ん゛ー……最悪だ…ゲームのし過ぎなのか親指の関節が痛い。これは腱鞘炎かもしれない。あと何故か肘も痛い。
そして昨日の晩御飯中に噛んだほっぺの内側も痛い。これ口内炎になるやつだ。
ああーていうかイベント……はよ帰って走りたい…
そんなことを考えていたらいつの間にか授業は終わっていて、すぐさま次の授業の準備をするとポケットからスマートフォンを取り出した。
ほっぺの内側が痛い、あと親指も痛い。
ぐーっと眉間に皺が寄るのが分かったが、まあ誰も見ていないからいいだろう。
「理久、何ぶっさいくな顔してんだよぃ」
「ぶっさいくて」
失礼極まりない言葉をかけてきたのは目の前の席に座る丸井ブン太だ。立海三年、テニス部。「だろぃ」が可愛いテニプリのキャラクターだ。だが今はそんなの関係ねぇ、今すぐ謝れあたしに。
「いつも思うけど丸井くん失礼過ぎじゃないかな」
「フランクな接し方って大事だと思うんだよ」
「お前のはフランクじゃない、ただの無礼だ」
「いいじゃねーか理久なんだし」
「軽んじられてる…あたしの存在軽んじられてる……」
「つーか名前で呼べって言ってんじゃん」
「ああ、丸い」
「丸井だよ!!!!丸くねーわ!!!」
「えーあたし丸井って言ったし」
「嘘つけ!!!じゃなくて、名字じゃなくて名前で呼べっつってんの!」
「ブ「ブタって言ったらぶっ殺す」…言わないし……」
まだ言ってないし……
「仲ええのうおまんさんら」
にやついた顔でこちらを見やるのは仁王だ。くそ、本当お前の色気は酷いもんだな。
「ほら、仁王くん寂しがってるから構ってやれって丸い」
「それもう一度呼んでみろ、こないだ幸村くんに仕掛けるいたずら考えてたことバラすからな」
「仕返しがえげつない!やめて!」
ギロリと丸井くんに睨まれごめんなさいと謝る。それだけはやめてほしい、そんなことがバレた暁には再起不能にされる。イップスどころではない。
「待って待って仁王くん『いいこと思いついた!』みたいな顔しないでやめて本当にやめて言わないでね」
「何がじゃ?何も考えとらんぜよ」
「にやにやしてるじゃん〜めっちゃにやにやしてるじゃん〜何も考えてなくないじゃんその顔〜」
「人の顔にケチつけなさんな、生まれつきじゃ」
ふふ、と仁王くんは笑ってますます何を考えているか分からない。ちくしょう、こうなったらどうにか幸村くんから逃れる方法を考えたほうが早いか。
いやあの幸村くんだぞ…………逃れれる自信がない……顎に手を当てどうしようか考えていると、目の前のブ…丸井くんはガサガサとお菓子を開け食べ始めた。
「丸井くんお前!!それあたしのお菓子じゃねーかどうりでさっきの休み時間に食べようとしたら無くなってるなって思ったんだよ!!お前かよ!!」
「食う?分けるか?」
「あたしのだっつってんだろ!!」
「そうカッカすんなってー」
「てめーのせいだよ!!!!!」
****
昼休み、時間が余ったのでぷらぷら廊下を歩いていると真田くんと柳生くんにバッタリ会ってしまった。真田のゴリラみがやばい。
「ねえ真田くん」
「どうした?」
「丸井くん休み時間の度にお菓子食ってんだよどうにかしてよ」
「なんだと……?いくら注意しても治らないな…うむ、部活の際また注意しておこう」
「本当頼むよ……あたしの非常食の飴も盗むんだよ…盗むんだよ!?犯罪だよ!?」
「まったく……猫宮にはいつも迷惑をかけてばかりだな」
「頼んだよ!真田くんマジ頼んだよ!あたしの恨み晴らしてくれ!」
鬼気迫る勢いでそう叫ぶと、真田くんは勢いに押され「う、うむ」とか困った顔をしていた。食べ物の恨みは恐ろしいんだ、あいつだって分かってるくせにちくしょう!!
