事態を呑み込めないまま授業中。
ふと、自分のスマートフォンを開いてみる。
咲良とのトークと母親とのトーク、それにこのクラスのトーク、弟……
それくらいしか無い。
何か手掛かりがあるかもしれない、咲良とのトークを開いてみた。
(なんじゃこりゃ……)
そこには、白石くんがかっこいいだの告白OK貰っただの一緒に帰っただの……
ゲロみたいな内容だ。
…なんだこの……乙女モード丸出しの頭悪そうな内容は……
悪寒しかしない………待って待ってこれホントにあたし?あたしが打ったの?マジで!?
こんなに絵文字使ったことないんだけど!?
尊い……くらいの時しか絵文字使わないんだけど!?こっわ!!ナニコレこっわ!!?
世にも奇妙ななんちゃらかこれは!?あたしは夢でも見てんのか!?
(……?)
視線を感じた。
やっべ先生に見つかったかな、なんて思いながら視線だけを動かす。
ぱちりと目が合った。白石蔵ノ介と。
もうリアルな夢過ぎて、表情が引き攣った。
するとあっちは少し驚いた顔をして、顔を逸らしてしまった。
代わりに手元のスマートフォンが震える。
そこには、白石蔵ノ介からのメッセージが表示されている。
≫昼休み、ちょっと話さへん?
呼び出し。
人の顔見て引き攣るとは何て失礼なみたいな感じで怒られんのかな
いやいやいやていうか白石蔵ノ介って、あの白石蔵ノ介か。
じゃあ何か?ここはテニスの世界か?
トリップか?あたしゃ異世界に来ちまったのか?
けどそれだとおかしいことがある。
何で咲良がいる?
何でお母さんも弟もいるんだ?
それに咲良以外のクラスの人達、知らない人ばっかりなのに『知っている』のだ。
街の景色も、建物の看板も、コンビニも、知らないのに『知っている』
この感覚の気持ち悪いこと気持ち悪いこと……
なんか、こう……『それ見たことある!何で見たっけなーでも見たことあるんだよなー』みたいな感覚である。
ぐるぐると思考を巡らせていると、再び手元が震えた。
≫君も、何かおかしいと思っとるんとちゃう?
やっべえ初めてのパターンだ。
こんな展開今まで読んだ夢小説で見たことないぞ。
いやもしかしたらあったのかもしれんけど。
好奇心は猫をも殺す。
『是非話し合いましょう』
そう打ち込み彼にメッセージを送信した。
****
「すまんなぁ、呼び出してもうて」
目の前のイケメンな彼は申し訳なさそうに謝る。
昼休み、お弁当を食べ終えると待ち合わせをした空き教室に向かった。
自分達の教室と同じように、たくさんの机が並べられている。
何となく真ん中の席へ座ると、彼も隣の席へ座った。
「………ストレートに言っていい?初めましてだよね?」
「おう、初めましてやな。……そうなんやけど、俺ら付き合うとることになっとるんよなぁ…」
「なんでもあたしからアタックしまくったらしく……一切合切記憶にございません…」
「俺も君にアタックされた覚えないし今初めて話したし……これどういうことなんやろ…」
目の前で唸る彼に、あたしは考えた。
言ってもいいのだろうか、本当のことを。
例えばあたしの記憶がおかしくて、現実と漫画を混同している可能性も考えてみたが、それだと上手く合わない。
何せ、他の人はどうあれ、こうして彼も『おかしい』ことに気付いているから。
あたし以外に今この現状が『おかしい』と思う人間が居るということは、やはり実際何かが現実で狂っているのである。
現実に、起こっているのだ。
「おかしいなって思ってること聞いていい?」
「んー、まず君を知らへんねん。同じクラスなんに。あと君と一緒に居った標準語の子も知らん。あとなぁ……上手く言葉に出来へんねんけど…妙に今までと周りの景色が違うんよ、こここんなんやったかなぁみたいな」
「そうか……」
「君は?何か気付いたことあるん?」
「なんとなーく、わかった気がする」
そう言うと彼の目が興味の色を示す。
おかしいと気付いているのだから、今のうちに言ったほうがいいだろう。
「あたしはあなたのことを知っているよ、会ったことは無かったけど、知ってる」
「……何で?」
「あなたはあたしにとって、漫画の世界のキャラクターだから」
はぁ?????
