16面倒事は歩いてやってくる

この世界を甘く見ていた。
そもそも咲良といい関係じゃない時点で、あたしにとってこの世界は地獄のようなものだろう。
逆に面と向かって喧嘩ができたほうがいいんじゃないかというくらい、実際はドロドロしている。あたしだけなのだろうか。
居心地がいいわけなんてないじゃない。テニプリのキャラがいようが、仲良くしようが、ときめこうが、浮かれるのなんて今だけなんだ。
事実、既に白石達が居るこの環境にもう慣れてしまっている。
あれ程追いかけて夢に見て恋をしていたキャラ達が今現実に居るというのに、それが当たり前とでもいうかのように、浮ついていた気持ちはゆっくりゆっくり沈んでいった。

しかもあたしは嫌われ要員であるということ。
その現実が、ますますキャラとの関わりを拒絶する。
嫌われてるのわかっててグイグイ関わっていけますか?無理っしょどう考えたって無理っしょ
ねー、こんな状態だと白石達と話をするのも躊躇う。あたしと仲良くしてしまうことによって他の学校に何か言われるんじゃないかって、嫌でも考えてしまうよねぇ
自分には関係ないからって割り切れればいいんだけど、申し訳なさが先だってそれができない。


「あっちーなー…」

昼食も食べず木陰で寝そべっていると、少しおセンチになってしまったようだ。
予め白石には連絡してある。探されたら困るしね…

学校でも嫌われここでも嫌われ。
いやでもどうなんだろ、全校生徒に嫌われてるはずがそれなりに声をかけられていた。
主に後輩に。
まあ確信犯なところもあるけども。女子にモテるのは楽しい
それでもあたしを快く思ってない人もいるのは事実で、あたしを見るたびヒソヒソとあからさまに悪口を言っている人もいた。害が無いのなら気にしなければいいだけだ
あたしが気にしたところで何になる、前の自分はどれだけ周りに害を与えていたと思ってんだ。
それなのにいじめも何も無い、この現状を有難く思わなければならない。これ以上を望んではいけない。
これ以上を望むとしたら、咲良や、千昭と、心から親友になりたいということだけだ。


気分が沈んだまま、もう午後は部屋に引きこもってゲームをしようと重い足取りで部屋に向かう。
みんなまだ食堂なのだろうか、ガヤガヤとした声が食堂のほうから聞こえていた。

訂正、みんなじゃなかったらしい。

「あれ、何してんスか?」

廊下の向こうから来たのは切原と仁王。仁王は少し「まずった…」みたいな顔をした。
どうしたどうした
切原はへらへらとしていたがどこか苛立っているようだ。お?副部長にでも叱られたんか?ざまぁ
口を利けばろくなことにならないと思い会釈をして彼らの隣を通り過ぎた、が

「無視すんなよ」

低い、敵意がこもった声色。ああ今はやめてくれ、こっちだって色々あるんだから
くるりと振り返れば首を傾げて何?と態度で示した。

「アンタさぁ、事故ったか何か知らねーけどここが場違いなの分かってんの?」

わかってるよ、マネージャーでもないテニスやるわけでもない、ただ白石達と同じ学校ってだけのあたしがここに居ることは普通におかしい。
でもこれは言わせてほしい。文句は全て跡部に言ってほしい、と。
言い訳になるので言えないけどね。

「関係ねぇ奴がいると、みんな迷惑すんだよ。部外者が居る中で練習とか集中できるわけなくねぇ?」
「……………いや…それってその程度の集中力ってことじゃない?」

若干半笑いになりながら、つい口から零れた言葉。
仁王はあちゃーという顔をしていたのであたしもあちゃーとなった。どう考えたって言っちゃだめなやつ
じわじわと目が赤くなる切原に内心やべえと思いつつ目を逸らせないでいる。
おお………これは原作で初めて読んだ時若干トラウマになったね。あの暴力的なテニス、普通に怖かったからなお前
言い返せないのか、彼は黙り込んでしまった。拳をきつく握り締めながら。
じゃああたしは行こうかなと体を少し動かした、その時

「ッ!!」

まさかの裏拳が飛んできたわけで。
切原の手の骨ががつんと口端にぶつかった。
えーーーー待って待って待って、この世界暴力アリなんですか?そういうちょっと激しい系の嫌われなの?うわ立海の生徒にならなくてよかった!!四天宝寺でよかった!!

「赤也!」
「い゛ッ……」

制止する仁王を振り切り間髪入れずに正面からあたしの腹に蹴りを入れる。
切原を止めようとはするが、あたしを助けようとはしないとこを見るとあたしがどうなろうが別に興味ないんだろうなとどこか冷静に考えてしまう。
普通に痛くてその場に片膝をついてしまった。男が女に手上げるなんて信じらんない……小説内だけじゃないのかそういうのは。
僅かに上を向くと、待ってましたと言わんばかりに今度は顔を蹴られる。さっき殴られた場所と同じところに。上履き痛すぎだから……つーか顔蹴るってどんだけ…

「アンタみたいな奴が居るから俺らは使わなくてもいい神経使って、うるせえ声の中練習して!わかるかよ、そのせいで精神が擦り減っていく俺らの気持ちが!どいつもこいつもテニス部目当てで近寄ってくる気持ち悪さが!アンタにわかんのかよ!!」

いやわからないよ……あたしテニス部じゃないし…テニスしないし……そんな男子に言い寄られたこともないですし…
ああ、今まであったことの積み重ねが今の状態なわけか。女はみんなテニス部目当てに見えると……大変だったんですね…

ふと、咲良達が頭をよぎる。
切原はこうしてあたしに対しての怒りや嫌悪を言葉と行動に表してる。
もし咲良達も、彼と同じように言葉にして行動に表していたのならどうなっていただろう。実際そんなことをする子達ではないのだが。
けれどきっとこんな感情が咲良達の中にもあってそれを押し殺してあたしと接していてくれてるのだとしたら、何て自分は幸せ者なのだろう。
自分だけ幸せな思いをしてこんな所まで来て、ああ、何で自分だけ

痛みで泣きそうになるのを必死に堪え、立ち上がる。
言ってることはあたしと全く何の関係もないけど、言い返せる程あたしの立場は良くない。極端に言うと居候みたいなもんだからな、跡部のせいだけど
しっかりと切原を見据えた後、深く頭を下げた。

「ごめん」

何であたしが謝ってんだろうな……
とりあえず頭を下げ、彼らの顔も見ないまま逃げるように部屋へ向かった。
彼らが追ってくることはなかった。

部屋の鏡を見るともうそれはそれは痛々しくて。
唇切れて血出てるし口端から頬にかけて青黒いというかもう……お前これどうすんねん部屋から出んなってか……

どうしよう………