05

今目の前に映し出されいている光景に理久は眩暈がした。
考えることを放棄してしまいそうなその光景に何とか思考を巡らせる。

「日吉………」
「…何かすまん」

視線だけ日吉に移すと何とか絞り出した声で元凶の彼の名前を呼んだ。
日吉にお煎餅という賄賂を渡した数日後の昼休み。あろうことか彼女がうちの教室にやってきた。
そう、何故か目の前に美歩さんがいらっしゃるのである。日吉が連れてきたわけではなかったが、彼女が来た原因はほぼ確実に日吉だと言っていいだろう。
彼女に愛想笑いをしながら日吉を引っ張るとコソコソと小声で文句を言う。

「この間お願いしたよね…!?!?」
「いや、まあ、そうなんだけど」
「そうなんだけど何!?」
「ちょっと失敗した」
「バッッッッカヤロウ」

小声で、しかし力強く吠えればうるさいと日吉に叩かれた。叩きたいのはこっちなんだが???
何でも部活中にハンカチを握り締めている彼女を不思議に思ったらしく、どうしたのか聞いてみたら、ハンカチを貸してくれた子を探しているという。
綺麗に化粧をしていて、髪が巻かれていて、跡部が名前を言っていたが忘れてしまったらしい。一年であることは覚えているが、探しに行こうにも行きづらいと困ったように打ち明けられたのだそうだ。

そこから何故こんなことになる?と日吉を凝視していれば、彼は申し訳なさそうに目を逸らした。
ちょっと把握してしまった。把握してしまった自分に何とも言えない感情を覚えてしまった。

「俺が居る教室なら行けそうだから、その探している人が居なくてもいいから見に行っていいかって言われて…」
「ああ…」

理久は思わず天を仰いだ。
すごいな、一発で大当たりですよ美歩さん、これがヒロイン力ってやつですか?

「あ、あの」

そうこうしているうちに背後から声がした。
思わず振り返れば美歩はもじもじしながら理久を見つめ、何か言いたげである。

「あ…あー!ハンカチの人ですよね!わざわざ返しに来ていただいてありがとうございます!」

わざとらしく明るく声をかける。
もうこの際勢いだ、勢いでどうにかしよう。
普段の理久からは想像つかないような明るい態度に日吉を初め周囲のクラスメイトが少々ドン引きしたような表情を浮かべていた。
失礼極まりない。

「私こそあの時ハンカチ貸していただいてありがとうございます…!それであの、よかったら…!」

やば、
思った以上に彼女が素早くまくし立てる。うそうそ待って、

「私とお、お、お友達になってください…!!!」

彼女を静止しようと理久が伸ばした手は虚しく空中で止まる。
勢いでどうにかしようと思ったのは自分もだが、自分より勢いつけてこられるなんて聞いていない。
充分に目を泳がせた後日吉を見やれば、彼は少し逡巡した後「友達できてよかったな!」と軽いガッツポーズを送ってきた。
うるせえぞ。