは切原としては関係ないのだろう。
「お前に口出しされる筋合いはねぇよ」
「……んだと!?」
そこで、切原が拳を作った。
理久はそれを見るや否や駆け出す。
「やめろ!!!」
切原が日吉を殴るより前にとりあえず横から蹴飛ばす。咄嗟のことに対応できず、切原は転がっていった。
「って……あー!!!猫宮!!お前どういうことだよ!!」
「どういうこともこういうことも、お前こそどういうつもりですか?」
「何でお前日吉と付き合ってんの!?」
「え?切原に関係ある?」
「ある!」
「説明してごらんなさい」
「俺のほうが先に知り合っただろ!!」
「説明はそれで全部か?」
思っていた通りだ。
自分が先に仲良くなっているんだから、自分が一番じゃないと気が済まない。彼氏なんて作ったら自分が一番じゃなくなると思って幾度も理久の恋愛を邪魔してきたのだ、切原は。
「いい加減私離れしてよ、あんたがそんなんだと私一生彼氏できないようなもんじゃん」
「だっ……て、だって彼氏なんか作ったらそいつが一番になるんだろ!」
「当たり前じゃない?」
「じゃあダメ!」
「無理」
「何で!?」
「彼氏と男友達が同列になるわけないでしょ?彼氏と女友達ならまだしもさあ……彼氏ほっといて男友達優先させる奴頭おかしいでしょ」
理久がそう言ってやると切原は唇を噛み締めて押し黙った。
地面に座り込む切原の前にしゃがみ込み、理久は切原の顔を覗き込んだ。
「………勉強なら、たまには、たまには!見てやるから、日吉くんにちょっかい出すのやめろ」
「………」
「返事は」
「………」
「おい」
「…………わかった」
「よし」
切原に手を差し出せば、彼は少し泣きそうな顔をして理久の手を握る。そのまま理久がかなり、いやだいぶ頑張って引っ張ってやった。
「そんなんだとあんたこそ彼女できないよ」
「いらねーし」
「とか言って〜」
「うるせー馬鹿」
拗ねた態度で切原は顔をぷいと背ける。根は悪いやつじゃない、わかってはいるがまだまだ中身が子供で手を焼くなと理久は溜息を吐いた。
理久はそのまま幸村達のほうを見やり、にっこりと微笑んだ。
「野放し、ダメ、絶対」
「……ごめん」
お前ら先輩が止めないでどうする。暗にそう言えば幸村は申し訳なさそうに目を伏せた。
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「切原が迷惑かけてごめんね」
「いや別に」
ようやく帰路につく。
隣同士で歩く日吉との距離は、前にも比べて近くなった。
「まあ、中学時代、あいつがひたすら私の恋愛邪魔してくれたおかげで日吉くんと付き合えたわけだから、ほんの少しは感謝してるけども」
ぽつり、と理久が呟く。若干照れがあるものの、薄暗い今の時間では気づかれないだろう。
そう思ったのに。
「ッ、」
突然手を掴まれ、思わず日吉を見上げる。
切れ長の涼し気な目がこちらを凝視していて、目を逸らしたいのに、逸らせない。
「よく聞こえなかった」
「ん!?もっかいは言わないよ!?」
「もう一度聞きたいんだが」
「無理だわ!」
ぶんぶんと頭を振って拒否をする。あんなのをもう一度、しかも面と向かって言うとか拷問か。
絶対に言えないと、硬く口を結ぶ。
そんな理久を見て、日吉がフッと笑った。
「じゃあ後で、聞くとする」
「いやだから……っ」
途端に唇に柔らかいものが押し当てられる。
薄くも絶妙に柔らかなそれが、彼の唇だということに気づくまであと数秒。