「で、昨日何してはったんですか」
時は放課後、場所はテニス部部室。
既に昨日の三人しかいなくて、部屋の中は妙な静けさがあった。
財前に『教えてくれへんかったら色々バラす』となんとも雑な脅しをかけられ今に至る。
色々ってなんだよ。何を知ってるってんだよ。
別に手伝いだから?(お金貰ってるけど)知り合いのお店手伝ってるだけだから?なんとでも言い訳あるんだけど財前って何考えてるかわかんないんだよなこういう時……どんな社会的攻撃をしてくるかわかったもんじゃない…
床に正座し膝の上で拳を作る。
怖くて顔上げらんねえ
「いや別に………買い物を…」
「わざわざ男みたいな恰好で?」
「あれはその……趣味と言いますか…はい」
「直哉って誰なんすか?」
「うちの弟です」
「何で先輩が弟の名前で呼ばれとるんすか」
「いやあの二人がちょっと勘違いしたらしくて……あたし髪切ったら弟と瓜二つでさぁ……」
この圧は何だ!?何であたし怒られてる感じなの!?別に関係なくない!!?!?
「財前、あんま理久怖がらせんときや」
助け舟を出してくれたのは白石だった。
「言いづらいこともあるやろうし、あんま詮索するんよくないと思うで」
ちらりと白石を見上げると、「な」とあたしに笑いかけてくれた。
神とはこのことじゃないだろうか。白石は神様なのか。ご利益ありそう。
目で「ありがとう」と訴えると、財前はわかりやすく溜息をついた。
「部長だって気になっとるくせに」
「それはそうやけど………」
「別に言いふらしたりせんから、猫宮さん何しとったん?」
タイミングを見計らったように口を挟んできたのは忍足だ。
「忍足くんあたしまだ許してないからねぶつかられたこと」
「まだ許してくれてへんの!?ホンマごめんて……!」
「乙女の繊細なおでこに!弾丸のごとくぶつかりおって!傷ついてたら責任取って嫁にしてもらうとこだったんだからな!医者の息子ゲット!!!」
「絶対嫌や!!!」
「何だと!!」
「うっさい!」
「いっだ!!」
ギャンギャンと忍足と騒いでいると何故かあたしだけ財前に頭をド突かれた。
何であたしだけ!
「何であたしだけ叩かれたの!?」
「謙也さんは一応先輩やから」
「あたしも先輩なんだけど!!?」
「とりあえずほら、言いふらしたりせんからはよ全部吐け」
「あたし先輩!!」
もうヤケだった。
全て事細かに説明するにつれ、少しずつ財前は興味無さそうに生返事をするようになった。
コイツあれだ、もっと面白いことかと思ったらそうでもなくてもう興味無いんだ。
ころす。
「面白いことなんてなかったでしょ!話聞くなら最後までちゃんと聞け馬鹿が!!」
ケッ、と吐き捨て顔を背けた。
「にしても猫宮さんホンマ変わってしもたなぁ……そんな言葉遣いする子やと思わへんかったわ」
忍足が怪訝そうにあたしを見るので、まずいと思った。
周りの話を聞くに、前のあたしは今とは正反対の人格だ。それがここまで変わってしまえばそりゃ少なからず不思議に思う人はいるだろう。
咲良と千昭はもう慣れてしまったようで、詮索も何もしてこない。
ちらと白石に目をやると、どう手助けをしてやろうか迷っているという顔をしていた。
もうそれだけで充分だよ!!お前だけだあたしの味方は!!
「ヤダ!これでも昔と同じくらい乙女だよッ☆」
頭をコツーンと自分の拳で軽く叩いてみる。よくお茶目な女の子がやるあの仕草だね。
あたしの行動に忍足も財前も、この世の終わりを見たんじゃないかって表情をした。
何でだよ。
「白石ぃいいいいッ」
「うわッ」
白石の腰あたりに背後から抱き着き泣きまねをする。
「二人がいじめるぅうううううう部長なんだからどうにかしてよ!!!」
「ちょちょちょちょ力つよッ、もうほっといたらええやんか」
「こんなか弱い乙女にする顔じゃないよあんなのおおおおおおおお」
「か弱い乙女の力やないんやけどこれ、いだだだだ」
白石が痛がればパッと手を離し近くの椅子に座って脚を組んだ。
あたしはテニスの世界にとってギャグ要員か何かか?まあそれならそれでいいけどな
キャラと恋愛なんて勘弁願いたい。
夢小説展開なんてもっての外!!想像しただけで……!!恥ずかしさが込み上げて……!!サブいぼが出るわけで!!
