15暇暇暇

「お、来た来た」

買い物を終え合宿所に向かうと、白石が出迎えてくれた。
白石だけじゃなく、何か一緒に話をしていたのか各学校の部長も一緒だった。
うっふぁああああああ幸村に手塚に何故か真田もいる。あと跡部。
手に持てないくらいの紙袋と箱達は跡部がつけてくれたメイドさん達によって中に運び込まれた。
未だ後ろに立っているということは部屋まで運んでくれるということなのだろう。

「えらい荷物やな………」
「…怖い……あのメイドめっちゃ怖い………あたしが手つけたものとかちょっといいなー程度に見てたものを後ろで全部買ってんだよ…怖くない…?あたしがレジまで持ってったのってこの紙袋一個だよ……?それ以外これ……何個あんのこれ………これっ……これだけあったらいくら課金できんだ…」
「理久大丈夫か、目死んどるけど」
「振り向いた時の怖さわかる?あたし買った覚えないのにメイドさん達大荷物持っててさ、え、皆さんお買い物したんですか?って聞いたら『猫宮様が手にとったものです』って………いや……ちょっと触っただけだし……柄とか見るために触っただけだし………ただのゾッとする話です…」
「何か面白い」
「笑ってんじゃねー!!」
「俺も荷物運び手伝ったるわ、ふふ」
「笑いながら言うなよ!!」
「すまんて、あまりにも理久が怯えとるからうちの猫思い出してしもた、はーおかし」
「絶対白石もびびるから……!!戦慄するからマジで!!」
「はいはい、ほな部屋行こかー。跡部クン、理久の部屋どこ?」

白石は散々笑った後、あたしを放置して跡部の元に部屋を聞きに行った。
体験してなからわかんないんだあの怖さを……!!馬鹿にしやがって!!

ギリギリと歯を噛み締めていると、幸村が声をかけてきた。
綺麗ですね!!!ひれ伏しそう!!

「君が、猫宮さん?」
「そうですすいません」
「ふふ、どうして謝るんだい?」
「いや……歓迎されてはいないだろうし…」
「へえ…わかってるんだ」

やっぱりかッ
わかってたけど!氷のような微笑み!怖い!

「変な動きしたら、即追い出しちゃうから」
「はぁい」

身の程はわきまえつつ、少し馬鹿な女を演じてみる。
幸村は一瞬顔を顰めたがすぐ先程の笑顔に戻った。

「おーっと、すまんなぁ幸村クン。理久んことあんまイジメんといてや」

若干睨み合うあたし達の間に白石が割り込んでくる。
やだーゆっきーが見えなーい
助けてもらう程険悪でもなかったろうに、白石優男なんだから〜

「部屋行くで〜」

手首を掴まれ半ば無理矢理連れて行かれる。
大量過ぎる紙袋達をたくさん抱え部屋に向かう時幸村の表情を盗み見てみると、嫌そうな、なんとも言えない苦い表情をしている。
それを見た時無意識にも小さくガッツポーズをしてしまったが、慌てて何事もなかったかのように振る舞い白石案内に従って再び歩き出す。

****

「あの女子は一体誰だ?」
「真田話聞いてなかったのかい?ほら、事故に遭ったっていう…」
「ああ、四天宝寺の生徒か」
「跡部、いいのかい女の子なんか入れて」
「あいつなら問題ないだろう、俺の目に狂いはねぇよ」
「ふぅん……さっき俺の顔見てガッツポーズしてたんだよね、何だろう」

顎に手を当てて考え込むように視線を下げる。
ガッツポーズをされる程、さっき自分は良い顔をしていなかったはずだ。なのに何故…

「とりあえず合宿の邪魔にならないのであれば問題ないだろう」

特に興味を示していない手塚は、気にする程でもないと言いたげだ。

「だといいけれど」

どこか腑に落ちない幸村は、理久が歩いていった方向をぼんやりと眺めていた。

****

次の日、あたしは彼らが来る少し前に食堂へ来ていた。
鉢合わせとか怖いですし、白石に頼るのも何か違うし。
かと言って先に食べてると絶対何か言われるだろうなと思ったので、入口から一番遠い席に座りイヤホンをして曲を聴きながら黙々と食べていた。
ふと目の前に誰かが座る。
誰だと思って見上げると、白石だった。

