午後もベンチに座りただひたすら彼らのテニスを眺める。
脚を組んで頬杖をついて。ただひたすらに。もうテニスなんだかテニスじゃないんだかよくわからなさすぎて夢を見ている気分だ。何?ボール消えるとかちょっと……あれ何で消えるの?おかしくない?
ちょっとついていけないよ……見てるのが精いっぱいなんですけど…
いつしかボールを目で追うことすら諦めて、ネットしか見ていなかった。あーボール飛んでるーとしか考えれない。お前らすげえな
すると休憩時間になったようだ。彼らは次々とコートの外へ出て行く。
「よし理久、ちょっとテニスやってみよか」
「白石は暑さで頭おかしくなったのかな?」
あたしの目の前に立ち自分のラケットを差し出してくる。
当たり前かのように差し出してくるもんで一瞬受け取りそうになったがすぐに手を引っ込めた。あぶねえ!
「あたしテニスやったことないんだって」
「大丈夫や!教えたる!」
「そんなこと生きてて1ミクロンも望んだことないんだよね〜」
「少しは体動かしたほうがええ!」
「いや!!動かしてるから!!走ってるから!!」
「相手が居る競技もなかなか楽しいもんやで?」
「いや無理っしょ…」
無理矢理立たせられ白石と反対コートに立たせられる。何でだよ。
「理久先輩、まあ様にはなってますね」
「えーマジ?」
滅多にない財前の褒め言葉に少し照れながらラケットを構える。
うっひゃー!よく咲良とやったなーテニプリごっこ!!なんならミュージカルも踊ったよ!!休み時間とか体育の時間とか、懐かしー
次の瞬間真横を何かが通り過ぎた。
「えっ」
「理久!今ボール行ったんやで!」
「うっそ!?」
そう思い後ろを見ると、白石が打ったであろうボールが転がっていた。
「見えなかった!!!」
「んなわけないやろ!!そこまで速く打ってへん!」
「初心者舐めんなよ!!」
ほなもう一回いくでと、わけわかんねえ白石のめっちゃ速いサーブが先程と同様真横を通り過ぎた。一瞬だけ体がびくっと動いたが、それだけだ。
「っふ……く、理久先輩…ッ………無理……!」
「無理って何だ財前!!お前!!笑いすぎだろそれ!!」
「っく、ぶふッ!反応できなさすぎ……ッ…ベタか…!!」
「初心者だっつってんだろ!!」
ベンチで腹を抱えて笑う財前に大声で怒鳴りつける。しまいにはあいつ声も出せないくらい笑ってやがる。どんだけあたしがツボったんだよ
それから少しは反応できるようになってきたけど打ち返すなんてもっての外で。無理だろがああああああああああ
ふとコートの外を見ると財前は笑いすぎて地べたにうずくまってた。そのまま過呼吸になってしまえ!
「ねえ無理だから……球技はバスケとバレーボールくらいしかできないんだって…」
「理久なら運動神経良さそうやしいける思たんやけどなぁ」
「つーか休憩時間だろ!休憩しろ!」
「いやー理久が暇そうにしとるからちょっと遊ぼうかと思て」
「せめてあたしができることで遊んでくれ!!」
「ほな何する?」
「徒競走」
「それ遊び言わんやん!」
得意なの走るくらいだし…どうしろっちゅーのよ…
結局ラケットを白石に押し付けてあたしはベンチに戻った。未だうずくまって笑う財前の頭を叩いてやると、やり返してこようとしたのか、財前はあたしを見上げ
「ぶはッ!!」
「人の顔見て笑うな!!!!!!」
財前は再び吹き出した。マジで許さんコイツ
****
今日も練習は滞りなく終わったらしい。そして明日は一日オフになったそうだ。えーじゃあ明日部屋から出れないじゃん
風呂に入り部屋でゴロゴロしていたが、とてつもなくアイスが食べたい。そこまでアイスが好きなわけでもないが、よくあるよね無性に食べたくなる時。歩いて行ける距離にコンビニあるし行っていいかなぁ…
時刻は7時を回ったくらい。まだ明るいし……
できることなら一人で行きたいなあなんて、とりあえずうるさくなさそうな跡部に許可を得に行った。
運良く廊下に一人で居た跡部に声をかけてみる。
「コンビニ?今からか?」
「まだ明るいし行ってきていい?」
「さすがに一人じゃ危ねぇだろ…誰か連れてけ」
「えー………一人になりたい…」
「あんだけ白石達に構われといて一人がいいのか」
「あんだけ構われて疲れてんだよ…」
「…何かあったらすぐ連絡寄越せよ」
「わかった!ありがとう行ってくる」
溜息交じりに許可を出してくれた跡部はあたしの頭を軽く撫でる。いや同い年。
気を取り直して財布を持ちこそこそと玄関へ向かうと、そこには何故か越前と丸井と切原、それに向日が居た。何か変なメンツだな
「何してんの?」
「談笑してるだけだぜぃ」
「ふーん……」
そんな彼らを横目に靴を履いて玄関を出る。外の暑さに一瞬顔を顰めたが、すぐに慣れるだろうと歩き始める。騒がしいくらいの蝉の鳴き声がBGMとなり、ますます暑さを際立たせてくれた。
「ねえ何でついてくんの!?」
玄関を出たのはあたしだけではない、先程集まっていたメンバーまでもが同じ方向に向かっている。何故だ。
「さっき聞いてましたよ!跡部さんとの会話!」
「盗み聞きって言うんだぞ!切原くん!盗み聞き!」
「猫宮さん一人だと危ないと思ったからついてきたんスよー」
「いやあたし逃げ足だけは速いから大丈夫だって…」
「俺ポンタ奢ってもらってないし」
「それは合宿所内でも良かったんじゃ…」
「俺は暇だったから!」
「向日くんは面白半分で来ちゃったの?」
「俺はストックのお菓子無くなったから」
「それはしゃーないな」
ガムを膨らませ「だろぃ」と言う彼に内心喜んだ。生「だろぃ」頂きました!!!!あざーっす!!!!!かーッ!!結局テニプリキャラは可愛いやつばっかだな!!!あたしをどうしたいの!!!!
