01世界拡張

「だあああああああああああああめだ、わからん」

そう叫びながら理久は教科書を放り投げた。

「受験生ってホント気分落ち込むよね……もうやだ、勉強したくない…」

同感だと言わんばかりに友人の咲良が机に突っ伏した。


今二人は咲良の自室で受験勉強中である。
高校三年生の彼女達は、理久は専門学校、咲良は短大、それぞれ目標があり合格するため一心不乱に勉強中、なのだが

「つらい、高校入る時もそうだったけど勉強つらい、受験つらい、落ちたらどうしよう怖い」
「落ちないために勉強してるんだけどねー………すればするほど不安しかないんだけど…」
「うふふわかる。お花畑が見える」
「理久それちょっとまずい」

大の字に寝転がり、虚ろな目をしながら理久は微笑む。
ああ、高校一年生に戻りたい。
いや今だって楽しい。高校からできた新しい友達と学校で会うことは様々な悩みを飛ばしてくれる程に楽しい。
良い友人達ができたものだ、常々そう思う。

「……咲良ぁ、休憩しよ…」
「奇遇ですね同じこと思ってたよ」

二人は見つめ合い、にへらと笑うと本棚から漫画本を取り出しては読み始める。

はー懐かしい……テニスめっちゃ懐かしい…いつ読んでもみんなかっけえなー

パラパラとページを捲るその漫画は、某テニス漫画である。
全国大会が終わってからは読んでいない。自分が受験というのもあるし、少し別のジャンルへ浮気中だからだ。
でも好きだけどな!?好きだからこそ今再熱してしまうと大変なことになるのであえて近寄らないようにしているのだ。

「咲良さぁ、テニスだと誰好きだったっけ」
「真田」
「しぶいわぁ……」
「結婚したい」
「重いわぁ……」
「理久は?誰だったっけ」
「跡部様リスペクトゥッ」
「そんなハードル高すぎる相手やめちまいな!」
「あたしと!跡部様に越えられない壁なんて無いのよ!!」
「これだから雌猫は思い上がっちゃって!跡部様はあんたなんか相手にしないのよ!」
「周りのみんながあたしを責めないように気を配ってくれてるの……あたしにはわかるわ!」
「この泥棒猫!!」

ぱしーん、頬を叩く振りをする咲良に、叩かれ倒れこむ振りをする理久。
暫しの沈黙のあと、二人は大きく溜息をつく。

「………現実逃避ってしてる間はいいけど戻ってきた時のダメージ半端ないよなぁ」
「HPマイナスだわ……咲良…いい演技してた」
「ありがとよ…」

結局その日はお開きとなり、咲良の家で晩御飯をいただき、帰路へついた。

****

いつも通りに起きていつも通りに学校へ向かう。
いつもの部屋、いつものお母さんに弟、いつもの美味しいご飯。

けど何故だろう、何かが違う。
学校への通学路や街並み、すれ違う人々。何かが違う。
でも見たこともある景色だとも思う。
なんだそれは。
こんな景色知らないんだけど『知っている』

この変な感覚に、理久は首を左右に傾げながら遅刻するまいと早足で学校へ向かった。

****

「何かこの門見たことあるぅ……いや学校だから見たことあるけど…!」

なんだなんだこのモヤモヤは、なんなんだ
しっくりこない……今日何か夢でも見たのか?それが影響してたり……デジャヴ的な…
あああああああわからん……わからんぞ…

「お、おはよっすー理久−」
「…あっ、おはよう咲良……なんか幼くなったね?」
「はぁ?昨日と変わりなくない?」
「いやぁ……もちょっと大人びていたような……」
「意味わかんないこと言ってないで早く教室行こ!あ、それとも彼氏待ってるの?」
「彼氏」
「何で繰り返したの」
「私彼氏居ましたっけ」

咲良の様子を窺いながらそう聞き返すと、咲良の顔が青ざめてくのがわかった。
人間って本当に青くなるんだなって思ったら自然と鼻で笑ってしまった。

「あんだけ頑張ってやっとこの前付き合えたのに何言ってんの!?嬉しすぎて頭ぱっぱらぱーになった!?」
「ぱっぱらぱー(笑)」
「いや何笑って……っていうか教室!とりあえず教室行くよ!」

もう何も考えれない状態の理久を引き摺るように咲良は歩き出す。
どうなってんだ、おかしいのはあたしなのか、ああもう何がなんだかわからなくなってきた

****

教室に入ると、同級生達がおはようと声をかけてくる。
ふとあることに気付いた。
イントネーションが聞きなれないのだ。

「咲良ぁ、宿題やってきた?見せてくれへん?」
「やってきたけど自信ないよ?上手く写してね」
「おおきに!次は自分でやってくるわ!」
「それもう2ケタは聞いたセリフだわ」

関西弁だ。
咲良以外みんな関西弁なのだ。
なんでだ。
えっ
なんでた。

咲良達二人の会話をガン見していると、その関西弁の子が首を傾げながら声をかけてきた。

「理久どないしたん?元気ないんか?静かすぎるで」
「理久さっきからおかしいんだよ……彼氏のこと忘れてたし」
「はー!?あんなイケメンと付き合えたんに忘れるとかあんたファンに刺されるで!?」

まっじかよあたしの彼氏そんなイケメンなのかよ!
跡部様並みだろうな!?ちょっと誰誰誰めっちゃ見たいんだけど!

「……ね、ねえあたしの彼氏って…」
「あほら噂をすれば…見たら嫌でも思い出すでしょ。ホント、なんか変なの食っちゃったんじゃないの理久」
「特に変わった物は食べてな………」

言葉を失うとはこのことか。
咲良の視線を追い教室の入り口を見ると、やけに髪の色が明るい男二人が入ってくる。

あたしは知っている、その二人を。
だって、昨日、咲良の家で読んだもの。


ていうかちょっと待ってあの二人が居るってことは


「咲良中学生か!!?!?」
「やっべぇなついに病院の可能性が出てきたぞ、理久がやべぇ」
「いつにもましてやばいやんなぁ……」


その様子を見つめる人がいる。

それが、白石蔵ノ介である。