真夏の暑い日差しに照らされながらベンチに座る。
ベンチに座りながらテニスを見ている。何故だ。
今朝のことがあってからというものの、急にみんなが優しくなった。
違う、優しくなったというか、腫れ物に触るかのような態度になったのだ。
これ以上辛いことがあるだろうか。ひたすら傷つく。
『現実を見れていない可哀想な子』
というレッテルを貼られ生暖かい目で何度も見られる。こんな屈辱ないぞ
少しゲームから離れてテニスでも見てろと言われベンチに縛り付けられるとは思わなかった。
クソ暇なんですけど
「ねえ」
「はい」
隣に立っていた不二に声をかけられる。
不二、未だ圧倒的な人気を誇るイケメンである。涼しい顔してあらゆる技を繰り出すその姿には誰だって惚れてしまうだろう。あと声めっちゃ好きです。
「白石と付き合ってたの?」
「一応」
「別れたのに仲良いんだね」
「まあ別れたのもちょっと訳ありだからねー…今のほうが仲良いんじゃないかな」
「珍しいね」
「わかる」
何が言いたい不二。
「あ、僕不二周助って言うんだ。よろしくね猫宮さん」
「言っちゃなんだけどみんな手のひら返しが凄いなぁ」
「少しでも現実に触れてほしいっていうみんなの優しさだよ」
「現実くらい見とるわ……見た上でゲームに逃げとんのじゃ…」
「それもう救いようがないよね…」
「ほっとけ!」
フフと微笑みコートに入っていく不二を見送り、暇に耐え切れず立ち上がった。
「どこ行くぜよ」
「ここ暇過ぎるんだよ遊びに行く」
「それはできんなぁ。幸村に見張っとけ言われとるき」
「勘弁して……っていうか君昨日練習倍にされたんだって?ざまぁ」
「あん時はマジで恨んだ」
「ウケる」
「全くウケん」
「そういうことだから、じゃあな」
眉間に皺を寄せ見下ろしてくる仁王の横をすり抜けフェンスの出入り口に向かう、が
「猫宮さーん!」
「だッ!!」
ドーンと後ろからタックルをかましてくるのは切原だ。
やめて本当に結構な勢いだったよ吹っ飛ばされちゃうよ
と思っていたら後ろから首に腕をかけ完全に背中にぶら下がっている。
「ちょっ重っ……首…!切原くんおま……!!」
「どこ行くんスかーだめっスよ!ちゃんと俺の活躍見といてくんなきゃ!」
「見てた見てた…すっごい見てたから……」
「俺まだコート入ってねーし!」
「ミスった……」
懐っこく背中にのしかかる切原を可愛いとも思うが、今はただ重い。お前ら筋肉すごいだろ筋肉めっちゃ重いんだからなていうかスキンシップ激しいなオイ…
「ゲームより俺のほうが何倍もかっこいいっしょ!」
「うーーーーーーんどっこいどっこいかな」
「そこは嘘でも頷くもんでしょ!?」
「ごめん彼に嘘はつけなくて…」
「もー!!」
「首絞まってるから……!!」
首に回された腕の力が強まる。
男の子の力舐めんな!!!死ぬ!!!
「こら赤也、そいつ死にそうだぞ」
急に背中が軽くなり振り返ると、ジャッカルが切原を剥がしてくれたようだ。
「わりーな、迷惑かけて」
「助かった……首絞まって死ぬかと思った…」
「そのままベンチ座っててくださいよ!」
「えーただ座ってるの暇なんだよ…」
「じゃあ一緒にテニスしますか!?」
「何でだよ」
ぎゃんぎゃん騒ぐ切原をジャッカルが無理矢理連れて行く。
やけに懐かれてしまったもんだと一人で困ったように笑った。いや可愛いけどね。可愛いけどちょっとパワーバランスがね。
仕方ないから黙って彼らのテニスを見ていることにした。
これはテニスなのか。
いや、漫画読んでた時から思ってたけどこれってテニス……テニス…?
あたしが知ってるテニスと違う……イリュージョンだよもう。イリュージョンと言えば仁王だけどもうみんながイリュージョニストだよ。あたしが許可します。
そのすごさに、少しだけ呆けてしまった。
「口、開いてるよ」
越前リョーマやんけ……フオッ!!その声いいね!!
