07平穏とは。

「あと一週間……やばぁ…」

何があと一週間?あの待ちに待ったライブまであと一週間なわけよ。
何がやべえって?
同伴者を見つけていない。
すっかり忘れていたのだ。
しかも席は、なんと、なんと、3列目のど真ん中だ。しんじゃう
SNSで見つけようとすれば簡単なのだが、知らない人と行くのはなかなか怖いものがある。中身高校生だし、まして今は中学生なのだ。怖い。
かと言って周りにこのバンドが好きな人が居るかと言えば、居ない。
ぶっちゃけあたしのチケットは無料なんだし、咲良にでも頼めばいいのだが、………まあ好かれてないからなぁ…迷惑になるだろう。
自分の席で腕を組みながらうんうんと唸っていると、近くで笑い声がした。

……自分が笑われたわけじゃないだろうし、シカトしとこう。
はーどうしようかなーやっぱSNSしかないよなー変な人来たら怖いしなー
あと、もし、SNSで同伴頼んだ人が、テニス部の人とかだったら笑えない。無いかもしれないけど!もしかしたら最悪あるかもしれない展開!それだけは避けたい

ふと、また近くで誰かが笑った気配がした。


「………人見てて楽しい?」
「楽しい」
「もーーーこっち見んなよもーーーー」

薄目で横をちらりと見ると、白石がこちらを見て微笑んでいた。
昨日、席替えをしたのだが、窓側になったことは大変喜ばしかったのに隣は白石蔵ノ介である。正直なんか気まずい。
別れる宣言して、みんなの前でも別れたアピールをしたのにこれだよ。もう接触はほとんどないだろうと思ってたらこれだよ!
視聴覚室で財前光と遭遇してから、あまり教室を出なくなった。もういい、ゲームやってんの見られて何言われようがどうでもいい、必要以上に出歩かない。

「何唸っとるん?」
「んー考え事」
「何考えとるん」
「内緒ー」
「何で?」
「白石さんには関係のないことだからでございます」
「それは聞いてみないとわからへんやろ?」
「わかりきってるから言わないのであって……もーなんなんだよ考え事してるんだからほっといてー」
「悩みあったら相談乗る言うたやろ?」
「悩みじゃなくて考え事だっつの」

おかしい。白石の第一印象から仮定すると、結構奥手な感じがあったと思ったのだけども。
いや恋に奥手とかそういうんじゃなくて、人間に対して?みたいな?
仲良い友達とか部活仲間とは親しく話すけどそこまで関わり合いのない人には一線引いてるというか、そんな感じに見えたんだけどな?
話しかけてくるにしてももうちょっと遠慮がちにくると思ってたんだけどなぁ
鬱陶しいなぁ……

「白石さん今自習なんだよ自習して」
「猫宮さんかてしてへんやんか」
「してるじゃん、ほら」
「ノート広げとるだけやないか」
「へへへへ」

そうただ真っ白なノートを開いているだけ。自習するフリは大事です。
咲良とも千昭とも席が離れてしまってお喋りする相手もいないし。いや自習中だからしゃーないんだけど
白石と喋ってるとちらちらこっち見てくるのがめちゃくちゃ怖い

「で、何悩んどるん」
「いや…………個人的なことだから別に…」
「悩みって基本個人的やろ」
「いいか?要約すると『ほっといて』って意味になるからな?」
「そうは言いながらも突っぱねへんあたり猫宮さん優しいなぁ」
「じゃあもう無視するね」
「ごめんてーーーお話しようやーーーー」
「自習しろよーーー」

うるさい白石からノートに視線を落とす。
そこにバンド名とライブの日程を書き込んだ。
もういっそ前日と当日募集かけて、だめならだめでいいか……

再び考え込んでいると横からやけに整った顔が現われた。

「覗き見しないでクダサーイ」
「あ、このバンド財前好きや言うてたで」
「へえ」
「もしかしてライブとかあるん?」
「まあそんなとこ」
「ライブ一緒に行く人探しとるとか?」
「……………まあ」
「ホンマか!財前このバンドのライブ行きたい言うてたんよ、早速連絡するわ!」
「待て待て待て待て待て待て待て!何故連絡する!」
「ちょうどええやろ?猫宮さんは一緒に行く人探しとって、偶然にも行きたい人おったわけやから」
「いや一応あたしの意見もだな…」
「財前喜んどるで!」
「行動が早過ぎんだよ行動が!」

