学校に向かうにつれて四天宝寺の生徒が周辺に増えてくる。
皆こちらをちらちら見てはひそひそと何かを話していた。
なんじゃい何の話しとんじゃい
めちゃくちゃ気になるじゃねーかこのやろう
視線は減らないまま教室に着き、朝から疲労感に見舞われながら教室のドアをがらりと開けた。
「おはよー」
視線を落としがちにそう一言発すると、賑わっていた教室内が一気に無音になる。
「………いやいやいやみんな驚き過ぎ」
よろよろと千昭が近寄ってくる。
何だその死んだ人が帰ってきたみたいな顔は。
「……理久………?理久なん…?」
「おう」
「ええええええええええええええええええええええええええええええええ」
教室の皆がハモった。
ハモった上にうるせえ。
眉間に皺を寄せ顔を顰めながら両耳を手で塞ぐ。
おうおうテンプレな反応ありがとよ……
「っていうか!理久は「おう」なんて返事せぇへんし!最近どないしたん!?何かやばいもんでも食うたんか!?」
「前のあたしは忘れてくれ頼む」
「何があったんや……何が…」
何故かショックを受けまくっている千昭を一旦放置して、目を丸くしてこちらを凝視している白石の元へ行く。
「白石さんおはようさん」
「…なんやその雑なボケは……おはよう…どないしたん猫宮さん…」
「振り回してごめんね、別れてくれてありがとう」
そう言うとまたしても教室内に「えええええええええええええ」という声が響く。
そしてまたあたしは顔を顰めて両耳を塞いだ。
鼓膜破れるんじゃうっさい………
「あたしの我儘で!振り回して申し訳なかった!」
顔の前で手を合わせ謝ると、白石はもちろん忍足謙也までもがオロオロしていた。
「ってわけで!いちクラスメイトとしてよろしくな!!」
そう無理矢理握手をしてあたしは自分の席に着いた。
未だショックを受けている千昭と、目の前の光景が信じられないと言わんばかりに目を見開いている咲良は、これもまた一旦放置しておく。
思い返してみれば表立っていじめとかは無かったのだ、表面上上手くやっていれば学校生活は何とかなる。
咲良達があたしを嫌いなのは分かりきっているから、それには気付かないフリをして、上っ面だけ仲良くしてもらおう。ごめんね。
ホームルームでは先生にも驚かれた。
えっへへへへ注目の的〜
その日、あたしが激変したことは一気に学校中へ広がった。
元々白石と付き合ってたこともあって、名前が知れ渡っていたためあたしの変化振りを一目見ようと休み時間はドアの前がごった返していた。
前の人格はどうあれ今のあたしは運動大好きっ子であるため大人しい女の子とは無縁だ。
昼休みはよく男子に混じってバスケやらドッジボールをしまくっていた。
マラソン大会?腕ならぬ脚が鳴るぜ!状態だった
「いやー、毎時間毎時間ご苦労なこった」
理久は、ごった返すドアを見ながらパックジュースを啜った。
そんな理久を見ながら咲良が溜息をついた。
「白石くんと別れたって本当なの…?別れたから髪切っちゃったの……?ピアスまで…」
「別れたのは本当。お互い了承済み。髪を切ったのもピアス開けたのもちょっとした気合い入れ?」
「何のための気合い入れやねん…」
「欲しいものとかやりたいこととかたくさんあるし、受験もあるでしょ?そのための気合い?」
「嘘やん……あんなに可愛らしくてふわっふわしとった理久が…こんな脚組んでパックジュース啜っとるなんて………ショックでかすぎるわ…」
「いいか、もう昔のあたしは忘れてくれ。そんなものはいなかった、いいな?」
「そんなキリリと言われても意味わからへんわ…」
咲良は目元を押さえて溜息つくし千昭は顔を両手で覆ってさめざめと泣いた。
もうちょっとさ!!かっこよくなったねとか!!褒めることは無いのか!!
なんか無いのか!!!!
****
昼食を食べ終え、用事があるからと教室を出た。
目指すは視聴覚室。
前の世界でも、視聴覚室はあたしのサボりスポットだった。今はサボりじゃないけどね!