コンビニにつくと各々物色し始めた。あたしは言わずもがなアイス。あ〜何にしようかな〜やっぱ氷菓系かな〜……
「俺はガリガリ君がいいと思いますよ!」
「あーやっぱり?こう暑いとガリガリ君が無難だよねー」
「梨味美味いっスよね」
「わーかーる。じゃあガリガリ君にすっかな……切原くんも同じのでいい?」
「えっ」
「えっ?」
何故かきょとんとする切原くんを見る。何が「えっ」なの?
「俺にも?」
「うん?一緒に食べようよ」
「いいんスか?」
「悪いことなんてなくない?」
食べたいでしょ?と言うと彼は満面の笑みを浮かべて大きく頷いた。可愛すぎて禿げる。
「あー!俺も食いたい!」
話が聞こえたらしい向日が割り込んでくる。俺もガリガリ君でいいから!としれっとたかってきやがった。お前切原の謙虚さを少しは学べや!
「ねえ俺ポンタ」
「はいはい」
買う物をかごに入れレジを済ませる。
丸井がパンパンに膨らんだレジ袋を持って満足気にしていた。それ真田に怒られないの……?
外は変わらず暑い。アイスが溶けないうちにとあたしと切原と向日はそれぞれアイスの袋を開けた。一口アイスに齧り付いたその時、どこからか女の人の悲鳴が響く。
「何!?」
悲鳴が聞こえた方を振り向くと、こちらに向かって男が走ってくる。
何だ何だと見ていると、男があたし達の側を通り過ぎた時、「ひったくりだ」との声が聞こえたのだ。
「ひったくり!?東京こわ!!切原くんちょっとアイス持っててー!」
「は!?ちょっ猫宮さ……!!」
食べかけのアイスを切原くんに押し付けるとひったくりをしたらしい男を追っかけた。道にはそれなりに通行人が居たが、ひったくりだとの声に全員が道を開ける。一気に距離を詰めついにひったくり犯の前へ回り込むと脛目掛けて思い切り蹴りと入れてやった。
ひったくり犯は転ぶ瞬間、掴んでいたバッグを思わず離してしまったようで、バッグが宙を舞った。
「うわっととと……!」
それを地面に落ちる瞬間ギリギリキャッチする。あっぶね……!
ズシャーッと転ぶひったくり犯から距離を取り警察に連絡すべくスマートフォンを取り出したところで、誰かが先に連絡していてくれたのだろう、二人の警官が駆けつけてきた。
警官にバッグを渡しバッグを盗まれた女性にめちゃくちゃお礼を言われたが、アイスが気がかりで一目散に切原達の元へ戻った。
「アイス!!」
唖然とする彼らをよそに切原に持ってもらっていたアイスを受け取りその若干溶けかけたアイスを頬張った。
至福である。
「………え、何」
目を見開いてこちらを見る彼らに眉をひそめる。
「お前脚速くね…?」
「陸上部だったから」
驚愕といった表情の向日にそう答える。まあ陸上部だからといって脚が速いとは限らないけども。長距離が得意だが、短距離も嫌いではない。短距離でだってそれなりにいい記録を出していた。
運動会とか体育祭とか、リレーは常にアンカーだったし。
………運動会……そういえば咲良と何かあったような……何だったっけな…
「猫宮さんめっちゃかっこよかったっスね!!」
「マジ!かっこいい人に言われると嬉しいねー」
「俺かっこいいっスか!?」
「かっこいいよ」
「ゲームより!?」
「どっこいどっこい!」
「またかよ!!」
わいわいと話をしながら合宿所に戻る途中、真田に怒られるからと丸井に一時的にお菓子を託される。やっぱりかよ何でこんなに買ったんだよ
合宿所に戻ると白石が腕を組み仁王立ちをしていた。その隣で財前と謙也が呆れたように溜息をついている。
「理久!!勝手に居なくなんなや!」
「跡部くんには言ったもん!!」
「俺に言え!お前氷帝の生徒やないやろ!!」
「お母さんうるさっ」
「誰がお母さんや!!」
あーだこーだうるさい白石に耳を塞ぐ。言えば言ったでついてきそうだったし言わなきゃ言わないでうるさいし……優しかった白石が懐かしい…
白石に叱られていると、越前が傍に寄ってきて服の裾を引っ張ってきた。
「ん?」
「ポンタ、ありがとね」
「かっわい!!!!」
「越前クン離れ!!理久に喰われんで!!」
「んだと白石!!!」
言い争いをするあたしと白石を見て財前がぽつりと呟く。
「痴話喧嘩か…」