21千歳!出番です!

「やっと三日目……まだ三日目…」

のそりとベッドから起き上がる。
顔を洗って身支度を整えると、朝食を食べるべく食堂へ向かう。
寝起きは悪いほうではないが、今日は少し気分が上がらない。原因はわかっている。ゲームしてたら3時だったわけよ
まああたしは何時に起きてもいいわけなんだけど、何か言われると嫌だからちゃんと彼らと同じ時間には起きるようにしているのだ

あー眠い……頭がぼーっとする。目閉じそう……本当に眠い時って瞼上がらないよねー……




食堂へ入ると既にみんな集まっていて、あたしを気に掛けることなく楽しそうに朝食をとっていた。
寝ぼけ眼で朝食の乗ったトレーを持ち誰も居ないテーブルに移動する。椅子に座ると眠気はさらに増し、朝食をぼーっと見つめてしまった。


「おい白石、猫宮さんなんやおかしいで」
「理久先輩がおかしいのはいつもっすよ謙也さん」
「めっちゃぼーっとしとるやん…具合悪いんかなぁ」

聞こえてるから、白石財前忍足お前ら聞こえてるから。でも今は反応することすら億劫である。
気付かれない程度の小さい溜息をつき、トレーをテーブルの奥へ少し押すと、空いた手前のスペースで両手を組んだ。
はー……………………ほんとねむ……ていうか…ねむ……むり………
知らず知らずのうちに頭は下がっていきついにはテーブルとご対面してしまった。ごつんとおでこがテーブルにぶつかる。

「いだッ」

…ふー…………落ち着け理久…一応な、持ってきたからには食べなきゃな、それがマナーってもんだ。
起きろ、起きろ理久。起きて食うんだ

「ねえ具合悪いの?部屋帰ったら?」

そう言うのは幸村だ。声だけで分かるこんなふつくしい声はお前だってな!
具合悪いんじゃない!眠いんだ!ねむ……ねむいんだよ…

「聞いてる?このままここで倒れられても迷惑なだけなんだよ」
「お気になさらず…」
「君がそう言ったって周りは気にするだろう。だから迷惑だって言ってるんだよ」
「うんそうね……眠いだけだから大丈夫…」
「じゃあ何で来たの?寝てればよかったのに」

嫌いなあたしと話してて苛立ちが募ったのだろうな、言葉の棘が増している。
言葉というか言い方というか……まあどうでもいいんだけどよ…
いやホント頼むから……構わないでくれ……何でわざわざ突っかかってくるんだよ…こんな眠い時にそんな話しかけられると頭回転させるために体力使うからこっちだって苛々するんだよ分かれよ頼むから…!

「そうだねごめんね……いいからどっか行って…」
「…は?」

んっふふふふふふ半分本音が漏れた。言っちゃったー
初めて聞くドスの効いた幸村の「は?」いただきましたー!いいよねー幸村ちょっと黒いくらいがいいよね。二次創作結構そういう幸村多かったもんね。わかるわーあの綺麗な顔と声でちょっと罵られたいなって思ったことあるもん

「正直、どっか行くのは君だと思うんだけどね」
「…………………うるっさいなぁ……」
「……何?」

勢いよく立ってやろうかと思ったがだるい体のせいで思うように動かない。
ゆっくり立ち上がり幸村と対面する。
もちろんあたしのほうが背は低いので下からゆっくりとガンつけた。

「さっきから何なの……うるさいんだよ…眠くて頭回らないのに次から次へと話しかけてきやがってしつこいんですけど…」
「何?それ。一応具合悪いと大変だから声かけたんだけど」
「はー!?心配したってか!?嘘つけお前!!お前の言葉から心配のしの字も感じなかったわ!!つーか何なの!嫌いなら嫌いで避けろよ!!あたしを!!好きの反対語知ってる!?無関心らしいよ!?もしかしてあたしのこと好きなの!?」
「いい加減にしてよそんなわけないだろ、君もそういう勘違いしちゃうんだ……跡部の目は節穴だったね」
「ごめんな申し訳ないけどあたしはお前好きじゃないからな!!大変申し訳ないけどな!!あたしには心に決めた人が居るんです残念でした〜」