「おはよう白石」
「おはようさん。早いんやな」
「目覚めちゃってさあ。あ、あのさ」

そう口を開きかけた瞬間、やけにでかい声がこちらに向けて発せられた。

「あっれ、何で女がいるんすか?」

立海の切原赤也はわざとらしく嫌味をぶつけてくる。にやついた顔でこちらをチラ見しながらあたしに聞こえるように、自分の先輩達に問いかけているのだ。
当然白石は気付いて、奴を注意しようとするがそれは止めた。
お決まりの展開どうもありがとう。いっそ笑ってしまいそうだよ。
まあそんなことはどうでもいいので完全シカトをして話を続けよう。
見向きもしないあたしに切原は盛大に舌打ちをかましていたけど。

「あのさ、練習メニューにランニングとか入ってる?」
「入っとるけど…」
「後でそのコース教えてくれない?みんなが走ってない時にあたしも走りたい」
「アーン?猫宮、お前走れんのか」

話を勝手に聞いてんじゃないよキング
何故か当たり前のように白石の隣に座る跡部は、面白そうだと言わんばかりの顔をしている。何も面白くない。

「やること無さ過ぎて絶対暇だし、無駄に昨日ランニングウェアまで買ってもらっちゃったんでね、できるならトレーニングルームも使ってみたいんだけど、だめかな」
「へぇ……構わねえぜ。トレーニングルームなら俺達が使うのとは別に最低限のしか置いてない小さい部屋もあるからそっちを使いな。そっちはお前専用にしといてやる」
「マジ、跡部さん大盤振る舞いだね」
「それくらい余裕だ」
「いやいやいやいや、理久怪我しとるんやからちょっと我慢せな…」
「じゃあもし死んでも誰にも迷惑かけませんって遺書書いとくね」
「そういう問題ちゃうわ!」
「跡部さんランニングコース教えてついでにみんなのスケジュール教えて、被らないようにするから」
「任せろ」
「俺のことは無視ですか〜」

白石を無視して淡々と会話を続けるあたし達に、寂しそうな目をこちらに向ける白石はとても可愛かったです。めっちゃ笑うわ。

****

新品のランニングウェアに身を包み、しっかりとイヤホンをして教えられたコースをぐるぐるひたすら走る。倒れて迷惑をかけないように合間合間に水分を取りながらひたすらぐるぐると。ランナーズハイになってしまうともう楽しくて。自分は少しM気があるのだろうか、そう思ってしまう程に極限まで体を動かすことが好きである。
何かこう、鍛えられてる感じがして興奮するというか……あと大好きなバンドを聴いているから尚更である。
ふとスマートフォンを見ると、二時間半が経過していた。いやしっかり休憩は挟んでいたから走っていた時間はそれよりも少ないだろう

「今日調子良いな」

合宿所近くまで戻り置いていたタオルで汗を拭きながらその場でぴょんぴょんと跳ねる。
ライブで充電しまくったからかな、めっちゃ調子良い
そんなことを呟きながら何気なく振り返るといつの間にか人が居た。

「うわビックリした!!!!!何!!!!」

あまりにも驚き過ぎて声を大きくしてしまう。やめてくれよ!!仁王かよ!!

「うるさいのう」
「誰のせいだ……」
「お前さんは何でこの合宿に居るん」
「えー………説明すんのめんどくさい…」
「めんどくさい、ねぇ……」
「そちらはサボりですか?」
「おっと、告げ口でもする気か?」
「いやあおたくの部長さんにあたし嫌われてるんでね、言いたくても言えないんですわ」
「へぇ」

仁王は少し目を見開き驚いた表情をする。

「まあうちもそうじゃが、どこの学校の女もしつこいらしくてな、お前さんに限らず大抵皆女を嫌っとる」
「そっか〜じゃあ君も?」
「まあな」
「じゃあ何であたしの後ろに居たの」
「一人の時程本性は表れやすいからな」
「あたしのこと見張ってたの?暇なの……?練習しなさいよ…」
「失礼な奴」
「人のこと見張ってた奴に言われたくないわー……とりあえず失礼します」

このままじゃ埒が明かない。
暇人仁王を気の毒そうに見てやりながら再び走り出した。はー美形ばっかで理久困っちゃうな〜目がやられちゃう〜

「ああーーーーライブ行きてーーーー」
「何の?」

独り言だったはずの言葉に何故か声が返ってきた。ふと斜め後ろを見ると、仁王がついてきていたのだ。

「ビックリした!!!!!ついてこないでくださる!?」
「俺のメニューが外周なだけじゃよ」
「嘘つくなよ合宿所のほうからめっちゃテニスボールの音してるよ!?」
「幻聴か?大変じゃの」
「何だコイツこわ!!!!」

結局あたしが止まるまでひたすらついてきた仁王。気味悪いな……