あたしの場合夢小説のヒロインは自分として読むんじゃなくて、あくまでもあたしはただの第三者的立場で読んでた。頭の中で自分好みのヒロインを作り上げて、それを当てはめてキャラとの恋愛を読むっていう。
自分がヒロイン………?違う……違うんだ………あくまであたしはただの読み手なんだ……
じゃあ夢小説読むのちょっと違うくない?なんて思うかもしれないけど、恋愛するキャラが見たいので読むのは止められなかった。
キャラと恋したいわけじゃなくて、『恋をするキャラが見たい』ってことである。
でも跡部様は見たい。
一目でいいから会ってみたい。大阪来てくんねえかな、あ、忍足使えばあっちの忍足経由でどうにかこっち来ないかな
あれでしょ?ジロたんがカニ食いたいっつったら自家用ジェットで北海道行ったんでしょ?
大阪のお好み焼き食いたいって誰かに言ってもらえれば来てくれそうじゃない?
あーーーーーーあの丸眼鏡ちょっと気利かせてくんねえかなーーーーーーー
「理久理久、目死んどる」
「やっべ」
急いできゅるるんとした可愛らしい目に変えるとさっきにも増しておぞましいものを見てしまったという顔をする忍足と財前に飛びかかった。
白石が必死であたしを止めたのは言うまでもない。
****
バイトに勉強に、忙しい日々を送りながら迎えた夏休み。
8月の後半に東京で行われるライブのため、休み返上でバイトに明け暮れた。
寧ろ休みのおかげでフルでバイトに入れるので給料が跳ね上がる。有り難い。
白石達は全国大会かぁ………まあ原作通りだと思うけど。
全国大会の日程は正確には覚えてないけど…ギリギリ…ライブの日程に被る気する……まあ東京広いから会うことないだろう
あとあいつらテニスしてるしな。
新幹線とホテル取ったし、ライブ当日に東京行ってチェックインして、会場行って参戦して、まっすぐホテル帰って一泊して、次の日お土産買ったりして昼過ぎの新幹線で帰る、っと。
完璧!実に無駄の無い計画!白石に聞いてほしいくらいだ!絶対褒めてくれる!!
ライブ前日、珍しく財前から画像が送られてきた。
どうせろくなもんじゃないなんて思ってしまったあたしを許してほしい。
「ああああああああああ跡部様やあああああ本物だああああああああああ」
跡部様を中心に氷帝メンバーが試合観戦をしている写真だった。
財前やりよるぅうううううううううううう
そんな思いを込め、親指を立てた絵文字を連打して送ってやった。
すると今度は電話がかかってきた。
なんなんだ…………
「もしもし?」
『ええもん見せたったんすから大阪帰ったら何か奢ってください』
「そういうの詐欺って言うんだよ!頼んでもないのに勝手に押し付けて!見返り求めるとか!!でも素晴らしい写真だったので承ります!!!」
『は?きも』
そう言って財前は電話を切りやがった。
何なの!?何なの!!?!?
さらに今度は白石からの電話によりスマートフォンが震える。
「もしもし!!?!?おたくの後輩どうなってらっしゃるの!?躾がなってらっしゃらないんじゃないかしら!!先輩に対してきもって何!!?!?」
『うわー理久相変わらず元気やなー』
「毎日元気ですごきげんよう!!!!!」
『やめて笑わせんといて』
「笑ってくれてどうもありがとう!!!!」
ひとしきり笑った白石が、低い声で、ぽつりぽつりと言葉を漏らし始める。
『負けてしもたわ』
「青学でしょ?白石は勝ったでしょ」
『あー……そうか。理久は知っとるんやもんな』
「いや、確信は無かった。もしかしたら漫画通りにはいかないんじゃないかって考えたりもしてたから。優勝は立海じゃなくて青学でいい?」
『せや。……悔しいなぁ』
「勝負だからね、勝つ時は勝つし負ける時は負けるんだ。悔やむのは今日で終わらせなさいね」
『……せやな。いつまでもいじけてられへんもんな』
「まあ関係ないあたしに言われても説得力無いだろうけどね。白石、部長お疲れ様」
少しの間があって、電話口で小さく笑う声がした。
『おおきに。理久と話せて良かったわ』
「やめてやめて何かのフラグみたいだからやめて」
『大阪に帰ったら、……理久に一番に会いに行くって決めてんねん…』
「やめろ!映画によくある死亡フラグやめろ!」
『………プロポーズしに行くから、待っといてな?』
「やwwwwめwwwwろwwww」
『アカン笑い止まらへん』
二人で爆笑しながら、どんな試合だったとか、どんな選手が居るだとか、金ちゃんが傍若無人で大変だとか、あたしにとっては裏話とも言える充実した内容の会話をして
じゃあおやすみと電話を切った。
さあ明日に備えて寝るかとベッドに入るとまたもや財前からの電話だ。
「もう寝るんですけど!!」
『俺、理久先輩と会えへんくて寂しいんすわ』
「え!?そ、それって………」
『物理的にド突ける人居らんから左手余しとるんですよ』
「テニスしてろアホ!!!!!!」
そんなこったろうと思ったわ!!!!!!!