番外編:初詣

「よし」

寒くないように中には薄手の防寒着を着てからパーカーを着る。
念には念を、パーカーのお腹のポケットにはカイロを忍ばせた。
からのもこもこマフラーにダッフルコートを着込みさらに両ポケットにカイロを仕込んでおく。完璧である。
スマートフォンを見るとそろそろ家を出ないといけない時間だったので、部屋を出ようとしたその時だった。

「理久ー!」
「んー?」
「迎えきたよー!」
「は?迎え?」

迎え?何で?待ち合わせは神社なはず…ていうか誰だ来たの
パタパタと階段を下りて母親に声をかけた。

「何迎えって」
「すんげえイケメン来てるよ誰あれやっばい」
「えー………何か嫌な予感…」

玄関へ向かうとそこには見知った人物が立っていた。お前………

「…………白石何してんの」
「あけましておめでとう、迎えに来たで」
「あけましておめでとう……いや待ち合わせ神社…」
「え!!この子があの白石くん!?マジ!?えらいイケメンだね!?」
「お母さんちょっとうるさい…」
「白石蔵ノ介言います、理久とは仲良うさせてもらってて」
「こんなガサツな子と仲良くしてくれてありがとねー!!」
「ガサツ(笑)」
「もー!!!行くよ!!じゃあお母さん行ってきますー!!」
「気を付けてねー!」

白石をぐいぐいと押し外へ出ると、冬の容赦ない寒さが全身を包み込む。
冷たい空気はとても刺激的だ。

「うああああああああさっみいいいいいいい」
「冬やからなー」
「ていうか迎えとか頼んでなかったよね!?」
「理久が迷子になったら可哀想やな思て」
「なりませんけどー!!」
「っちゅーのは建前で、理久と一緒に行きたかっただけ」
「これだから優男は〜そういうことは好きな子にやりなさい〜」
「今は居らんから理久にやるんやで」
「優しさの無駄遣いって言うんだよそういうの」

カイロの入ったポケットに両手を突っ込みながら白石の隣を歩く。
他愛のない会話をしながら到着した目的地には既にメンバーが揃っていた。

「あれ、何で二人で来とるん」

あたし達を見た謙也が首を傾げる。うんあたしもそう思う。

「来る途中たまたま会ってな」
「うん?うん……うん…?」

たまたま………?こいつ家まで来たよな……たまたま…?

「ふーん?とりあえずあけましておめでとさん!ほなみんな揃ったし行こかー」
「ワイたこ焼き食べたいー!!」
「金ちゃんちゃうでー先にお参りやでー」

謙也が屋台に走って行こうとする金ちゃんをとっ捕まえる。
たこ焼きーと叫ぶ金ちゃんをしっかり捕まえお参りすべく、全員で神殿前へと向かった。

元旦の夜というだけあって人がごった返している。
屋台からは美味しそうな匂いが漂い、すぐ近くでは甘酒が配られていた。
あーもう去年になってしまったんだなと思ったら少しだけ寂しい気持ちになる。今年が楽しみな気もするし、まだ越したくなかったなとも思う。あー去年は色んなことがあったなー

「理久先輩何ぼーっとしとんねん」
「年越しちゃったなと思ってさ。寂しいなーって」
「え、おセンチなん?似合わんわぁ」
「失礼だなこの後輩!!」
「俺なりの気遣いやないっすか」
「これが気遣いと言うなら世の中気遣いだらけだわ」

いつも通り財前と言い争いをしながら人混みを避けつつ歩いていくが、思ってた以上に人が多い…うわこれはぐれそー……まあ一人でもお参りできるしいいか…
近くに居た銀さんに心配されてはいたが結局はぐれてしまった。こんなことなら銀さんに掴まっておけばよかったな…
もうさすがにこの人混みの中彼らに追いつくのはきつい。でっかい千歳を探してみたが次から次へと後ろから来る人に何度もぶつかりもう諦めた。
人の流れに乗り神殿前にずらりと並ぶ列の一番後ろにあたしも一人で並んだ。
するとすぐ隣に誰かが並んだ。この人も一人なのか、お互い寂しいですねー
続々と後ろに人が並んでいく。軽く後ろから押されながらも寒さに耐え順番を待っていると、隣に立っていた人と軽くぶつかる。

「すみませ……ん!?白石!?」
「気付かなさ過ぎや」

隣に立ってたのはまさかの白石だった。声かけろよ!

