日吉と付き合い始めて分かったことは、彼はそこそこ嫉妬深い。
とは言え表立って嫉妬するわけではなく、二人きりになった時だけだ。
理久が男子と話していても気にしていないように見えてしっかり見ている。
「で、お前はいつまで俺を名字呼びなんだ?」
「えー……っと」
今日は日吉宅へお呼ばれしたため、初めて日吉の部屋へ入った。普段の彼からも分かる通り綺麗に整頓された部屋で理久は深く感心した。
しかし、今日来たことを若干後悔している。何せ学校と違い逃げ場がないのだ。
逃げ場がない上にしっかりと腕を掴まれている。
「いや……まだ恥ずかしさがね、ね。私女の子以外名前呼びしたことないし…」
「へぇ」
理久の言葉に日吉は嬉しそうに表情を緩めた。
「なら尚更呼んでもらわないとな」
心の準備がまだできていないのだ、そんなことを言われても困る。
理久は必死に頭の中で逃げ道を探した。
こちらをじっと見つめる日吉は、今日眼鏡をしている。これだと理久は思った。
「ていうか何で今日眼鏡?いつもはもしかしてコンタクトなの?」
「ああ、まあな。家では普段眼鏡なんだよ」
「どのくらい目悪いの?」
理久の言葉に日吉は少し考えて、かちゃりと眼鏡を外す。
「ひよ………」
「このくらい」
ぴとり、とお互いの鼻先がくっつく。
思わぬ距離に理久の呼吸が止まり、ばくばくと心臓が脈打っている。
「なあ」
「……ハイ」
理久の声が上ずった。
「名前、呼べよ」
日吉の歯が、かぷりと理久の唇を甘噛みした。そのまま優しく唇を食まれ、日吉の吐息を感じる。
理久は腰が引け、無意識にも後退ってしまうがそれを許す日吉ではない。
腰を掴まれ上半身をぐいぐいと押される。その結果、日吉の力に負けた理久はそのまま床に押し倒された。
「名前呼ぶまでこのまま、な」
「待っ…」
再びキスの嵐が降ってくる。
いやいやこの状態じゃ呼べるものも呼べないだろうと理久は思った。
酸欠になりかけている体内に、強制的に空気が送り込まれる。鼻腔を日吉の微かな香りがくすぐり、ますます頭の中は霞がかっていった。
「理久」
少し満足したのか、日吉の唇が離れた。
理久は肩で息をしながら顔を背ける。これはヤバいこれ以上は本当に死んでしまうかと思った。そもそもファーストキスですらつい最近なのにいきなりここまでハードなのは勘弁していただきたい。
きっとここで名前を呼ばないと、再開されてしまう。
理久は意を決した。
「…………あー……若、くん」
ここまで照れるのはキャラじゃないと思いつつ、恥ずかしいから仕方がない。
今までにないくらい顔が赤いだろうと自覚しながら片手で目元を隠した。
「もう一度」
「ッ、」
目元を覆っていた手を強引に外される。自由だったもう片手までもが日吉の手によって床に縫い付けられ、今度こそ完全に身動きが取れなくなった。
こちらを見下ろす日吉の表情は意地が悪く、それでいて妖艶だ。
「〜〜〜ッ、もー!!無理!恥ずかしい死ぬ!!も少し時間ちょうだいよ!!」
「いやだ」
「いやだって何!?」
「早く慣れろってことだよ」
「無茶言わないでよ〜…」
泣きべそをかきそうな顔をする理久を見て、日吉はおかしそうに笑った。
そのまま理久の額に口づけ、にやりとする。
「今日は慣れるまで帰さねぇ」
「はー!!?!?」
地獄はここからだった。