****

本当に行動が早いもんで、ほんと、なんで、テニス部の部室に招待されなきゃならないのか、泣きそうです

「こちらがライブ一緒に行く人探しとる猫宮さんや」

わざとらしくあたしを財前光に紹介する白石に大変腹が立ったが、テニス部メンバーに囲まれ怒鳴り散らす勇気もなく視線を伏せがちにため息をついた。

「知ってはりますよ、この前会いましたし。……けど正直この人と行くんならやめときますわ」
「何でや財前!前に行きたいー言うてたやろ!」
「行きたいには行きたいっすけど、猫宮先輩とは行きたくないんすわ」

あー白石がしつこく話しかけてくる理由わかった………テニス部メンバーと仲良く?させたいようだ?
多分メンバーがあたしのこと嫌ってるから仲を取り持とうとしてくれてるんだけど………何の必要性も感じられないんだけど白石ほんと何考えてんだお前…

「よし、仕方ないな。じゃああたしは行くから、じゃあね白石さん」
「いやいやいやちょっと待とうやないか」

入口に向かったあたしの目の前にすかさず現われ両肩を掴まれた。
慌てる白石に小声で話しかける。

「めっちゃみんなあたしのこと嫌ってんじゃん……よくこんなとこ連れてきやがったな貴様…」
「ちゃうねんホンマは猫宮さんええ子やからみんなの誤解を解きたくてやな…」
「無理だって!別にあたしと関わらなくても不自由しないんだからそっとしといてあげて!」
「もったいないやんか〜」

そう言ってしょんぼり眉を下げる白石にほんの少しだけきゅんとなる。
可愛い顔しやがって!!!可愛い顔にその素敵ボイス卑怯だぞ!!!
そんな言葉を噛み締め『無理』と突っぱねた。

「はよ出てけや」

少し苛立った声が聞こえた。
一氏ユウジである。
おう言われなくとも今出て行くよだから目の前のお前らの部長どうにかしてくれ

「ユウくん!そんな言い方ないやないの!」
「何言うたって効かへんやろコイツは」
「ユウジ、猫宮さんは前みたいな我儘な子ちゃう。ええ子や」
「また猫被っとるだけちゃうん?信じられへんわ」
「俺も同感っすね」

急に言い争いが始まった彼らを腕組みしながら傍観する。
お?帰っていいか?なあ?あたし色々忙しい予定なんだけどな?漫画探しに本屋行きたいしさあ
これはあたしのために争わないでって言う場面か?

「白石さん……もうめんどくせえや白石って呼ぶね、白石もういいからあたし帰っていい?」
「猫宮さんの憧れは一体なんやったんや」
「よくよく考えたら同い年だしおかしいよね」
「今更過ぎる」
「ライブこれ良い席だったから募集かければすぐ見つかるしさ、大丈夫大丈夫。無料で当たったんだし何なら白石一緒に行く?」
「えー俺そのバンドわからへんもん」

そんな話をしていると急に肩を掴まれた。ガシッと、掴まれた。
吃驚して振り向くと、目をぎらつかせた財前光が居た。えっ何こわい

「良い席って、どこっすか」
「…………………3列目ど真ん中」
「行きます」
「は!?」
「是非行かせてください」
「はァ!?」

こうして同伴者が決まってしまったわけなのだが、ただただ不安しかないのです。

一応話がまとまったからなのか白石はほっとした表情で「楽しんでき!」とか笑顔で喜んでいる。お母さんかお前は。

多分お互い不本意だったが当日の待ち合わせ等の連絡もあるってことで連絡先を交換した。
おかしい、こんなはずじゃなかったのに、おかしい。

「あ!一緒に行かなくてもチケット先に渡せばいいだけじゃね?席隣同士だけどそこは知らないフリしてさ!」
「失くしたら怖いんで当日持ってきてください」
「あたしのこと嫌いなら今のはノるとこだろうが」
「先輩のことは嫌いっすけどそれ以上にそのバンドが好きなんで大目に見たりますわ」
「何であたしが許される側なんだよ!」