そう言うと白石ががたりと椅子を鳴らす。
その横で、千歳が何か考え込むような顔をした。

「へぇ、それは元彼の白石のこと?だからこんなとこまでついてきたの?」

なんちゅー爆弾ぶっこんでくんだお前……何で知ってんの…柳だなあの野郎いつか報復してやる

「白石違うからな!大丈夫安心して!!」
「普通に振られたんやけど」
「あたしの愛しい人は…!!華奢のように見えて実は陰でストイックに鍛えてて!元気で笑顔が可愛らしいんだけど優しすぎるが故に悩みも多くて……!!けどそれをみんなには絶対見せない涙無しでは見てられない健気な人なわけよ……」

理久が上げる『彼』の特徴を、何故か千歳は指折りで数えている。
謙也が何をしているか尋ねると千歳はただ笑うだけだった。

「……ストーカーなの?気持ち悪いね」
「まあ常に見ていたいとは思うよね」
「白石も跡部も、君のことは他の女の子達とは違うって言うけど、結局一緒なんだね」
「もう何とでも言ってよ……誰にどう見られようが彼が居ればそれでいいの………けど彼は人気者だからね…なかなかあたしのとこに来てくれなくて……でもやっと昨日、ついに……彼があたしにチャンスをくれたんだ……」
「理久」

先程から意味のわからない行動をしていた千歳が、席に座ったまま声をかける。
幸村含め全員が千歳に視線を移す。
千歳は真っすぐ理久を見ると、真剣な顔つきで口を開いた。

「…イベント、来たん?」
「初の推しメインイベントです…!!!初のSSR実装ありがとう!!!」

千歳は知っていた。ガチャを回すのは千歳頼みにしていたため、その都度彼の素敵な素敵な特徴をこれでもかという程お経のように繰り返し聞かせていたのだ。それは千歳が暗記してしまう程に。
一度だけ、あたしの話聞いてるの嫌じゃないのかと尋ねたことがある。
その時彼は笑って「妹も同じように話をするから慣れている」と言った。
あたしは小学生と同レベルなのか。

「ちゃかったね〜」
「あたしこの日のために来る日も来る日も石貯めたの!!この夢のような日のために!!メインだよ!?サブとかじゃないんだよ!?いやー泣いたよね!泣きながら夜中の3時まで育成に必要なコイン貯めて貯めて貯めまくったよね!!あとは千歳に引いてもらうだけだ!」
「よかよ」
「あれ待って何の話してたっけ」

あれ?と幸村を見上げる。
彼はあたしを気の毒そうな目で見下していた。酒飲んでたら一瞬で酔いが醒める程の気の毒そうな顔である。アッ、何かすいませんって言っちゃいそうな顔

「……………何て言ったらいいかわからないけど…、現実は見ないとだめだと思う」
「すごい…今までですごい突き刺さる言葉…」
「あと白石が可哀想だから謝ったほうがいいよ」
「えっ…はいすいません……」

ちらりと白石を見ると突っ伏して落ち込んでいた。それを忍足と財前が慰めている。財前なんかあたしと目が合うと「ないわ」といった顔をした。す…すいません……

「早くご飯食べたら?冷めちゃうよ」
「いやあんたが話しかけてくるから食べられなかったんだけどね」
「その前から食べる気配無かったじゃん」
「丁度食べようと思ってたんですー」
「小学生みたいな言い訳」
「今鼻で笑った?」
「もう一周回って面白い」
「何にも面白くないわ」

何故か目の前に座り出した幸村に眉を顰めた。いやお前もう食ったんだろどっか行けって。
彼は頬杖をついてじっとあたしを見つめてくる。ただただじっと。こんな綺麗な顔に見られながら食べるご飯は味がしません。白石も綺麗だけどそれとはまた違うんだな〜いいなあこんな顔に生まれたらあたしなら何をしていただろうか

「君さぁ」
「ん?」
「現実逃避はやっぱり良くないと思う」
「え何でまたそんな刺さる言葉……すごい抉るじゃん…」