「よーっし、あとは駅でお土産買って帰るだけだな」
昨日のライブは最高を通り越した最高だった。
会場が大きいため、大きい会場でしかできない演出が盛り沢山だったのだ。
火噴いたよ!火!!!
このためにバイトとランニングで鍛えた体は、ライブの余韻を残しながらもピンピンしていた。
「あー帰りたくねーーーーー」
もう一度あの時に戻りたい。できるならば戻りたい。
同じライブは二度と無いのだ、だからこそ、もう一度体感したい。まあ無理だけどな!
チェックアウトして最小限に抑えた荷物の入るキャリーバッグをガラガラと引きながら歩いて行く。
高校生の時は東京に居たから土地勘はばっちりだ。
久しぶりの東京に、どこか懐かしさと寂しさを感じる。
元々はここに住んでたのになぁ……高校生の時の友達は何してるんだろう、近所の人はどうしてるんだろう、そもそも存在しているのか。
………ホームシック的な何かかこれは、泣きたい。
いいんだ、親も弟も居るんだし、一人じゃないだけマシなんだ。
さあお土産何買おうかな、お母さん何食べたいかな
そんなことを考えながら横断歩道に差し掛かる。ちょうど赤になったので大人しく待っていると、後ろからどこか聞き慣れた声が聞こえた。
慣れたと言っても最近聞いた声じゃなくて、前によく聞いていたというか……
「侑士!腹減ったから飯食ってこーぜ!」
「ええけど食べたらはよ帰るで。明日から合宿やねんから」
「わーってるよ!ちゃちゃっと食うって!」
ゆーし………ゆーし……?おいおいまさかこれは……いやあの関西弁…変態くさ…色気のある関西弁は………そしてあの元気な声は……
マジで!?マジで!?居る!?後ろにいらっしゃるの!!?!?
この気配だと二人だけとみた!うっわあああああめっちゃ振り向きてえ!!一目でいいから……ッ!!お姿拝見したいです!!!
そわそわする体を必死に抑え葛藤に苦悩する。
振り向きたい、めっちゃ振り向きたい。けどいきなり振り向いたら絶対変に思われるし、そもそも結構距離近いし。
……よし、この横断歩道を渡ったらそれとなくチラ見してみようそれなら許されるでしょ
よしよしよしそれだ……!
いいんだ、跡部様は財前からの写真で拝めたから、いいんだ……帰ったら美味いもんでも奢ってやろうしかたねえなっ
「にしても全国大会終わってすぐ合宿とか、俺達忙しすぎ」
「まあええやろ。合宿来るんは俺ら氷帝、青学、立海、四天宝寺やったか」
「そうそう、楽しみではあるけどな」
「合宿はええねんけど……宿題どないしよ…」
「やってる暇ねぇよなー……けどやんねえと跡部がうっせえし」
跡部!!跡部いただきましたありがとうございます!!!!
は〜〜〜〜〜なんていい日だ、ホームシックなんて吹っ飛んじまったよ!!!
「おい岳人、こっち向いてへんで前向きぃ」
「だってここの信号なげえんだもん〜腹減ったぁ」
「お前後ろの人にぶつかるで」
「それくらい避けれるっつの………ッ!?」
恐らくたまたま、足が少しもつれたのだろう。
ほんの少しだけ、向日岳人の背中があたしにぶつかった。
まさか彼がぶつかってくるなんて思わないでしょう?しかもたまたまキャリーバッグから手を離した時に。
何がいい日だ、浮かれていた自分が憎い。
ただぶつかられただけなら「すみません」「いえいえ」なんて言葉を交わせるし顔も見れるチャンスだっただけだ。
それだけならよかったのに。
バランスを崩したあたしは道路に飛び出してしまった。
思いもよらなかった衝撃にそのまま道路で転んでしまったのだ。
地面についた手が少し痛い……そう思って横を見ると、すぐ目の前に、車が、
あたしの人生終わったのかもしれない
****
「何だと?」
突然電話で話し始めた跡部の表情が険しくなった。
何か問題でも起きたのだろうか、そう思わせる声色だ。
明日から始まる合宿のため、青学、立海、四天宝寺のメンバーは跡部の持ち物の合宿所に集まっていた。
ロビーで談笑をしていると、跡部の元に一本の電話がかかってきたのだ。
「そうか、わかった。今行く」
電話を切ると、険しい表情はそのままで白石に声をかける。
「白石、お前、猫宮理久という生徒を知っているか?」
「知っとる……同じクラスやし………けど…どないしたん?」
「猫宮理久という四天宝寺の生徒が、東京駅近くで事故に遭ったらしい」
「は!?」
事故、という単語に四天宝寺の面々が大きく反応した。
財前までもが目を見開き跡部を凝視している。
「跡部クン、それ確かなんか…!?」
「ああ。その場に向日と忍足が居たらしい……今から病院へ行こうと思うが、お前も来るか?」
「もちろんや」
「俺も行かせてもろてええですか」
さっきとは変わって落ち着いた表情に戻った財前が口を挟む。
