09スパダリ白石

「………?」

ライブの余韻を引きずりながら、いつもの学校の支度をする。
準備をしている中で体に違和感を覚えた。
妙に重いお腹と腰、少しの痛み。………まさか

「最悪……」

女の子特有の、月に一度のビッグイベントである。クソ。
そろそろくるだろうとは思っていたから準備はしていたが、とはいえ最悪である。
休みたいー……でも今日小テストあるとか言ってたよなぁ……後から一人でやるの嫌なんですけど…
まあまだ痛みは少ない。
薬を飲んで、ゆっくりと学校へ向かった。

****

「おはよう」
「あー理久おはようさん」
「おはよう理久」

席に座っていた咲良と千昭に声をかける。
手を振って応えてくれる二人にへらりと笑った。
………ふむ、やべえな、腰いてえ。
どうしても一日目は重い。そんな人は多いのではないだろうか。あたしもその一人である。
ベッドから起きられないくらいの痛みに襲われるのだ。
朝薬は飲んだけど、結局痛みを感じてから飲んだから多分あまり効かないだろうなあ……
はああああああ……………鬱。めっちゃ鬱。心なしか頭痛い。

「猫宮さんおはよう、どないした?」

朝練終わりの白石が席に着くなり声をかけてきた。
知ってる、こういう時って下手に隠すと後々とんでもないトラブルになるって知ってる。そういうのよく読んだよ

「おはよう白石……女の子の日一日目ーーーーーだりーーーーー」
「普通そういうのって隠すとかせんの?」

思ってもみなかった返答に白石は困ったように赤くなった。
女の子の日って一応デリケートな話題だもんな。あたしも実際中学生の時はそうだったけど今はそこまでの慎重さはない。ただただ憎い。この痛みを引き起こしている内臓をもぎ取りたい。

「あーーーーーーーーーーーーー腹ん中空っぽにしたい、内臓ごと」
「朝からグロい!ホンマ大丈夫か?保健室行ったほうがええんとちゃう?」
「一応薬は飲んできたからーだめそうになったら行くお」
「もうすでにだめそうやけど……」


極力動かないように、極力体力を使わないよう努力した。
それをわかっていてか、白石もあまり話しかけてこなかった。
でも時折心配するように様子を窺ってくる。ありがとよ大丈夫だからこっち見んな

いつもの授業が、いつもよりも長く感じる。
少しずつ重くなっていく腹と腰、鈍痛。前を向いていたい思いとは裏腹に体はどんどん前かがみになっていった。
ふふふ、きつい。つらい。あーーーーーーベッドで寝てしまいたい。
ホッカイロを腰に貼り付けたい………あああああああもうやだあああああああああ帰りたいようわあああああああああああ

****

「やっと昼……死ぬ………マジ…」
「理久アレの日か……早く言いなさいよ…大丈夫?」

待ちに待った昼休み、あたしを案じて咲良と千昭が近くの席まで来てくれた。
昼なので二人はお弁当を食べているが、あたしはそんな場合ではない。動けない。
机に突っ伏した状態でお弁当を食べる二人を眺めていた。

「一日目って辛いよなぁ…うちそこまで重くならへんけど痛いのはようわかるわ」
「ね………マジきつい……だめだわ無理保健室で寝る無理」
「そのほうがええよ……うちらついてったるから」

二人は少し急いでお弁当を食べ終えると、椅子から立ち上がれないあたしを優しく起こしてくれて、両側から支えてもらいながら保健室へ向かった。
なんだかんだで二人は優しいから勘違いしてしまう。前のあたしのせいで嫌な思いをしていたのに、本当に頭が上がらない。
体調不良も相まって泣きそうである。女々しいったらありゃしない。やだやだ

「うううううううううう今すぐこの廊下エレベーターにならない!!?」
「それ言うならエスカレーターな。上下してどないすんねん」
「千昭ツッコんじゃだめだよ理久今痛みでおかしくなってるから」
「ふぐうううううう反論する気力が無いのが悔しい……!」
「ええから黙って歩きぃ!その角曲がったらもすぐやから、理久もうちょい頑張って」

二人を背にゆっくり角を曲がった、ら。

「理久危ないッ!!」
「!?」

曲がった瞬間物凄い勢いの何かにぶつかった。デコを強打した。
ぶつかる間際咲良の声がしたが、時すでに遅し。
若干前かがみだったから何にぶつかったのかはよくわからなくて、よくわからないままその場に尻もちをついて倒れこんでしまった。

「うわッ!ちょ、スマン猫宮さん……!」

この声……忍足謙也か………廊下走ってたのかお前!?廊下は走んなって全国共通のルールだろうがボケコラァ!!!
そんな声も出せず座り込んだまま、ぶつかった額と腹の痛みに耐えるように腹を両腕で抱きかかえるようにうずくまった。
泣きそう!