「みんなすごいねぇ」
「普通でしょ」
「あそう」
ぴたりと会話が止まる。
というか話すことがあまりないのでもうどっか行ってほしい。お互い無言なのに一緒に居るのつらい。
「…気まずい空気出さないでくれる?」
「えあたしが悪いの…」
「あからさま過ぎ」
「すんません…」
「ポンタ奢ってくれたら許してあげる」
「初対面も同然の相手にジュースたかるってどうなのかな…それに別に許してほしいわけじゃないし…」
「飲みたいなー」
「ただ飲みたいだけじゃん…後でね」
「やった。約束ね」
「はいはい」
約束をこぎつけると彼はにっと笑った。
かーッ!!!可愛すぎか!!馬鹿野郎!!年下いいな!!!
今の忘れないでねと念押しをされ、彼の順番が来たらしくコートに入って行った。
うえー可愛いよーリョーマ可愛いよーーーーー
ああーーーーーーもうお姉さんの心鷲掴みよ………
「あー理久鼻の下伸ばしとる」
「言いがかりやめろ白石」
「ホンマのことやんか」
「あの子めっちゃ可愛い」
「こわ…」
「引くのやめて」
「なあ」
ふと、声をかけてきたのは向日だ。どうしたそんな怖いもの見るような目しやがって
「お前って、Aria好きなのか…?」
Ariaとはあたしと財前が好きなバンドである。東京に来たのもそのバンドのライブを見るためだ。
「そうだけど…何で知ってんの」
「さっき財前がお前とライブ行ったって話してて…」
「マジ……あたしが東京来たのもそのライブ見るためだよ」
「マジで!?こないだの公演行ったのか!?」
「そー!めっちゃかっこよかったよ」
「MCとか!何話したか教えてくんね!?俺めっちゃ好きなんだよ…!」
「いいよー休憩時間にね」
「さんきゅ!!」
目を輝かせ嬉しそうにお礼を言うと、向日は忍足(眼鏡)のとこまで走って行った。
「結局、打ち解けられたなぁ」
「納得しづらいきっかけだけどね…」
「あ、俺まだ理久に謝ってもらってへん」
「えー別によくない?」
「いーや、俺めっちゃ傷ついたんやからな。誠心誠意謝ってもらおか」
「めんどくさい…」
「ごめんなさいて一言言うだけやん!?めんどくさいて何!?」
「白石がめんどくさい…」
「俺かい!」
「部屋帰ってゲームしたいなー…」
「ゲームの彼と俺どっちかっこええ?」
「どっこいどっこい」
「切原くんと同じ答えて」
「……まあ白石のほうがちょーっとかっこいいかな」
「え」
「ごめんね白石」
そう言ってフッと笑う。
白石は呆気にとられたような顔をした後、べちんとあたしの顔を叩いた。
叩いたまま顔面を掴まれる。見えない!
「いった!!せっかく謝ったのに!!」
「誠意が感じられへんからやり直し」
「ねえ痛い痛いめっちゃ力入ってるぎりぎりいってるいだだだだだ」
「はよやり直しー」
「こんな状態で!?厳しくない!?」
「ほら理久ー、ごめんなさいは?」
「ごめんなさいいいいいい」
半泣きでそう叫ぶと白石は手を離す。
涙目で見上げた彼は満足そうに笑っていた。
「あたしのこといじめてそんな嬉しいか!」
「嬉しいというか面白い」
「S……」
「ただ理久がアホなだけやで」
「最近あんたやけに辛辣じゃない?出会った頃の心優しい白石どこ行った?」
「あまりにも理久がアホ過ぎてまともに相手しとった俺がどうかしとったんや」
「どうしてそういうこと言うの〜〜〜〜こないだ感動的に理解し合ったばっかじゃん〜〜〜〜〜」
「これからは厳しくいくで」
「友達に厳しくするとかある!?」
「分かってくれ理久、お前のためなんや」
「あんたはどの立場でそんなこと言ってんの!?」
「オイ何しとんねんあの二人は」
「理久先輩、部長に遊ばれとるわぁ」
「財前の次は白石に遊ばれるて……可哀想やなぁ猫宮さん」
「大丈夫です、俺は謙也さんで遊ぶことも忘れてへんすよ」
「それは優先的に忘れてええねん!!そんなもん忘れてしまえ!!」
「いじってもらえへんからっていじけんといてくださいよ」
「俺のどこがいじけとるん?お前には俺がどう映っとるんかめっちゃ気になるわ」
「しゃーない、小春先輩に頼んできますわ」
「何を!?」
「先輩ー」
「財前!?財前待て!?何頼もうとしとんね……ぎゃあああああ小春こっちくんな!!」