跡部は少し考えるような素振りだったが、頷いた。
取り乱してはいないが白石の表情は硬い。心なしか青くもある。
そんな彼の肩を財前が叩いた。
「理久先輩なら大丈夫っすよ」
「…………だと、ええな…」
****
「あーお母さん?これから帰る予定だったんだけど事故っちゃったー」
電話可能な場所で椅子に座りながら母親に電話をすると、『はあああああああ!!!?!?!』という絶叫にも似た声が頭の中に響いた。頭割れるぅ
「事故っつっても軽く当たっただけだから、大丈夫大丈夫。そこまでスピード出てなかったし。色々擦りむいたけどね……おでこぶっけたし…救急車乗っちゃったよ…」
とりあえず事故ったことと、無事だったこと、事細かく説明すると電話を切った。
別に意識を失ったとかではない。事故を見ていた誰かが即座に救急車を呼んでくれちゃっただけだ
検査したけど異常無かったし……帰っていいかなぁ…
ていうか新幹線おもっきし乗り遅れたし…どうしよ……自由席なら乗れるんだっけ…?めんどくさ……かと言って買いなおしも嫌だし……はあああぁ……ついてねー…
別に向日が悪いわけじゃないよ、ほんとちょこっとぶつかっただけだし。
………もつれたあたしの足が悪いんだ…
気分は落ち込んだまま、俯きがちに自分の病室へ向かう。
廊下を歩いていると、向こう側から数人歩いてくるのが分かった。まあその人達とすれ違う前に部屋辿り着くし避けなくていいか、なんて思いながら見上げると、白石達だった。
「………」
「………」
「………………し、白石……」
「…ッ理久……!」
ちょっと!病院だから静かにして…!そう言う前に彼に抱き締められた。
それはもうぎゅうぎゅうと力一杯。
白石あたし一応怪我人なんだけどな……
「無事でよかった……!!」
「……白石苦しい………………」
「あ゛っ…すまん……」
「いいけどさ……じゃ、あたし部屋戻るから」
「あ、おう」
白石に体を離してもらいじゃあねと手を振って病室へ入った。
よくよく見たら跡部様おるがなああああああああああああびっくりしたああああああああああああ
はーびっくりした……白石達は病院に何の用………まさか白石怪我したのか!?何!!?!?
急いでドアを開ければ立ち尽くしていた白石に声をかけた。
「白石怪我したから病院来たの!?」
「お前に会いに来たんじゃアホが何コントさらしとんねん」
「んぐッ!!」
財前に頬を鷲掴みにされ、財前が居たことに今気づいた。
今さらっとお前って言った?アホって言った?
そのままあたしを押し込むように病室に入ってくると、白石達までもが部屋に入ってきた。どうした?
「いやあ東京で会えるなんて奇跡だねぇ」
「事故ったって聞いた時は心臓止まるかと思ったわ…」
「ていうか何で知ってんの」
首を傾げハテナを浮かべていると、忍足に促され向日が数歩近寄ってきた。
「……俺がぶつかったせいで、その、悪かった…」
「………あ、あー………あー?いやいや、そんな強くぶつかられたわけじゃなかったし?あたしが足もつれたのがいけないんだし…君のせいではない全然全く」
向日が申し訳なさそうに目を伏せる。やだかっわい!!!この子かっわい!!!もう怪我治りそう!!
横で見ていた跡部が体ごとこちらへ向く。正面から見てしまうとなんだこのド迫力は
「うちの部員のせいですまなかった。病院代はこちらが支払う」
「いやいやいや!そっちのせいじゃないですから本当に!お構いなく!」
「原因を作ったのはうちなんだ、少なからず非はある。何と言われようと、後は任せてくれ」
「ええー…………そうですか……じゃあお言葉に甘えて…」
ぺこっと頭を下げ跡部をチラ見すると、未だ気難しそうな表情をしていた。かっちょいい
まあいいか………ご厚意に甘えよう。ラッキー
「じゃあもう帰るんで、手続きとか、お願いできますか?よくわかんないんすよね」
「もう帰るん!?普通念のため入院とかせんの!?」
「新幹線乗り過ごしちゃったんだよ……自由席なら今日の切符で乗れるはずだよね?買いなおしとか無理だから今日帰らないとまずいんだわ」
「でも帰りに何かあったらどないするん?後遺症とか…」
「いや無いから……ほんと軽く当たっただけだから…」
心配に心配を重ねてくる白石に溜息が出た。ああ、なんか子供の頃を思い出してしまう。
本人が大丈夫だって言ってんだから信じていただきたい。
「……よし、じゃあこうしよう。新幹線代も俺が出してやる。だが一人で帰すのはさすがに何が起きるかわからねえからな、猫宮も明日からの合宿に来てもらう。で、合宿が終わったら白石達と一緒に帰りゃいい」
「……………は…」
…じ……事故の次は事件発生……………