Dazzling

二年の冬、放課後の教室へ行くと、男子数人が何かを囲んで談笑していた。

「何しとるん?」
「おお、白石か。いや、別の小学校から来たやつの卒アル見とってん。その小学校から結構四天宝寺来とるやろ?なんやおもろいモンないかなー思てな」
「何かおもろいモンあったか?」
「特にみんな変わらへんかったわ!」

豪快に笑うみんなにつられて俺も笑ってしまった。
ま、そうやろな。何十年前の写真てわけでもないんやし、そこまで変わらへんやろ。

「あ、変わった言うたら……この子、いっちゃん変わったんやないかな」

そう言いだしたのは、その卒アルを持ってきた奴やった。
どれどれとみんなで卒アルを覗き込むと、一人の女の子を指さした。
ちょっとふっくらした女の子だった。

「え!これ猫宮なん!?マジ!?今めっちゃ痩せてるやん!」
「そうそう、何があったんか知らんけど、ここ2年くらいでめっちゃ痩せたんやで」
「へー意外やわ……人間ここまで変わるもんなんやなぁ」

猫宮……聞いたことあるようなないような…まあ関係あらへんか…

****

そんな会話も忘れてしまっていた三年の秋。
部活は引退し、余り過ぎていた時間を勉強へと費やしていた。
かといって全て費やせるわけじゃない。聖書と言われる俺やって勉強は疲れんねん。
土曜日の夜、勉強に飽きたのでふらりとコンビニへ向かう。
秋とは言えまだ暑いなぁ、なんて考えながら近くのコンビニへ入ると、見覚えのある顔が居た。

「猫宮さん?」

そう声をかけると、彼女は少し吃驚した顔でこちらを向く。

「白石くんかびっくりした……今晩はー」
「今晩は。こんな時間に何しとるん?」
「ライブ帰り!!!」
「えっあ、」

ライブTシャツなんやろな、自慢げにTシャツを伸ばし俺に見せてくる。

猫宮さんと話したことは殆どない。同じクラスではあるけども、席も近くないし接点が全くない。

「白石くんこそこんな時間に何してんの?」
「勉強飽きたから息抜きや」
「……勉強…嫌な単語………」
「猫宮さんもちゃんと勉強せなアカンよ〜」
「そうね……」

表情を青くしながら苦しそうに胸を押さえる彼女に、自然と笑みがこぼれた。

「はあ……帰ってライブの余韻に浸るとするか…じゃあね白石くん」
「あ、ちなみに何のライブ行ってきたん?」
「これこれ」

スマートフォンを取り出し、俺に画面を向ける。
何か知っとる気ぃする……名前だけは聞いたことあるわ

「周りに聞くとそこまで認知度高くないんだけど、ちゃんと実績のあるカッコいいバンドだよ!チケットも最近競争率高くて挫けそう」
「そうなんや、時間あったら聴いてみるわ」
「マジ!そん時は感想聞かせてね!ばいびー!」

ぶんぶんと腕を振り去っていく彼女に、また笑ってしまった。
元気な子やなぁ

家に帰り、妹の友香里にふと問いかける。

「友香里、このバンド知っとる?」
「あー知っとる知っとる!たまに聴くで」
「そうなんや」
「うち焼いてもろたCDあるで。聴く?」
「マジか、ちょお貸してくれ」
「珍しいなぁ、クーちゃんがこういう曲聴きたがるなんて」
「ま、たまにはな」

****

休み明け、登校してきた生徒達でごった返す中、猫宮さんを見つけた。
友香里から借りたCDを聴いて、予想以上にかっこよくて、猫宮さんに伝えたくなった。

「猫宮さん、おはよう」
「おふぁよう白石くん…また会ったね」
「ほぼほぼ毎日会うてるけどな」
「そうでした」

けらけら笑いながら歩く彼女にあの話を切り出す。

「猫宮さんが言うてたバンド、帰って聴いてみたんやけど」
「はやッ!そんな無理しなくてよかったのに!」
「無理したんとちゃうよ、たまたま妹がCD持っとってなぁ。めっちゃ良かった…」
「マジ!えええええめっちゃ嬉しい……」
「特にこの曲とこの曲が良かったわ〜」
「うわー!白石くん分かる男だね!何今日めっちゃいい日じゃんあたし明日死ぬのかな!?」
「そんなに!?」

大袈裟にもとれる反応だが、彼女は本気らしい。それ程このバンドが好きなのだろう。
物凄く目がキラキラしていて、活き活きとしている。
そんな彼女が眩しくも感じた。好きなことに全力でぶつかる人というのはどうしてこんなにも魅力的なんやろなぁ
ふと気が付くと、俺は猫宮さんの頭を撫でてしまっていた。

