この痣をどう言い訳しようか、悩みに悩んでゲーム中。
悩んでもいい案が浮かばなくてゲームしだしてしまった。
考えて考えて、辿り着いた答えが一つあった。
勝手に帰ってしまおうかなと。誰にも見つからないようにこっそりと……ああああああだめだこの荷物どうしようこっそり持ってける量じゃ……あ、置いてけばいいか…
………隠そうとするからだめなんだ。堂々としろ自分
そうだよ堂々として、何ですかって態度でいればいい。少しでも動揺してしまえば終わりだ、見せろ女優魂
あれはもう仲良くするなんてできっこない。
だったらどう彼らのために接触せずに合宿を終わらせるかが大事だ。
夕食時、意を決して食堂へ向かった。
「あ、理久………え゛ッ!!!?」
食堂に入ってきたあたしを見るなり白石は顔を引き攣らせた。
うちの学校はもちろん他校の面々もあたしを見て目を見開き静止する。
「お疲れ白石。昼食べなかったからお腹すいたーけどゲームはかどったー」
よっ、と軽く白石に声をかけバランスの良いご飯が乗ったトレーを持ち奥の席に座る。
食べようとすると、切れた唇と口端がパリ、と音を立てた。あああああああいったい!!!!
痛くて口を手で押さえ涙目になりながら痛みに耐えていると血相を変えた白石があたしの元へ走ってきた。
「理久!?その痣どないしたん…!!?」
「ちょっと待って……今痛くて…」
「誰かに殴られたんか!?ほんまにどないして……!」
「うっさいわ待てっつってんでしょうが!」
あわあわする白石を落ち着かせようと頭を叩く。
あああああ叫んだせいでまた切れた!!もうこれは泣く
痛みで涙を流しながら、ゆっくりと口を開く。
視界の端で、切原が少し青い表情でこちらを見ていた。それは仁王もだった。
「お昼に、仰向けで、スマホいじってたら、手滑ってスマホ顔面に落ちてきて、角が当たった……」
考えた理由はこれだった。
なんかもう現状痛いし、その理由を実際想像してみたら痛すぎてますます泣けてきた。
「寝ぼけてて、それを三回もやっちゃって、もう痛くて痛くて泣いていいですか…」
ぽろぽろと涙を流すあたしに白石はますます動揺してしまって。
経験上、これで八割は信じてもらえただろう。
「うわぁ……理久先輩アホやな…いたそ…」
「痛い………でもごはんはたべたい……」
「流動食でも作ってもらいますか」
「それはやだ…」
あの財前ですら信じている。完璧である。
「猫宮ちゃん大丈夫なん!?手当してへんの!?」
「不器用なもんで……」
「ご飯食べたら医務室行くで!」
「ありがとう小春ちゃん…」
「オイふざけんな俺の小春勝手に使うな」
「やかましいねん一氏黙っとき」
「小春ぅ……」
鋭い睨みで一氏を一蹴した小春ちゃんには大変心ときめきました。
すると頭に大きな手が乗る。
おう練習中どこに行ったか分からんくなってた千歳やないかいお前ちゃんと参加してたのか?
「大丈夫なん?」
「まあ何とか……千歳後でガチャやって。欲しいカードあんのよ」
「よかよ」
****
「あの怪我、物が落ちたくらいでなるものかな」
ふと、不二が呟く。
怪我の理由を不思議に思った人はいるようで、彼の言葉を聞いた人達はうーんと唸った。
「……別に、そう言ってるんだったらそうなんじゃないすか」
そう興味無さげに答えたのは越前だ。自分達に関係ないのだからどうだっていいだろう、そんな意味も込めた言葉に、唸っていた周りも僅かに同調した。
「けどよ、まるで殴られたような痣だよなぁ」
理久のほうを横目で見ながら言った桃城の言葉に、近くのテーブルに居た切原がドキリとする。
一応、自分のしたことがまずいことくらいわかっているのだろう。冷や汗をかき無言のまま食事をしている。いつもは騒がしいくらいなのに。
「ん?赤也、顔色悪くねぇ?」
「!?んなことないっスよ!何言ってるんスか丸井先輩!」
「具合でも悪いのかい、赤也」
幸村が声をかけるとさらに動揺した。いくら先輩達もあの人を嫌っているからって、殴って蹴ったなんて知られたらどうなるかわからない。
びくびくしながら理久のほうをちらりと見る。
すると、切原は理久と目が合ってしまった。お互い少しびっくりしていたが、それは一瞬のことだ。理久の視線が鋭くなったのだ。ギッと睨み付ける理久に切原は少したじろぎ、彼女の意図を汲み取る。
『言ったら殺す』
もうストレートにそう言われた気がした。
おかしい、それは俺が言うはずの言葉であってあっちのセリフでは無いはずだ、断じて。
だが今はそんなことどうでもいい、どうか副部長達にバレませんようにと、心からそう願った。
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小春ちゃんに手当をしてもらい、部屋に戻る途中仁王に出くわした。
何か縮こまってて気付かなかったが後ろに切原もいた。暗ッ
「お前さん、何で嘘ついたんじゃ」
「丸く収まるかと思って」
「そんな怪我しといて嘘つくって、自分にとって不利益じゃなか?」
「いや、利益ありまくりだよ。本当のこと言ったらどうなると思う?言い争いが始まるのが目に見えてるでしょう。その原因があたしとかマジで御免だわ」
「ずっと隠す気か?」
「当たり前でしょう」
「だってよ、赤也」
おずおずと仁王の後ろから出てきた切原は、昼間の威圧感も勢いもなくしおれていた。
心なしか頭のワカメも元気が無い。どうしよう笑ってしまいそう。
「……………怪我……そこまでするつもりなくて、その……すんませんでした」
「あーいいからいいから謝んなくて。大丈夫大丈夫」
手をひらひらと動かし突っぱねる。
「……さっき食堂で、目合った時、あれ何て言ってたんスか?」
「言ったら殺す」
「まんまじゃん……」
「伝わってた?」
「完璧に」
「テレパシーの才があるのかあたしには……」
まさかしっかり伝わっているとは……これを機に超能力とか発生しないかな…
「まあ謝りにきてくれたのはびっくりだけど、いいんだよ謝らなくて。謝ったところで君はあたしと仲良くしたいわけじゃないでしょ?あたしもそうだし。だからいいのよ変な心配しなくて」
はあ、と気の抜けた声を出す切原に小さく笑う。
仁王は呆気にとられたような顔をしていた。
「それより怪我してるほうが女上がってない?」
先程小春ちゃんに手当してもらった頬をちょんちょんと自分で突く。
湿布に、口端には絆創膏。明らかどっかで喧嘩してきたヤンキーのようにしか見えない
「意味わかんないっス……」
「そっか………てなわけでじゃあね。無いとは思うけど罪悪感に負けてチクリようもんなら殴りこむからね」
まあそんなことはできないんだけども。喧嘩したことないし。
切原は若干ビビったような顔をして、はいと答えた。
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「よかったのう、バレなくて済んで。あっちも隠してくれるようじゃし、一安心じゃな」
「何であの人、あんな怪我させられといて普通なんスか…」
「まあちょっと頭おかしい気がする」
「ちょっとどころじゃないでしょあれ……怪我して女上がるって何スか…それ男のセリフじゃねぇ…?」
「ま、気にせんことじゃ。女なんて関わるだけでろくなことがないからの」
「………そっスね…」