「声かけてよ」
「いつ気付くかなー思て。にしても寒いなぁ、理久寒くないん?」
「パーカーのお腹のポケットにカイロ一つとコートの両ポケットにカイロ仕込んでるからめっちゃ余裕」
「うわずる」
「用意周到と言ってくれ」
「えい」
「っぎゃー!!」

手を突っ込みカイロでぬくぬくしていたあたしのポケットに白石の冷たい手が忍び込んできた。

「つめった!!!白石手つめた!!」
「寒いんやもんーあっためてー」
「カイロ貸そうか?」
「いやこれでええ。あったかいなぁ」

カイロを握るあたしの手を、白石が包み込むように握ってくる。
あたしの手はカイロじゃない。
これあれじゃないの、カップルがよくやるポケットinじゃないの?まあいいか……

「今年が始まりましたねー」
「そやねー去年は濃い一年やった気するわ」
「まさか白石と出会えるとは思わなかったなー…普通会えるわけないのにさ」
「嬉しい?」
「うん」
「………」
「照れてるー」
「うっさいわ」

白石は赤くなった顔を隠すかのようにフイと顔を背ける。耳も赤いですよ、バレバレですよ白石さん。

「今年もよろしくね、白石」
「………しゃーないなぁ…よろしくしたってもええで」
「お前は財前か」
「なあ理久」
「何?」
「今年も、一緒に居ってくれるか?」
「?まあ3月までは一緒だよね」
「それ以降も」
「高校一緒だったらね」
「理久のアホ」
「いだだだだだ抓んな!!」

人の手の甲を白石が抓る。痛い普通に痛いな!あたしが何をした!

「ま、今はそれでええわ」
「何が!!」
「お、そろそろ俺らの番やでー」
「ねえまだ抓ってる!めっちゃ抓ってる!」

****

「白石達こんなとこ居ったんか」

お参りを済ませ来た道を戻っていると、甘酒を手に集まる四天宝寺メンバーが居た。

「白石も甘酒飲むか?」
「おー。理久は?」
「甘酒嫌い…いらん…」
「え、飲めへんの?お子ちゃまやなぁ」
「甘酒如きで!?」
「お子ちゃまやなー理久先輩」
「財前に言われると憎さ倍増するな!!」

あったかそうな甘酒を飲みながらお子ちゃまと嘲笑う彼らに大きく頬を膨らます。
だってまずいんだもん何が美味しいかわからんわ!!

「甘酒飲んだ人近づかないでね酒臭い」

そう言うと白石と謙也と財前がにやりと笑い甘酒片手に近寄ってくる。

「お嬢ちゃん何しとんの〜?」
「こっちくんな忍足」
「一人?一緒にお話ししようやー」
「さっきまで一緒に話してたじゃん白石何なのこっちくんな」
「まあまああっちで善哉奢ってや」
「たかってくんな!ていうかお前ら臭いって!酒臭い!」

にやにやした三人に囲まれほんのり香る甘酒の匂いに手で鼻を覆う。
耐えきれず彼らを押しのけて千歳の元へ逃げた。

「お、理久いらっしゃい」
「あの悪ガキ達どうにかして…」
「理久が面白か反応するからばい」
「もうこっそり帰っていいかな…」
「そいはいかんばい。白石が泣いちゃうっちゃ」
「泣くなら泣かせとけあんなの」
「仲よかね〜」

千歳の背中に隠れ悪ガキ三人にガン飛ばす。
そんなあたしを財前は鼻で笑った。あの野郎……

「今年もよろしゅうね、理久」
「うん!よろしくね!!ガチャも!!」

元気よく頷くと千歳は少し困りながら笑った。




じゃあ解散ーとお互い手を振って帰路につく。
10時間持続するカイロはまだまだあったかくてポケットで暖をとりながら家までの道のりを一人で歩く。

「寒いなー!」
「っぎゃー!!」

急に後ろから誰かの冷たい手が、あたしの手が入っているポケットに突っ込まれる。

「白石か!!不審者かと思ったわ!!声かけろって!!」
「なんや心配になるわ……もうちょい気配読めるようになったほうええで理久」
「あたしが悪いみたいな…」
「ちゅーか一人で帰んな、危ないやろ」
「白石って心配性だよね」
「お前が心配させるようなことするからや」
「あたしかよ」

ポケットに差し込まれた白石の手が、あたしの手を握る。
何で?と思って横を見上げると、白石と目が合う。彼はフッと笑ってあたしの手を引き歩き出した。
いつもなら適当に会話をするのに今日は何だかお互い喋らない。
というか喋る空気じゃない。
こういう空気は大変苦手なので、早く家についてほしいと願うばかりだ。

そういう時に限って何故か長いもんで。
やっとこさ家につくも、白石の手は離れない。

「もう家つきましたけど」
「せやな」
「…あの、手」
「うーん」
「おいどうした白石」
「よし」
「本当にどうした?」

白石?と顔を覗き込むと、ふと白石の顔が近づいた。
瞬間、頬に冷たくて柔らかな感触。
何が起きたのか分からず固まっていると、白石がゆっくり離れていく。
再び目を合わせれば彼は優しく笑って手を離した。

「おやすみ、理久」
「………おやすみ…気を付けて帰ってね」
「ん。ほなな」

そう言って来た道を戻っていく白石の背中を呆然と見つめる。
白石は帰って行ったのに、頬に残る彼の唇の感触は未だに残っていて。
寒夜の中冷え切ったはずの頬に熱が帯びる。

「寝れねーよ…」

もう誰もいないのに、火照る顔を隠すように両手で顔を包んだ。

(2017.12.31)