よくよく考えてみるとまだ二日目なわけで。
最終日遠いなーなんて思いながら外でストレッチをしていたら急に千歳が目の前に現れた。うわもうびっくりしたなあもう!!!!!
「千歳なに、」
「ちょーっとな」
「なに、ちょっと、ギャアアアアアア」
目的は言わずにあたしを抱えると、俵のように担がれた。あたしは米か何かかな。
千歳!何!と叫んでも大丈夫の一点張り。いや大丈夫かどうか聞いてるんじゃない。
連れてこられたのはテニスコートで、何だか騒がしい……
「赤也!!女に手を上げるなど言語道断だ!!」
えっ、何でバレてんの?真田ガチギレじゃんこわ………えええええええええええ待って待って待って今からあそこに連れてかれんのか!?死ねって!!?!?
「千歳どこ行くのまさかあそこじゃないよね違うよね今すぐ止まって」
「すまんばいね理久、部長命令なんよ」
「いやお願いだから頼むからあそこには行きたくない怖い怖い怖い怖い」
「白石ー連れてきたっちゃ」
ストンと地面に下されると全員の視線が注がれる。蛇に睨まれた蛙状態と言いますか、動くことすらできない。
「理久。その怪我、切原クンにやられたってホンマなんか?」
「全然違います」
首を横に振って否定する。白石はどこか不機嫌な様子で、悪さをした子供を叱るような雰囲気を纏っている。ああ……弟の分のおやつ食べてお母さんにバレてめちゃくちゃ怒られたこと思い出した…何で今…
「何故嘘をつく?」
柳だーーーーーーーーーーーやっぱりお前出てきたかーーーーーーーー
あーあ、切原と同じ部屋って嫌な予感したんだよなぁ最悪…
「ていうか何でそんな話になってんの?誰そんなデマ流したやつ」
「俺だ。夜中、お前と赤也が話をしていたのを聞いていた」
「盗み聞き良くないわ!!!」
「その後お前の部屋で赤也も一緒に寝てしまったのも知っている」
「大変申し訳ございませんでしたあれはあたしが悪いのです」
土下座した。
それはもう見事な流れの土下座だった。
「一緒にって!?何!?理久切原クンと一緒に寝たん!?」
「それには深い訳がございます」
「ああああああ赤也!!女の部屋で寝るとは何事だ!!破廉恥極まりない!!」
だめだこのカオスを誰かどうにかしてくれ、もうやだ、浮気バレた男の気分だよ
気まずそうに顔を上げると、切原が真田にぶたれそうだった。
大きく振りかぶった手が、切原の頬目掛けて飛んでいく。
もう無意識だった。何故か体が勝手に動いて、気付いたら真田の目の前に飛び出していた。
バチン、と大きな乾いた音がテニスコートに鳴り響く。
「〜〜〜〜〜〜ッッッてー!!!!」
吹き飛ばされなかったあたしを褒めてもらいたいものだ。
脚鍛えててよかったーなんて思いながら真田のビンタの重さに頭がクラクラとする。
これが立海名物真田ビンタですねありがとうございます。
「いだだだだだだめっちゃ響く!!!首もげるかと思ったー!!!」
「アンタ本当何がしたいんスか!?」
驚く切原に向き合うと、今度はあたしが切原をビンタする。多分全然痛くないやつ。
「副部長くんのビンタ痛そうだったからあたしを経由してあげた」
「はぁ!?」
「あっははは変な顔」
「誰のせいだよ!」
また小春ちゃんに湿布貼ってもらおー
再びくるりと真田に向き直る。隣には目を見開いて驚く幸村も一緒だ
「部外者であるあたしに皆が苛立つのは物凄くわかるし、申し訳ないと思ってる。彼も何度も謝ってくれたからもうこのことは無かったことにしてほしい。それができないのであればもう一人怒られねばならない人物が居ますあいつです」
あたしはそう言って仁王を指さした。
仁王は一瞬驚いた顔をして、その後すぐあたしを睨んだ。ざまぁ
「この怪我した時彼も居ましたー」
「仁王、本当なの?」
幸村が静かに問いかける。
気まずそうに視線を逸らした仁王だったが、幸村の圧に耐えられずに小さく頷いた。
仁王の返答に、幸村は顔を歪めた。
「……はぁ。猫宮さん、うちの部員がすまなかった。今更謝っても済まないだろうけど」
「いやだからもういいって。切原くん?にたくさん謝られたし。それに君のその顔、あたしに借りを作りたくないって顔してる。あたしに謝るのが屈辱なんでしょう?だからこのことは無かったことにしてくれ」
「………君は俺の心を分かったように言うんだね。今どう思ってるかわかるのかい?」
「いや?知らんけどこの女めちゃくちゃむかつくなって顔してるのは確かだよ」
「困ったな、正解だよ」
「当たっちゃったよ」
オーラが凄いもの。黒いというか冷え切ってるというか。
「こうして君のせいで練習時間が減ってることに対して何か言うことない?」
「そもそもあの長身の彼が今チクらなければこんなことにならなかったのでは?」
そうだよ、そもそも今この騒動はあたしのせいじゃない。切原のせいでもない。
今このタイミングでチクりやがった柳のせいだ。何でそれをあたしが謝らにゃならんのだ
「自分のこと棚に上げるのかい」
「こっちのセリフなんですけど」
「俺、すごく君のことが嫌いみたいだ」
「うん最初から知ってる」
「金輪際、うちの部員に近づかないでくれ」
「わかった!」
素早く頷いて、医務室に向かうべく歩き出した。
めっちゃむかつくすんごいむかつく今こんな騒ぎになってんのあたしのせいじゃないしタイミングミスった柳のせいだし何なの何なの何なの
ズンズン歩いていたと思ったらまた体が宙に浮いた。
「千歳!!下せバカ!!!!!」
「元気よかねー理久は」
「るっさいな!!米みたいに担ぐな!!」
「お姫様抱っこすればよか?」
「このままでいいです!!!医務室連れてってください!!!」
「そんつもりばい」
「ありがとう!!!!!」
****
「赤也と仁王は今日の練習メニュー二倍にするよ」
幸村のその一言に仁王は嫌そうな顔をして溜息をついた。
切原は多分最初からそのつもりだったのだろう、元気よく返事をした。
ピリピリとした空気の中、皆黙々とメニューをこなしていく。
理久にとってもっとも恐れていた事態だ。
それぞれ分かれて練習試合をする中、白石と幸村が言葉を交わすことなくベンチの横に立っていた。
「…白石も跡部も、余計なものを連れてきてくれたね」
「余計て、理久のことか?」
「それ以外に何があるんだい。赤也が手を出したことは悪かったけど、そもそも居なければこんなことにはなってない」
「よう言うわ。自分かて何かあれば理久に手ェ出しそうやったくせに」
「周りに居る女の子達は皆同じ。白石達も騙されているだけ、早く気づきなよ」
「理久はそんな子やない。そっちこそはよ気付いたらどうや」
お互い涼しい顔をして毒を吐く。
近くに居た者達は巻き込まれないようにと少しずつ距離を置いた。
そんな白石達を、財前と謙也は少し離れたところから眺めていた。
「やっぱりあれ嘘やったか」
「何がや財前」
「怪我のことっすわ。どう考えたってあれ物当たっただけじゃああならんやろ」
「ほなお前何で黙っとったんや」
「理久先輩が隠しとるから」
「お前空気読めたんやな」
「そら空気くらい読めますわ。せやから今は空気読んで真田さんに謙也さんビンタしてくださいってお願いしてきますわ」
「ホンマやめて」