すると、話を聞いていた柳生くんが少し笑った。
「相変わらず仲がよろしいのですね」
「これが仲いいのであれば真田くんにこんな頼み事しないんですけど」
「よく部活で話してますよ、丸井くんと仁王くんが。『今日理久がー』と」
「何を話してんの?あいつら何を話してんの?」
「それを幸村くんが楽しそうに聞いています」
「幸村くんに喋っちゃってんの!?何してくれてんの!?」
「それだけ猫宮さんとお話するのが楽しいんでしょうね」
「お話なんて可愛いことしてないんだけどな……」
あたしは必死だと言うのに、柳生くんはただ微笑むのみ。やめてくれ、微笑ましいみたいな顔やめてくれ。何も微笑ましくないんだよ、毎時間毎時間絡まれるあたしの身にもなってくれ。
柳生お前こそ楽しんでるだろエセ紳士が………大変むかついたので柳生くんに軽くパンチをしておいた。それでも彼は笑って「お二人の面倒よろしくお願いしますね」と言った。そっちが本音じゃねーか
****
放課後、何故かあたしはテニス部の部室で待たせられている。
幸村くんに呼び出されたはいいが、終わるまで待ってろと言われ誰も居ない部室で居心地悪そうに座っていた。
何……あたしまだ何もしてないし………は?もしかして丸いあの野郎バラしたのか?いやいやまさかそんな……ないない…
気持ちを落ち着かせる為に口に放り込んだ飴が噛んだ傷に沁みる……痛い…
うーん………暇だ……しばらく部室の中を見渡していたが、そろそろすることが無い。
親指は痛いけれども暇ならゲームをするしかない。誰も居ないので音量を大き目にしてアプリを開いた。
「なんッ」
ゲームしていると自然と声が出る。特にミスした時とか、あるあるではないだろうか。
あーくっそ、今の曲もう少しでフルコンきそうだったのに……ちょーっと難しいんだよなぁ……
「むかつく……」
「何が?」
「うぎゃあああああああ」
突然真後ろから声がして、椅子から転げ落ちた。床に顔面を強打して、痛くて涙目になる。うおおおおお鼻潰れてない…!?
「傷つくなぁ」
「いやいやいや……妥当な反応だと思うんだよ幸村くん…いつから居たの……」
「アプリ開いたところから?」
「声かけてよ!!」
そうしている内にぞろぞろとレギュラー陣が部室に入ってきた。どうやら部活が終わったようです。帰っていいですか?
「幸村くんあたし帰っていい?」
「だめ」
「何で!?」
「俺に仕掛けるいたずらの概要を聞こうかと思って」
「おい丸い!!!!バラしたな!!!!」
「俺じゃねーよ仁王だよ!!丸いって呼ぶな!!!」
「仁王くんお前!!!!!」
「プリッ」
「仁王くんこっち見ろ!!シカトすんな!!」
「精市に仕掛けるいたずらか……猫宮の新しいデータだな」
「やめてくれ!書き留めるのはやめてくれ柳くん!それは文字として残してはいけないものなんだ!!」
柳くんの持つペンを奪おうとするも軽やかに躱される。躱された直後頭上から嘲笑うような笑い声が聞こえた。くそ!!ちくしょう!!ただでさえ死亡フラグ立ちまくりだってのに記録に残されたら!!永遠にネタにされる!!
「部長にいたずらしようとするなんて命知らずっスねー理久先輩」
「何なら道連れにしてやるぞ切原…」
「嫌っスよ!!!」
「そんなこと言うなよ、後輩なんだから言うこと聞け」
「理不尽!!」
「あとジャッカルくんもな」
「俺も!!?」
「君はあたしを見捨てないって知ってる」
「いや無理無理無理無理」
「何で?」
「何で!?何でってお前………」
ジャッカルくんがしどろもどろになったところでスマホが無いことに気づいた。
そういやさっき椅子から転げ落ちた時から無い……どこ行った?
キョロキョロと辺りを見渡すと、目を疑った。あたしのスマホは何故か幸村くんの手にあり、まさかとは思うがゲームをプレイしているようだった。
「ゆ…幸村くん……あんた何して……」
「何かフルコンボって出たよ」
「は……」
何だと……?警戒しながら幸村くんに近づきスマホの画面を覗き込む。
「初めてやってみたけど、結構楽しいんだね」
「うわああああああああああこの曲!!!スコア抜かれたしかもフルコンて!!!!あたしずっと出来なかったのに!!!」
「できちゃった」
「馬鹿あああああああああああ」
「馬鹿?何?それ俺に言ってんの?」
「おーっとそういや真田くん!!昼間のあれ!!言ってくれた!?」
「む?ああ!丸井!!」
「何!?何だよぃ!!」
目がキラリと光った幸村くんから逃れるため、真田くんに昼間の話を振る。
あのゴリラ言ってなかったな!?あんだけお願いしたのに!!!!
「休み時間の度菓子を食べてるらしいな!!あれだけ控えろと言っただろう!!」
「理久てめぇ!!!チクったな!!!」
「お前があたしのお菓子盗むからだろ!!!」
「理久が持ってくるお菓子って俺のためだろ?分かってるって照れ屋かよ」
「何?丸井くんの脳みそって砂糖なの?どうやったらそんな考えになるの?ゾッとしたんだけど」
「理久、俺との話が終わってないよ」
ガシッと肩を掴まれ、恐る恐る振り返ると綺麗な笑顔の幸村くんが居た。
恐怖で全身が震えた。彼の笑顔に、あたしは口から乾いた笑い声しか出なかった。
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「っていう夢を見てね、あたし心から四天宝寺でよかったなって思った」
「なんちゅー濃い夢見とんねん…」
「出会えたのが白石で良かった…」
「そらおおきに…」