窓際の席を陣取りドアに背中を向けて椅子に腰かけた。
ポケットからスマートフォンとイヤホンを取り出すと、とあるアプリを開いた。
そう、現在開催中の新しいイベントを走るためである。
無課金の、しかも学生の順位なんてたかが知れてるが、必要なアイテム集めのためにも走らねばならないのだ。
(まあ今のイベントは推しあんまり関係ないし…素材集め素材集め……)
ひたすらExpert(一番難しい難易度)であらゆる楽曲をプレイする。
このアプリ曲がいいから延々とやっちゃうんだよなー時間忘れないようにしないとな
もう少しでフルコン、そんな時だった
「!?」
突如画面上に通知が現れた。
何でもない、どっかのサイトのアプリ通知だった。
そのおかげでフルコンを逃してしまったのである。
「ッこんな時に通知とか!何で今!もー!!」
叫んだわけではないが、手の指を猫のように曲げ前屈みになりながら不満を爆発させた。
「もー!!フルコン!この曲フルコン難しいんだからな!ふざけんな!」
通知を出したアプリに罪はない、罪は無いがどうしても怒りの矛先になってしまう。
頭きたのとそろそろ昼休みが終わる時間だったので、仕方なしにイヤホンを外し立ち上がってくるりと向きを変えた。
「……………人…」
誰も居ないと勝手に思い込んでいたが、後ろを向くとドア付近の席には人が一人座っていた。
しかもこっちを見ている。
「いきなり叫ばんといてくださいよ、うるさいっすわ」
こんなとこで遭遇してしまうか、財前光。
あー…………そういやこの子の出没スポットって視聴覚室……あー………
「まさか人いると思わなくて……ごめんあそばせ…」
そう微笑み逃げるようにドアを開けると、呼び止められた。
「………あんた、もしかして」
「猫宮理久です多分以前は大変お世話になりました多分!大丈夫もうテニス部には近づかないし白石さんとは別れたから!じゃーな!」
多分聞かれるであろうことを予測し、言っておかなければいけないことを早口で告げ逃げるように視聴覚室を飛び出した。
エンカウント率ちょっと高めかな!?少し行動控えないとな!?
****
「白石、猫宮さんどないしてしまったん?」
部活を終え着替えをしていた忍足謙也が気味悪そうに白石に問いかける。
白石としては、今の理久しか知らないため、どうしたと言われても何とも言えない。
「前と正反対やんか。それに別れたって、ホンマなんか?」
「それはホンマ。こないだ電話かかってきて、別れてくれ言われたんや」
「信じられへんわ〜あんな白石白石やった子…」
「今日の昼休み、視聴覚室で見ましたよ、猫宮先輩」
二人の会話に財前が入り込む。
謙也が驚いたような顔をして、どうだったか尋ねた。
「スマホの音ゲーしとって、フルコン逃して叫んではりました」
「頭おかしなったんかな……」
「大丈夫です、謙也さんも負けてへんですから」
「どういう意味やコラァ!」
謙也が叫ぶのを予測したのかすかさず財前は耳を塞いでそっぽを向いた。
「みんな言うてるわ、前の猫宮ちゃんやないって。仕草も表情も、妙にきつくなったって言うてたわ〜」
困った表情を浮かべ、どないしたんやろねと金色小春が首を傾げる。
小春の言葉に反応したのは誰でもない一氏ユウジだった。
「ぐれたんとちゃう?」
「ぐれたにしてはやけに明るくなった気ぃするんや。吹っ切れたっちゅーんかなぁ…」
「あんな奴小春が気に掛ける必要あらへん!」
「なんちゅーか、えらいかっこよく見えてしもてドキドキするんよ〜」
「小春それ浮気言うんやで!浮気やでそれ!せめて少しは隠すとかないん!?俺にドキドキしてくれや!」
「ユウくんは何かちゃうねん」
「何がちゃうん!!!?!?」
騒ぐホモコンビをよそに、再び財前が口を開いた。
「もうテニス部には近づかへんて言うてましたよ。自分が噂されとるん気付いたんちゃいますか」
「そんな聞き分けのええ子やったか?」
「そうですね、謙也さん以下やった気ぃしますわ」
「何で毎回基準俺やねん!!」
「あと部長、白石さんて呼ばれとるんすか?こないだまで名前呼びやったのに?」
「男の人をさん付けで呼ぶのが憧れやったからそう呼ばせてくれて言われた」
「前とは別な意味で頭おかしなったんちゃいます……?」
「……まあ猫宮さんにも色々事情があるんやろ…………多分…」
自分で言いながらトーンが落ちる白石をフォローするように謙也が声をかける。
「とりあえず!白石も俺らもあの子から解放されたわけや!よかったな財前!」
「ホンマ鬱陶しかったっすからね、やっと羽伸ばせるわぁ」
「お前いっつも羽伸ばしとるようなもんやんけ」
「時と場と相手は選らんでますわ」
「相手は選ぶなアホ!!!」