10スパダリ白石2

「先生、猫宮さんお腹痛くて動けへんくなってん」
「廊下騒がしかったんお前らか」

保健室に居た先生に事情を話すとベッドを貸してくれた。
あたしはもう何か言える気力も残ってなくて、小さく肩で息をするだけ。
そんなあたしを白石は痛々しそうに見つめながら静かにベッドに下してくれた。

薬を飲ませるからとまだ横にはなれない。痛む腹を抱えじっとうずくまる。
そんなあたしの横に白石が座って、腰をさすってくれた。
白石、それ一歩間違えればセクハラになるんだぜ。多分心配してくれるあまり気付いてないんだろうけどな……いやまあ有難いけどいやそうじゃない。

「ほらこれ飲んで寝ときぃ」
「よっしゃー……」

先生に渡された水の入ったコップと鎮痛剤を渡されると、即座にそれを飲んだ。
薬を飲んでベッドに横になれば白石が布団をかけてくれる。お母さんかって。
横になると少しばかり気が楽になるもので、ほっと息をついた。

「白石ありがとねー………」
「猫宮さんおでこ赤くなっとる…」
「あ、白石これ貼ってあげて。先生これから会議なんよー…まあ熱とかやないし付き添わなくて大丈夫やろ。白石も授業始まる前に戻るんやで」

薄い湿布を白石に手渡し先生は保健室を出て行った。

「猫宮さんちょっと冷たいで」
「んぉッつめたッ」

先程忍足にぶつけられた額に冷たい湿布が貼られる。その冷たさが心地良い。

「謙也がすまんなぁ、後できっちり叱っとくさかい、堪忍してな」
「ちゃんと躾しといてよ……弾丸みたいだったわ…」
「ホンマすまんなぁ」
「そろそろ授業始まるよ、戻って戻って」
「ついてへんくて大丈夫か?」
「任せろぅい」

へらりと笑えば、白石が優しく頭を撫でてくれた。
は〜〜〜〜〜〜〜こういうとこが世の女子を落としてしまうんだな〜〜〜〜〜〜〜キラーかよ〜〜〜〜〜〜〜
彼が出ていった後、長い長い溜息をつく。
うっへぇ……腰おっも…………鉛かって……
未だ痛みに顔を顰めながら、うとうととした眠気に身を委ねた。

****

目が覚めると窓から夕日が差し込んでいた。
どうやらだいぶ寝てしまったらしい。夕日って!

「お、目覚めたん?調子どうや?」
「薬効いたみたいでもう痛み全然ないです、帰りまーす」
「ん、なら良かった。気ぃつけて帰るんよー」
「はーい、失礼しましたぁ」

オレンジに染まった廊下を歩いて教室へ向かう。
当たり前だが教室には誰もいなくて、鞄を肩にかけスマートフォンの画面ロックを解除した。
そこには咲良と千昭から心配するメッセージが数件届いている。
ふ、と無意識に笑い、帰ってから返事をしようとポケットに仕舞った。

帰ろうと思ったが、ぴたりと足を止める。
うーん、この時間………部活が終わりそうな時間…鉢合わせでもしたら嫌だな〜……でも確率低いだろうし……
ちょっと外見てみて居たらタイミングずらして帰ろう、そうしよ
そう思っていたのに。

「……………何してんの」
「お、待っとったで」
「何でよ」

玄関の壁に背を預け立っていたのは白石だった。何?待っていたとは何?

「何か用事?」
「一緒に帰ろ思て」
「何で!?」
「猫宮さんが道端で動けなくなってしもたら大変やんか」
「もう痛みもないから大丈夫だって!だから白石はとっとと帰んな!」
「ええやろ家まで送るくらい、な?」

そう笑いかけ、あたしの前にくると、目にかかっていたあたしの前髪を横に流してくれた。
何やっとんねん彼氏か。

「白石そういうのやめたほうがいいよ、勘違いする子絶対いるから」
「他の子にはせんよ」
「そういうことじゃなくてーまだ付き合ってるって勘違いする人達出てくるからー」
「ほな二人だけの時にする」
「そういう問題じゃなくてぇー」

白石はー………んー…バカなのかな……??
何故そこまで関わってこようとするのか。いや、まあそれは、まあいいとして。
……スキンシップというかなんというか、誰にでもこんな感じなのか?
いやでも他の子にはしないって言ってたなぁ……あれかなぁ…あたし子供みたいに思われてるのかな………あらやだ失礼ね…一応中身高校生だぞ

「とにかく帰ろうや、な」

じっと白石を見つめ固まっていたが、彼はあたしの額に貼られた湿布を撫でながら笑いかける。
その甘々な笑顔、ホイホイとしないでほしい。落とされそうになるからやめてくれ。

****

「あ、」
「ん?」

本屋の前を通りかかると、ふと思い出した。新刊買ってねえ!

