11バレた

自分の意志とは関係なしに白石との仲は深まるばかりである。
あの時名前で呼ぶとは言ったが結局未だに慣れず白石呼びに戻ってしまった。
白石と呼ぶたび彼は寂しそうな顔をする。いや無理だって。

そんなあたしは放課後お手伝いと云う名のバイトを始めました。
母の友達がやっている小さなカフェで、行ける時に数時間バイトをすることになった。
元々小さいカフェというのもあって基本一人で切り盛りできるが、客寄せになるかもしれないということで快諾してもらったのだ。
店長の蘭さんはものすごく良い人だしカラカラとした性格でとても話しやすかった。
見た目はヤンキーだけど。金髪ロングで鋭い目つきだがどことなく色気が半端ない。
蘭さんはあたしを見るなり何か閃いた顔で裏に駆け出し何やら服を持ってきたようだった。

「これ着て!」

そう言われて渡されたのはウエイターの服である。ウエイター!?あたし女の子だけど!?
でも絶対似合うわあたし!!着ます!!
着てみれば蘭さんは無言で親指を立てた。ありがとうございます。
もう完全に男に見せようと化粧で眉毛を少し太く凛々しく描き、蘭さんから渡された黒縁の伊達眼鏡をかける。
完璧である。
そんなあたし、高校生の時のバイトとは男装喫茶だった。
髪は長かったが後ろの低い位置で髪を結い、今のように少し化粧をして出ていたのだ。
てなわけで接待も一応一通り経験済みなので不安はほとんど無かった。

さあ稼ぐぞライブ代ライブグッズ代漫画代洋服代その他諸々……!!

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バイトが順調に進み、日に日に暑さが増すこの頃。
教室の暑さに負け昼休みは校内の涼しい場所を探し回っていた。
ぷらぷらしているとたまたま財前と出会ってしまった。

「うわ、何しとるんすか」
「先輩に対してうわって何?」
「質問に答えてくださいよ」
「何であたしがキレられなきゃなんないの」

悪態をつきながら人についてくるコイツは何なのだろう。

「どこ行くんすか?」
「いや涼しいとこないかなーって」
「水被ったらどないです?」
「そういうことじゃない………あ」

校内を歩き回っていると廊下の端で、白石と咲良が楽しそうに二人で話していた。
あらやだ、微笑ましい。邪魔しちゃ悪いので隣に居た財前の肩に腕を回すと踵を返した。

「部長取られとるやないですか、ええの?」
「いやあたしのじゃないし」
「付き合い始めはあないにイチャイチャしとったのに…」
「やめて!!忘れて!!今すぐ記憶から消して!!」
「気色悪すぎて忘れたくても忘れられへんのですわ」
「それはそれで酷い!!」

肩に回した手は財前によって叩き落され、少し赤くなった手の甲をさする。

「けど、あの先輩の友達、少し気ぃつけたほうがええと思いますよ」
「は?何で?」
「理久先輩は、部長にめっちゃ好かれとったから極端ないじめとか無かったやろうからええけど、部長今フリーやろ。みんな狙ってますわ。そんな中部長に近づきようもんなら確実にターゲットにされると思います」
「マジで……?」

考えてなかった……
多分あたしの場合は、何か世界の抑止力的なもんが働いてるんじゃないかと思う。
じゃなかったら白石にめちゃくちゃ好かれていようがいじめられていたはずである。
どんだけあたしが神経図太くても、だ。
けど咲良は、何の力も働いていない普通の人間だ。
何が起こるかわからない。

「……理久先輩は何で別れたんすか」
「大人の事情」
「何が大人や一歳しか違わんやないすか」
「お前本当可愛くないな!もうちょっと先輩を敬え!!」
「あーおもろ」
「馬鹿にしやがって!!」

ダンダンと床を踏みつければ「地震起こるんでやめてください」と頭を叩かれた。

****

「あっつい………」

もう夏休み間近。
蘭さんに頼まれ男装のまま買い出し中である。
あたしがバイトに入ってから密かに口コミで評判が広がり、女性客が格段に増えた。
年上の女性にちやほやされる、最高に快感だ。ものすごくやりがいを感じる、あと興奮する、やばい。

蘭さんに用意してもらったメンズ服に身を包みながら買い出しを終え店を出ると、見覚えのある人達が目に入った。
………白石達やん…
白石と忍足と…財前………うわ最悪…財前最悪……
え、なんでこんなエンカウント率高いの?何かが引き寄せているの?怖くない?

でもまあ少しとはいえ化粧もしてるしちょっと髪もいじってるし眼鏡かけてるし、服も男の子だしすぐは気付かれないだろう。
そうは言っても早くここから離れたい。その一心で店に帰ろうとした時だった

「あれ、もしかしてポルトの店員さんの直哉くん…?」

背後から声をかけてきたのはいつも店に来てくれる二人のお姉さんだった。
ポルトとは店の名前だ。
そして店では弟の名前を語っているのだが、これ弟にバレたらめっちゃ怒られるだろうな。
あたしを見つけるなり笑顔で声をかけてくれる二人に、いつもの営業スマイルで応じた。
店に来てくださるお客さんはみんなあたしを女だとわかっているが、一応男の格好をしているので男として接してくれるのだ。

「こんなとこでどないしたん?私服もかっこええねぇ」
「ちょっと買い出しで。お二人は?」
「これからポルト行ってコーヒー飲もかーって話しとったんよ」
「そうなんですか、じゃあ一緒に行きますか?」
「やーんこないなとこで会えるなんて嬉しいわぁ、行きましょ行きましょ」

二人のお姉さんはあたしを挟んで両脇に並んだ。
じゃあ行きますかと店の方向に向き直り、

「!!!」

向き直った先には、こちらをガン見して固まる三人がいた。
やっべえめっちゃ見てる、あれ完璧気付いてる、どうしよう……!!!!!

「直哉くんどないしたん?…あ、あれお友達?」
「いや全然!友達じゃないです違います!ささ行きましょ……!」

お姉さん二人の背中を押し今すぐにでもここを立ち去ろうとしたあたしの元に、財前がツカツカと歩み寄ってきたかと思えばかけていた眼鏡を乱暴に外されてしまった。

「先輩何してはるんですかこんな格好で」
「どどどっどどどっどどちら様ですか知らないなそんな人」
「あらぁ、君も男前やねぇ。直哉くんの後輩なん?一緒にお店行く?お姉さんが奢るで?」
「店……?」
「ああああああああああああ何でもない何でもない!ほら!行きましょう二人とも!」

その場から逃げるようにお姉さん二人を連れ走り出した。
もおおおおおおおおあいつデリカシーとか無いの!?普通声かけてくる!?やめてくんない!?マジで!!!

命からがらとでもいうように店に辿り着くと、お姉さん二人を席に案内しいつものウエイター服に着替えた。

「あ゛…………眼鏡……」

しまった、財前に取られたままだった……どうしよ…
不安に駆られていると、店先から「直哉くーん」と声が聞こえる。
明日が怖い………頭が痛くなるのを感じながらお姉さんの元へ走った。