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人生とは、何が起こるか分からないからこそ面白くもあり苦を感じる。
何が起こるか分からないからこそ、学び、失敗をして、成長していく。

人生とは、一度きりである。
魂は輪廻転生を繰り返しているというが、自我を持った人間というのは唯一無二の存在だ。魂が同じだとしても人間性は丸っきり赤の他人のようなものだろう。
前世の記憶があるならともかく、だ。


猫宮理久は現在中学一年生。理久の記憶では"二度目"の中学生だ。
何故二度目なのか。
それは理久に前世の記憶があるが故、所謂転生というやつだ。
転生した世界は幸いにも前世とい大して変わらない世界だった。

「しかも、テニスの王子様の世界っていうね…」

そんな理久の独り言は空中に溶けた。
今世の理久とは、きつい印象を受ける軽い化粧に、明るい茶色の長髪、毛先は緩く巻かれ、見た目は完全にギャルだ。
前世の理久からは想像もできない程に目立つ容姿をしている。
中学一年生で化粧やら茶髪なんてどうかとは思ったが、これは理久の作戦なのである。

「大人しくしてると逆にエンカウント率が上がる気がするんだよね…見た目派手にしときゃ逆に接触ないでしょ」

巻かれた毛先を指に絡め理久は再び独り言ちた。
人の気配のない屋上で、フェンスに背を預けながら小さく息を吐く。まさか自分が転生するなんて思わず、思い出した時の衝撃といったらなかった。
目を閉じて記憶を蘇らせる。前の自分はどうやって死んだのか分からないが、そこそこ若い年齢だったのは確かだ。
死んでしまえば、人生は終わり。コンティニューなんてあるわけがない。
人生一度きりというのは本当に言葉通りで、それ故に儚い。一度死んでみた者にしか分かり得ないこの思いに、理久はどこか他人事のような気持ちだった。
他人事のように感じつつも、しっかり自分自身に起きている事実だと理解し、今世は大事に生きよう……やりたいことはやれる限りやろう。時間の使い方は一度学んでいる。
好き放題するためには、何としてでも、テニス部との接触は避けなければならない。
いや、接触したからといって何があるわけでもないとは思う。思うが。
念には念をということだ。

幸いにも容姿良し、頭脳良し、運動神経良しの素晴らしい肉体へ生を受けた。これを上手く使わない手はない。
それに精神は大人で、外身も中身も現役中学生な子達と合うはずもなく、理久は学校で常に一人だ。好都合。
懸念することと言えば……同じクラスに日吉が居るということだろうか。話したことないけど。

「これで逆ハー主とかいれば100%安心なんだけどなぁ……まあ…いっか」

よし、と気を引き締め理久は屋上を後にした。
教室へ戻る直前に授業の終わりを告げる鐘が鳴り、教室から先生達が出てくる。それに続いて生徒達も出てきた。その波に逆らい理久は教室内へ滑り込む。

「あ、猫宮さん」

自分の席へ向かおうとしたところ、クラス委員の女の子に声をかけられた。

「さっきの時間にね、席替えしたの……その、猫宮さんの席も移動しちゃって…」
「マジか……いやいいけどさ。私の席どこ?」
「えっと、あそこ」

彼女が指差したのは窓際から4列目の後ろから2番目だった。なかなかいい席ではないか……と思ったのも束の間。
新しい理久の席の左隣には、日吉が座っていた。

「じゃ、じゃあ私これで……!」

理久は同級生達に嫌われているというか、何故か恐れられている。8割方外見のせいだろうが。
憂鬱な気持ちを引きずりながら、理久は新しい席に座る。
変わってしまった景色にぼんやりとしていれば、視線を感じた。
その視線はまさかの日吉からで、理久は日吉に流し目を送る。

「何?」
「授業サボんなよ」
「はぁ」
「お前が絶妙なタイミングでサボるから、松山が問題当てられて嘆いてたぞ」
「はは」

ドンマイ松山。
そうやって経験を積んでいくのだ。
これ以上理久に話す気がないと気付いたのか、日吉はもう何も言わなかった。

この先長い人生、テニスの住人に気を取られているわけにはいかないが、大好きだった彼らが存在しているのだ。
そこそこ眺めながら生きる糧にしつつ、人生を謳歌しようと強い決心をする理久だった。