そんな顔をしてる彼に、まあそうなるよなと頷く。
「いや待って待って、意味わからへん」
「わかる、あたしも意味わかんない」
「いやいやいや…漫画?漫画って?……もしかして君漫画と現実区別できてへんとか…」
「やめて!そんな馬鹿と一緒にしないで!」
本当にやめてくれ!現実との区別くらいついてるわ!そこまで落ちぶれちゃいない!
「だってあなたは私を知らないでしょう?それはそもそもあなたの世界にあたしは居なかったからだと思うわけよ」
腑に落ちない表情で彼は眉を顰める。
「あたしと、もう一人の標準語の子は、同じ世界に居たのね。だから多分あたし達だけを知らないんだと思う。……まあ何故か咲良のほうは何事もなく普通に生活してんだけど…」
そうなんだよ、咲良は当たり前のように過ごしてるんだよ。何の疑問を持つこともなく。
何であたしだけなんだよ
「あなたが言う『周りの景色の違和感』は、漫画の世界の景色と、その景色のモデルになった本物の景色、つまりあたしが生きていた現実世界の景色と混ざってるからじゃないかなぁと」
「……待って…こんがらがってきた……待って…」
頭を抱えあたしの言葉を反芻している彼を見ていたら自分もよくわからなくなってきた。
普段使わない部分を使っているからかとても頭が痛いのである。
****
「つまり……俺らテニス部の漫画があって、君はその読み手やったわけで…君の世界と俺の世界が……?融合したと…?」
「それが一番しっくりくる現状かなぁ…」
「そんなSFじみたことってホンマにあるん……?夢やないん…?」
「抓ってみようか?」
「容赦なさそうやから遠慮するわ。……けど君はあんまり不安そうやないんやな」
「こういう話たくさん読んできたからねー……それに自分一人が別世界に来たわけじゃないし……お母さんも弟もそのまま同じだし家の中も変わってないし、咲良もいるし。多分世界が融合した影響かな、知らない景色なんだけど一応『知ってる』ってことになってるからそこまで違和感がないというか…」
「肝座っとるな…」
「あと一つ大事なことがある」
「何?」
「あたし本当は高校三年生」
そう、そうだ、元々あたしは高校三年生で、受験真っただ中だったのだ。
それがどうだ、世界融合というでかすぎるイレギュラーの代償に中学三年生へ返り咲いた。
まあ受験に変わりないが、将来がかかってくる受験よりはマシである。
「それってどういう……」
「昨日まであたしは高校三年生の、受験真っただ中だったわけよ。それが何故か世界が混ざって、中学生やり直しのようだ!あのプレッシャーに押し潰されそうな専門学校受験と一旦おさらばなわけよ!!そう思ったら希望しか感じない!」
「ほな年上なんやなぁ、本当は」
「でもとりあえず同級生だから、同級生としてよろしくね。ていうか納得できちゃったの?」
「納得するしかないやろなぁ、現におかしいんやもん、しゃーない」
「あたしとしては納得してくれて助かるけどさ……」
「君は俺のこと知っとるんやろ?俺は知らんねん、名前教えてもろてええ?」
「猫宮理久です。白石蔵ノ介で名前合ってるよね?」
「合ってる。ほな改めてよろしゅうな、猫宮さん」
「秘密を共有した同志として、よろしくね。白石さんって呼んでいい?」
「めっちゃよそよそしない!?せめて白石くんちゃう!?」
「男の人をさん付けで呼ぶの憧れててさぁ……頼むよ〜」
恥ずかしそうに視線を泳がせ顔の前で手を合わせる。
白石は少し傷付いたような、困惑の表情を浮かべていた。
何とか白石に了承を得ると理久は力強くガッツポーズをした。
「そういやあたしら付き合ってることになってるよね」
「あっ」
「どうしよ」
「どないしよ…」
新たな問題が浮上した。