白石との関係を解消し、一大決心をする。
そうだ、髪を切ろう。
前の世界でも長かった髪。切りたいとは思ったことはなかったのでそのまま綺麗に伸ばしていた
別にこだわりがあったわけではない。
ただ『女の子だからとりあえず伸ばしとけ』みたいな感覚だった。
じゃあいいやと、次の日の放課後髪を切りに行った。
『ええんやね!?ホンマにええんやね!!?!?切ってええんやね!?後悔せん!?』
『いいんです!いいんです!!一思いにやっちゃってください!!』
美容師さんとのそんなやり取りがあったのは一時間程前だ。
背中の半分を覆っていた長い髪は、床を覆っていた。
初めてのショートカットである。人生初の。
前髪は切らず、横に流したまま。
耳にかけれるようにとサイドは顎より少し下あたりで切ってもらい、後ろはうなじが隠れる程度の長さだ。
ちょうどうなじが隠れるだけ。
びっくりするほど頭が軽い。髪の毛って重いんだなと、目の前の鏡に映る変わり果てた自分をガン見していた。
っていうか、めっちゃくちゃ弟と瓜二つになってしまった……笑う…
「ものっそい似合ってますよ…えらいかっこよくなりましたね…」
「生まれる性別間違ったかもしれない」
美容師さんに絶賛してもらい、店を後にした。
さて次だ。
雑貨屋さんに入ると迷わずお目当ての物を手に取り購入する。
ビニールの袋に入れられた二つのそれは、小さいくせにあたしを緊張させるのだ。
自室に戻りテーブルに鏡を置くと、先程買ってきた袋から新品のピアッサーを取り出す。
中学生だけど!ピアスしてるやついるし!いいよね!!!知らね!!
カシャン、と二回音が鳴る。
無事両方の耳たぶにピアスが貫通したことを確かめると、ふらりと立ち上がりベッドに寝転んだ。
「……いって…」
寝転んだ際、ピアスが布団に少し引っかかった。
痛みを感じると共に実感する。
「へへ……ピアス開けちった………ふひ…」
前の世界ではピアスをしたことがなかった。
やってみたいとは思っていたが、勇気が出なかったのだ。いまいち踏み出せなかった。
明日、咲良達はどんな顔をするだろうか。
ちょっとそれだけは不安になる。
やっべ………なんか色々やり過ぎたかな…………今更後悔しても遅いんだけど…
うわああああああああどうしよ……走ってこようかな…軽く……軽く走ろうそうしよう
そう思い着替えをしてリビングを下りると、買い物から帰ってきた母親と部活帰りの弟が居た。
「あんた……!!?!?髪切ったの!?ていうか直哉とそっくり!!!あはははははは!!」
「…………マジかよ……」
あたしを見るなり大爆笑する母親の横で複雑な表情を浮かべる弟。
弟は今小学校6年生だが、身長は既にあたしと並んでいる。
これ二人で並んで歩いたら双子に見えるんじゃないかってくらいのレベルである。最高。
まあ弟のほうが髪が短いからそれはないかもしれないが。
「お母さん見てーピアス開けちった」
「うわマジだ!ケアはちゃんとしなさいよ!ばい菌入ったら大変!」
こういうとこがお母さんのいいとこだ。
ピアス開けるなんて良くないことなのに、叱るわけでもない。
叱ってくれる時はちゃんと叱ってくれるけどね
「せっかくピアス開けたんだから、片方の髪耳にかけなさい」
そう言ってあたしの顔横の髪を耳にかけてくれた。
「ん!いい感じ!今から走ってくんの?早めに帰ってくんのよ!」
「はーい!直哉!後で写真撮ろうぞ!」
「ネタにされるから絶対やだ!」
「けち!!!」
玄関を出て軽い準備運動をすると片方の耳にイヤホンをはめ走り出した。
何か色々あり過ぎて忘れてたけど、確かめなきゃいけないこと結構あるんだよなぁ
中学生に戻ってしまったわけなんだけど、多分時間が戻ったわけじゃないんだよな。
だって高校の時に使ってたスマートフォンがそのままあるわけだから。
あたしが中学生の時スマートフォン無いし。
過去に戻ったわけではないが、中学生やり直し……やり直しじゃないな…『新しい時間』ってことのほうが合ってるかもしれない。
『中学生』自体はやり直しだけどこれから過ごす時間はまるっきり『新しい未知の時間』ってことだから、昔の記憶は当てにはならない。
当てになるとしたら勉強内容くらいかなぁ
あと!!すっかり忘れてたけど!!こないだ応募して当たった無料ライブあるし!!漫画の新刊出るし!!今ハマってるアプリの音ゲー……
ああああああああああログインしてない!!うそ!?何でこんな大事なこと忘れて………うっわああああああああ走ってる場合じゃなくね!?
