04

図書室を飛び出した理久は質の良い脳みそをこれでもかというほどに回転させる。
これあれだ、ハンカチ返してもらう時にガッツリ接点持ってしまうやつだ。どうする、どうするこれ。
幸い学年と名前しかバレて………もう9割バレていらっしゃる。瀕死だわ。
だがしかしクラスまではバレていない。そこそこ大きい学校なのだ、クラスが分からないと人探しは難航するだろう。
きっとあの跡部達なら、彼女が私を探すことを良しとしないし何も協力してはくれないだろう。
あとはクラスの、日吉だ、日吉を口止めさせよう。
彼女はとりあえずテニス部の一年に聞き回りそうな気がする。鳳とも樺地とも対面したことがないから顔はバレてない。
問題は!日吉だ!あいつをどうにかせねば!!

「……ぬれせんだ、ぬれせんを賄賂にするぞ」

中学で好物がぬれせんて何なんだよと当時思ったけど、これほど印象に残る好物であったことが有難い。思い出せてよかった。
部活が終わるまでまだまだ時間はある。
不幸中の幸いか、つい先日親戚に煎餅の詰め合わせを貰ったことを思い出し、その中にはぬれせんがあったはずだった。他の煎餅ごとくれてやれと、理久はダッシュで学校を飛び出して行った。

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スマホの時刻を見ればもう間もなく部活が終わる時間だ。理久はじっと建物の陰に隠れ、下校する生徒達を凝視している。
その中にはあの美少女美歩と共にワイワイ帰るテニス部二年が居た。
美歩は笑ってはいたが始終暗く、どこか寂しそうだった。そして手には理久が貸した(奪われた)ハンカチが握られている。もうそれそのままあげたいわ。
若干遠い目をしていると、見知った人物が現れた。日吉だ。

「日吉!日吉!」
「ッ!?」

陰から少し大きめの声で呼ぶと、日吉はびくりと肩を揺らして周囲をキョロキョロと見回した。

「こっち!ちょい!」
「…………お前何やってんだ?」

訝し気な表情でこちらへ寄ってくる日吉の腕を掴み自分が隠れていた場所へ引っ張る。
その行動に日吉は驚いて目を丸くしていた。

「何なんだよ…」
「今新しくマネージャーになった先輩いるでしょ!あの超美少女の!」
「……ああ」
「もしあの人に私のこと聞かれても絶対!何も!答えるなよ!」
「は?」
「お願いだから!何も言わないでおいて!私のことは知らないと言うのよ!」
「……何かあったのか?」
「そこは聞かないで」

理久がスッと遠い目をする。何もなかった、ああ何もなかったんだ。あれは夢だ。……本当に夢だったのならよかったのに。

「てなわけでさ、なんか日吉和菓子とか好きそうだし家にあったのだけどこれ食べて。ね。これでチャラにしてくれ」

紙袋を日吉に無理矢理押し付ければ少し動揺したように力なく紙袋を受け取った。

「これ……」
「中身お煎餅だよ。じゃ!!本当にマジで!頼んだよ!さいなら!!」
「待っ……」

よろしくなと日吉の肩を叩き、再び理久はダッシュでその場を去った。

「…何だ、あいつ」