「ごめん白石、本屋寄ってくからここまででいいよ。また明日ね」
「それなら俺も寄ってくわ」
「なんでっ!」
「家まで送る言うたやろ?」
「そっすか………」


新刊コーナーを見ると、買っている漫画が数冊新刊を出していた。
うわこれめっちゃ気になってたやつ!読むの楽しみ過ぎる〜
はー本屋は癒されるなぁ………ここに寝たいわ

買う予定だった新刊を全て手に取り、会計を済ませると雑誌を読んでいた白石に声をかけた。
……中学生とは思えないでかい背中だな…くそ……この背中好きだちくしょう…

「白石ぃ」
「ん?もう済んだん?」
「うん」
「ほな帰ろか」
「白石スパダリっぽい」
「なんやそれ」


購入した漫画本の袋を鞄に詰め込み適当に白石と会話をしながら家へと向かう。
おっかしいなぁ、こんな二人で帰るなんて仲になるはずじゃなかったのになぁ……思ってた以上に白石グイグイくるわぁ
面倒事の匂いしかしないぜ
………いやいや、そんな自分勝手な考えで決めつけちゃいけないよな。反省しよう

「一つ聞いてええか?」
「んー?」
「財前に名前で呼ばれとるん?」
「許可してないんだけど勝手にね」
「仲良うなったなぁ」
「授業中とか夜とかやたらLINEくるんだけど9割シカトしてる」
「えっ、めっちゃ手懐けとるやんか」
「あまりにもシカトし過ぎて怒りの電話がかかってきたのが昨日」
「財前から電話かけることあるんや…」

白石は目を見開いて関心している。
友達同士でもあんなにやり取りしないよ、どうにかしてよ

「俺も、名前で呼んでええやろか?」
「……何で」
「猫宮さんともっと仲良うなるためやな」
「今以上に仲良くなる必要ある…?充分仲良くない?」
「ええやん、隣の席っちゅーのも何かの運命やろうし。この世界がおかしいっちゅーのも俺らしか気づいてへんし、色々と便利ちゃう?」
「それとこれと名前で呼ぶことに何の意味が」
「ぶっちゃけ財前が羨ましい」
「意味わからん」
「俺のことも名前で呼んでええから!な?」
「蔵リン?」
「それだけはアカン!」

ワガママ!
でも蔵ノ介って………ちょっと…呼びづらい…
かと言って『蔵』って呼ぶのは馴れ馴れしすぎるしなんか違う。彼女か。
あっ別にあたしまで無理して名前呼びにする必要はないか……

「仕方ないなぁ、なんとでも呼んでおくれ」
「おおきに、理久」

そう言って、何か期待に満ちた目で見つめてくる。
呼べってか!?今呼べってか!!?!?今!!?無理無理無理無理恥ずかしいから!!

「………なんだよ…」
「理久、俺の名前知っとる?」
「知ってるわ!」
「ほな呼んで」
「えー……白石じゃだめなの…」
「…呼んでくれへんの?」

しゅん、と眉を下げ残念そうにこちらを見る彼に罪悪感が湧き溢れる。やめろぉ!!
そんな顔をするでない!!子犬か!!捨てられた子犬か!!あたしは猫派だ!!
あ!!白石猫飼ってたから白石も猫派か!!
じゃあ捨てられた子猫だな!!違うそんな話じゃない!!!

「………蔵ノ介」

あー名前呼びなんてしたら今度こそいじめられそ……責任取れよお前…

「おおきに!」

名前を呼ばれたことに嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。
そんな顔を見たら、まあいいかと思えてあたしも笑みをこぼした。
一歩間違えると悩殺スマイルだな。

「蔵ノ介がモテる理由がよーくわかったよ、今まで以上に」
「別にモテてもそこまで嬉しないんやけどなぁ」
「テニスが恋人だもんね」
「そんなとこやな」
「罪な男め」
「それそっくりそのまま理久に返すわ。最近理久が陰で何て呼ばれてるか知っとる?」
「え!?何あたし何言われてんの!?」
「無差別女子キラー(自覚無し)」
「やだなぁ自覚くらいあるよ」
「確信犯やないか、質悪いわぁ」
「誉め言葉として受け取っておくね」
「罪な女やで……」