イベント終わったんか!?ちょっえっうっわクッソ!!!失念してた!!
脚がぴたりと止まった。
「………やばい…大事なことたくさんあった…」
人気のない道の端でうずくまる。
「……いや…いい……こないだのイベントはあたしの推しメインじゃなかったからな…いい……諦めよう……やっべライブ…いや待てよあれ東京での話だったよな…今ここ大阪……ライブ会場どうなって…てかあれ二枚一組だから同伴探さないと…あああああそういやあの漫画の新刊出るじゃんてか出てんじゃない!?単行本派だったから続きめちゃくちゃ気になってたんだようっわどうしようどうしようどうしよう……」
一旦思考が停止する。
急に考えすぎて頭の中がしっちゃかめっちゃかだ。
「よし!帰ろ!」
とりあえず頭の中を空にし、来た道を爆走して帰っていった。
****
朝、いつもより少し早めに目が覚めた。
髪を切ったことで無意識に緊張しているんだろう。
前と比べて細く整えられた眉毛が、少しきつい猫目に拍車をかける。
これ第一印象悪いタイプの人だわぁ
でも、昨日までのなんかふにゃけた顔よりマシである。
容姿は前の世界とほとんど変わりなかったが、漫画の世界と融合した影響か、やけに美化されていたというか……特徴は変わりないんだけど綺麗に描かれているというか…なんか自分のようで自分じゃない感じだった。
まあそれは有難い。
容姿が良ければ!なんでもできる!!
何か、自分ショートヘア似合うんだなー。早く切っておけばよかったかもしれない
昨日母親に貰ったアドバイスに従い、片方の顔横の髪を耳にかけピンで留めた。
「わーきつい顔がさらにきつーい、我ながらこの顔好きだわぁ」
鏡の前で自画自賛を終え、朝食を食べた。
「直哉、一緒に途中まで行かない?」
「絶対やだから先行くわ行ってきまーす」
「ツンデレめー!!!」
「俺がいつデレたよ!!」
叫ぶように家を出ていった弟に舌打ちをして、美味しい美味しい母親の朝食を食べ終えた。
「あんた、今のほうがいいね。何かあった?」
「んー?何も無い!てかさお小遣い稼げることない?バイト的な」
「今のお小遣いじゃ足りないの?」
「ライブとか行きたいから…」
「あんたそういうの興味あったの…?前は白石くんだかって子の話しかしなかったのに……」
「それは過去のこと!今は!違うの!」
そうらしいですね、この世界の『前の自分』は白石にしか興味無かったらしい。
でも何故か部屋にはあたしが買い集めていた漫画達がしっかり揃っていたので弟が部屋に来た時は大層驚いていた。そして寝るまで読み漁っていた。
そういうとこめちゃくちゃなんだよなー。
持ち物は高校生だった頃のままあるって、普通に考えればおかしいよね。
どっから仕入れたんだって話。
誤魔化すの大変なんですけど……でも漫画がそのままあるのは有難かった。
「お母さんの友達がやってる喫茶店とかどう?大っぴらにバイトはだめだろうから、お手伝いって名目で」
「イイネ!!!帰ってきたらまたその話聞かせて!!行ってきます!」
「行ってらっしゃい気を付けてね!あ!勉強はちゃんとしなさいよ!!」
「はーい!」
「…本当、変わったわねー……」
元気よく飛び出して行った理久の背中を見つめ、安堵するように笑った。