「そんなに子供のようにはしゃいでたかあたしは……」
「あっ、いや、そういうことやなくてな…」
「いいんだ……よく言われる……いいんだ…」

遠くを見つめショックを受ける彼女を慰めながら教室へ向かった。

それからちょくちょく話すようになった。
と言っても全て俺から話しかけているのだが。
話題と言ったらあのバンドのことだ。
日中、彼女のことを観察していると分かったことがある。
休み時間はずっとイヤホンをしてゲームをしているようだ。かと言って友達が居ないわけやない。
昼ご飯は友達と食べているようやった。
そしてあれだけ好きなバンドの話を一切してへんようやった。
なんでやろ、あんなに好きなら友達と話すもんちゃうんかなぁ……ああ、認知度低い言うとったか…
あと、一切俺に話しかけてこおへん。
別にそれが不満なんやない、ちょっと話すようになった女の子は大体頻繁に話しかけてくるようになるからや。
なんか、さっぱりしててええなーと思う。そういう子周りに居らんかったから。
話したい時に話して、話しかければ普通に応えてくれて、特になんもない時はお互いそれぞれの時間を過ごす。

とても距離感の取り方が上手い子やな、そう思った。
この距離感は明らかに彼女がそうしているのだ。俺だけに限らず、自分の周りに対してもそうや。
俺ら周りの奴らが自分に対して可もなく不可もなく接せれるよう、彼女が上手く距離を取っているのだろう。
俺にはそう見えただけやけどな。ホントのところはわからん。


そんな時、ある出来事が起きた。
たまたま見てしまった。
校舎の一番端で、猫宮さんが数人の女子に囲まれとった。
ただ彼女と話がしたくて、でも連絡先交換してへんし、彼女の友達に聞きながら探していた時やった。

「猫宮さんあんた、白石くんに仲良うしてもろて調子乗っとるんやない?」
「別に調子なんて乗ってないよ…ただ話してるだけじゃん」
「たまたま相手にされとるからって、白石くん独占せんとってよ!」
「独占してないし……ていうかあなた達の白石くんでもないでしょ…」
「なッ…!」

途端に乾いた音が響き渡る。

叩かれた頬を押さえ、気だるげな表情の猫宮さん。

「何しとるん」
「えっ、あ、白石くん、これは…」
「俺が誰と仲良うしようが、君らには関係あらへんやろ?」
「で、でもこの子ばっか相手してうちらのこと最近構ってくれへんやん…!」
「自分の話しかせえへん君らと話すくらなら猫宮さんと話しとったほうがよっぽど有意義やねん」
「なんやそれ………!…白石くん知っとるん?猫宮さんめっちゃ太ってたんやで?ほら!ほんま醜いわ!」

猫宮さんを叩いた女子が俺にスマホの画面を向けてくる。
……どこかで見たことがあるような…

「………ああ、知っとるでこれ。そうか、猫宮さんやったなぁそういえば…で、これがどうかしたん?どっちも猫宮さんには変わらへんやろ」

そう突っぱねると、猫宮さんを呼び出した子らは顔を赤くして走ってどこかへ行ってしまった。

「……みっともないとこ見られた…ごめんね白石くん…」
「何で謝るん……そもそも俺のせいやんか。ホンマごめんな」

怒っている、というわけでもなく悲しんでいるというわけでもなく。
めんどくさそうな表情の彼女は、叩かれた左頬を右手でさすっていた。

「ホンマごめん」

その一言と一緒に、叩かれた頬を撫でる。
彼女は少し吃驚していたが、大丈夫だよと、いつもの笑顔で笑った。

****

放課後、二人で話をするために一緒に帰り、寄り道をした。
近くのファミレスに入り各々好きなものを頼む。

「いやーまさか白石くんが知っているとは…なんで知ってたの、あたしが太ってたこと…」
「んー、去年なんかアルバム持って来とった奴が居って、それで見たんやった気ぃしたわ」
「いいんだけどさ……今追っかけてるバンドのライブ行く為にダイエット頑張ったんだー、ご飯抜くとかじゃなくて、ちゃんと運動してね!?ちょっと時間かかったけど、ここまでスッキリ痩せました!」
「ホンマ偉いと思うわ、猫宮さん出来る子やね」
「もっと褒めて」

にんまりと笑って照れる彼女はとても可愛らしく、一瞬、無意識にも大事にしたいと思った。

「そんな好きなバンドやのに、周りには勧めへんねんな」
「あたしは好きだけど、勧めた子が好きになるとは限らないでしょ?相手が自分から聴きたいと思わないと、本当にそのバンドを聴いてはもらえないから。白石くんみたいに、自分から聴きたいと思ってくれて、好きになってくれた人とだけ話したいんだよねぇ」
「ちなみに俺以外に居る?」
「居ない」
「ほな俺が第一号か」
「そうだよー、唯一だよ!だから話しかけてきてくれるのすごい嬉しかった」
「その割には俺には話しかけてくれへんねぇ」
「あまりゴリ押ししに行くのも嫌だし、あとゲーム忙しくて」

なんか、二の次にされた気がして少し面白くない。

「ええなあそのバンドは…」
「何が?ライブ行く?チケット取るよ?」
「猫宮さん、どんくらいそのバンド好き?」
「一生ついて行きたいってか一生ついて行くくらい好き」
「そんくらい、俺のことも見てくれたら嬉しいんやけどなぁ」
「…?」

一種の告白にも取れる発言に、ハテナを浮かべて彼女は固まる。
彼女が俺の言葉を理解するまで、あと5秒。