「謙也お前猫宮さんにぶつかったん!?ちゅーか廊下走んな言うて……いやそれより猫宮さん大丈夫か!?」

忍足の後ろから来たであろう白石の声がする。
オロオロする忍足と違って彼はすぐさまあたしに近寄り心配そうに背中に手を添えてきた。
急なことに呆然としていた咲良達も我に返ったように近寄ってくる。
もういいよこのまま引きずってくんねえかな誰か、頼むわ

「あー、暴走する謙也さんの餌食になってもうたんすか、理久先輩」
「餌食てなんやねん!ほ、ほんますまん猫宮さん、ちょ、どないしよ、全然動かへんやん、救急車!?」
「なんでやねん」

大変力のない財前のツッコミだ。でもそれはあたしも思った。なんでやねん。
救急車呼ぶって忍足どんだけ破壊力あるんだよお前、人間兵器かなんかか?
でもおでこめっちゃ痛いよ、割れてないかな?あたしのおでこ

「お前らうっさいねん!猫宮さん、大丈夫か?立てるか?」
「う、」
「う?」

瞬間、あたしの目から涙が床に落ちた。
一粒落ちてしまうともう止められなくて、決壊したようにぼたぼたと涙が零れた。

「猫宮さん!?どないしたん!?」

いきなり泣き出したあたしに白石も、咲良達までもが動揺する。
もう帰りたい。
腰痛いし腹痛いし気分めちゃくちゃ落ちてる上にこんなみんなの前で公開処刑。忍足後で覚えてろよ
おでこも痛いし、気力を振り絞って歩いてきて寸前でこれだよ。もう動けないよ。
悔しいやら恥ずかしいやらで号泣である。

「うううううううううお腹痛いいいいいいおでこも痛いいいいいいいいもうやだお家帰りたいいいいいいいいい」
「ちょ、理久大丈夫?うわめっちゃ泣いてるちょっと、ねえ、ちょっ」
「理久先輩号泣やん、おもろ」

パシャリと音が鳴った。
財前が至近距離で泣いているあたしを撮ったようだ。

「財前お前後で覚えとけよ!!!」
「うわ喋った」
「さっきから喋ってるわ!!」

叫んだから余計腹痛い。ほんとコイツ後でしばく忍足より先にしばく。
白石が財前をどつく音がしたので「ナイス!」と心の中で叫んでみた。

「猫宮さん立てるか?腹痛いんやろ?保健室すぐそこやから頑張れるか?」
「………頑張りたい…咲良…千昭ぃ………引っ張ってぇ…」
「引っ張るって、無茶言わないでよ、すぐそこだから頑張ろ!?」
「無理ぃ、立てないぃいいい………」

ぐすぐすと鼻を鳴らし涙で潤む目を拭った。



「……猫宮さん、ちょっとごめんな」



白石の優しく低い声が耳元で響いた瞬間、体を後ろへ倒されたかと思うとふわりと浮き上がった。

「!?」
「スマンな、少し我慢しててや」

これお姫様抱っこやないかーーーーい!
Foooooo〜〜〜!!!
恥じ死させたいのかお前ぇえええええええええええええ
色々言いたいことがあったが腹が痛くて声も出せない。痛みに歪む顔で白石を見ると申し訳なさそうに笑った。
もうとりあえずベッドに寝れればいい、もう贅沢は言わない。ごめんな咲良と千昭……嫌なもん見せてごめんな………

「俺連れてくから、あとは任せてくれへんかな」
「でも……」
「全員で保健室行くんも迷惑になるかもしれへんし、な」

着いてきてくれようとした咲良を白石が止める。
すまんみんな、とりあえず一刻も早く寝かせてくれ、つらい………

「………白石……一刻も早くあたしをベッドに投げてくれ……頼む…」

力を振り絞り小さい声を発すると、白石は焦ったように保健室へ駆け込んだ。