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理久が気分転換に学校の中庭をふらふらと歩いていると、木の側を通ろうとして思い切り何かに躓いて転んでしまった。
打った膝も痛ければ地面についた手のひらも痛い。涙が出ちゃう、女の子だもん。

「いたぁ…」

どうやら自分が躓いたものは人間だったらしい。申し訳ないことは申し訳ないが私だって痛いと理久は嘆く。

「すみません、足元ちゃんと見てなくて…」
「あー……あ…膝、血出てるよ」

金髪の彼がむくりと起き上がると、理久の膝を見て眉を下げた。

「待ってねぇ、今日吉呼ぶから」
「いやいや別に呼ばなくても………え?何故わか……日吉くん?」

どうしてここで日吉が出てくるのだと理久は首を傾げる。
金髪の彼は器用にスマホを操作して、それが終わるとポケットにしまった。

「だって、日吉の彼女でしょ?」

そう言われて、理久は頭をフル回転させる。
誰だ、誰だこの人は、いつどこで会った?日吉の知り合いということは……テニス部………?

「大丈夫?痛くない?」

血が滲む理久の膝を見て呟く。

「大丈夫ですよ。あのほんと、思い切り躓いちゃってすみません…」
「Eよ〜、そこまでダメージ受けてないC〜」

へらり、と人懐っこい笑みを浮かべる彼に理久もつられて顔が緩んでしまう。何故だか彼を見ていると眠くなる。何故だ。

「芥川さん…!」

二人でにこにこしていると聞き覚えのある声が聞こえた。

「あー来た来た」
「…理久」
「ははは…」

若干呆れ顔の日吉に理久は乾いた笑いを零す。

「ごめんね〜俺に躓いて怪我させちゃったみたい」
「いや、私も足元見てなくて…ほんとすいません……」
「いい子だね〜」

いい子いい子と芥川に頭を撫でられ、理久は硬直してしまう。漫画ではよく見るけどいざ自分がされると戸惑ってしまう。最高に恥ずかしい。
目の前でにこにことしている芥川を戸惑いがちに見ていると、突然頭から手が離れた。

「芥川さん、触り過ぎです」

普段より少し低めの、あれちょっと怒ってらっしゃる?といった声色の日吉の声が聞こえた。

「あ〜、怒った?」
「ノリませんからね」
「ちぇ」

少し険しい表情の日吉を見て、芥川はふふっと笑う。

「じゃ、ちゃんと手当してあげてね〜」

まるで雲のように掴めない人だと、理久は芥川の背中を見てぼんやり思った。

「理久、大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫」

立ち上がろうとする理久の手を強引に日吉が掴む。強い力に思わずふらついて、顔面を日吉の胸元にぶつけた。膝並みに痛い。

「上も下もなんかもう全部痛い…」
「割と鈍くさいところあるよなお前」
「うっさいんですけど…」

ぶつけた鼻をさすっていれば、不意に頭を撫でられる。何故?と不思議に思い日吉を見上げれば、感情の読み取れない切れ長の目と視線が絡んだ。

「若くん…?」
「頭、撫でられんの好きなのか?」
「え?何故?」
「……さっき、そんな顔してた」
「喜んだ顔してたってこと!?うっそ!?違うわあれどうしたらいいか分かんなかったんだよ……!あんなナチュラルに頭撫でられることなんてそうそうなくない!?漫画の世界だけかと思ってたよ!」

ぐわーっとぶちまければ、日吉は数秒キョトンといた後肩を震わせて笑いだした。

「笑うな!」
「ふ、っはは、面白いものが見れたな」
「うるさいよ!」

何故かよく分からないが途端に恥ずかしくなって、両腕で顔を覆った。

「悪かったよ」
「思ってないでしょ!」
「…まあ」
「否定しろやい!」
「理久」
「何!」
「顔、見せろ」
「いやです!」
「つーか早く保健室行くぞ」
「一人で行けます!」
「理久、」
「一人で!行くわ!」

引っ込みがつかなくなり意地になっていると顔を覆っていた腕を無理矢理外された。日吉と目が合う。
愛おしいものを見るような、嫌でも気付いてしまうそんな甘い視線にたじろいでしまった。
何で今そんな顔をするのだ。全く訳が分からない。

「保健室、行くぞ」
「………ハイ」

理久の窺い知れないところで彼の愛は膨らんでいく。