「え、私がですか」
放課後、人が疎らな廊下を歩いていると少し慌てた担任とすれ違った。
どうしたんだろうと思いながらもそのまま歩いて行く。と思ったら後ろから呼び止められてしまった。
どうにもプリントを日吉に渡してほしいとのことだった。
何故私なのかと理久は少し顔を顰め、クリアファイルに収められたプリントを力なく握る。
殆ど無理矢理押し付けられたようなもので、理久がプリントを受け取ると担任は颯爽と廊下を走っていった。教師が廊下を走るものではない。
さっさと渡して帰ろう、なんならめぐるにでも頼もうと、重い足を動かした。
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テニスコートを前にして、理久は尻込みしてしまう。
何せコートを囲う女子の数がすごいのだ。この人数の間に割って入る自信はさすがの理久にもない。
こうなったらやはりめぐるを頼るほかないだろうと女テニのほうへ歩を進める。
むしろ部室はどこだ、なんなんだこのでかい学校は。妙な焦りから心の内で一人毒づく。帰り際に面倒事を押し付けられたものだと溜息をつくと、前方に見知った背中を見つけた。
「めぐる!」
「あ!理久!もしかして入部しに!?」
「ううん違う!」
「えぇーーー」
理久の否定する返しにめぐるは見るからに落胆した。
「ねえこれ、日吉くんに渡してくれないかな。担任に頼まれた」
「男テニの部室なら向こうだよ、まだ出てきてないから居ると思うよ!」
「いやいやいや部外者が部室まで行けるわけないじゃん女子に殺されるよ私まだ生きてたい」
「でも私ももう練習始まるし…」
「帰りでもいいから……!」
必死な理久を見て何かを閃いためぐるは、にやりと笑う。
「部室まで連れてってあげるから!あとは自分で渡して!はい行こう!」
「待って、待って待って待って行きたくないいいいい」
流石は運動部、理久はめぐるの腕力には勝てなかった。
ズルズルと引きずられ連れてこられたのは建物の前。ここが男子テニス部の部室だろう、と理久は気が遠くなった。
「じゃ、私練習あるから。じゃね!」
「は!?」
無情にもそんな軽いノリで理久は一人取り残されてしまった。
初めて来た場所で、知らない人しかいないだろう部屋の扉を叩く勇気はない。そんな勇気あったら本当に図太い神経していると思う。周りが言う程私は図太くないのだ。
どうしよう、とりあえずここから少し離れて誰かが出てくるのを待とうかと考えているうちに目の前の扉が開いた。終わった。
「………」
扉を開けた丸眼鏡の彼は、理久を見て暫し固まる。当然だろう、扉を開けたら知らない人が立っていたのだから。
「あー……どないしたん?」
「いや、あの、日吉くん居ますか…」
「日吉のファンの子か?すまんな、今から部活で…」
「いやいやいやいやファンとかじゃなくて、担任に頼まれ事して…あ!これ……」
「…猫宮?」
これを彼に渡してもらえますか、という言葉は虚しくも続かなかった。
少し驚いた表情の日吉が、丸眼鏡の彼の後ろから顔を覗かせたからだ。