四日目。
昨日言った通り今日はオフとなり、皆悠々自適に過ごしている。
きっと晴れていたら何人かは外で自主練でもしていただろうが、今日は朝から雨である。昨日はあれ程晴れ渡っていたというのに土砂降りだ。
時折空が光り、ゴロゴロと大きな雷の音が響いた。
雷ってテンション上がるよねぇ。
「じゃあ会議始めるっス!猫宮さんは男か女か!」
「オイ待て馬鹿野郎」
朝食終わりに一曲プレイしようとアプリを開きイヤホンをしていると、誰も居なかったあたしのテーブルにわらわらと人が集まってきた。何だ何だと集まってきた人達を見ていると、切原が先程の失礼極まりない一言を放ったのだ。
「男」
「男」
「時々女」
「待て最後。いや全部」
丸井幸村仁王と続けてそう言う。
彼らは至って真剣な顔でそう言ってのけたのだ。もう意味が分からなさ過ぎて自分も真顔になる。お前らはあたしを何だと思っているんだい。
「残念ながら理久は女や、一応」
「そうっすね、一応」
「せやな、多分」
「オイ」
立海に対して白石財前謙也が答えた。いや答えになってないけどな!断言できないってなんなの?あたし、えっ、何?
「というか何でそんな話になってんのよ」
「猫宮さんって女なのに女の子らしさないですよねって話から議論になりました」
「これ泣いていいやつ?笑ったほうがいい?どっちもできそうだよ」
笑顔でそう言う切原にどんな表情をしていいか分からず下唇を噛み締めた。な、泣かないやい……
「ていうかあたしの何を知ってるっていうんだ!」
「足でドア開けようとしてただろぃ」
「な…何故それを……」
「お手洗い行く時「トイレー!」って叫びながら行かないほうがいいよ、はしたない」
「わー幸村くんがお手洗いって言うの似合うー」
「あれや、そもそも仕草に品がない」
「白石に言われると結構きついものがある」
メッタ刺しとはこのことだろうか。
財前と謙也は大きく頷き、跡部は離れた席で若干笑っている。そして大抵のやつが「あー」と、そういえばそうだなといった反応をした。
今すぐ目の前の奴らに雷落ちないだろうか。そう願うのは致し方ないと思う。
「ここまで言われてどう思う?」
綺麗な笑顔で幸村に問われる。
どうと言われても。
「感じ方は人それぞれだよね!」
「フフ、少なくともここにいる全員が同じように感じているよ」
「あたしにどうしてほしいの…」
「皆心配しとるんよ」
優しい声色で白石が言う。その表情は穏やかで、ああ心配してるんだなって思えた。
それはいいんだけど
「何の心配」
「将来結婚できるかっちゅー心配」
「余計なお世話って言葉知ってる!?それ言ったらあんたらだって……!」
同じでしょ!?そう言いかけてぐるりと皆を見渡した。
顔面偏差値えらくたけえ奴らばかり。思わず鼻で笑ってしまった。
「……皆さんは心配いらないね…」
「余裕やで」
「白石どや顔しないでむかつく」
「ま、そういうとこが理久らしいええとこやけどな」
「散々落としてから上げられても」
前半のディスりが酷くて褒めが弱い。まあそんなことでへこむあたしではないけどな!好きな人に言われたとかならへこむかもしれんけど今はへっちゃらだい!
「ほらもう解散!解散!散れ!オフなんでしょ!休め!」
「やることないから集まってんスよー」
「だからっておかしな話題を作るな!はいもう無視しまーす」
イヤホンを装着し開いていたアプリを始めた。音量は大きめに、若干音漏れするくらいだ。もうお前達の話は聞きませんよとの意思表示である。
「あーりゃりゃ、自分の世界入っちまったぜぃ」
「部屋戻ってトランプとかするか?」
「お、いいな。じゃあ言い出しっぺのジャッカルは負けたら罰ゲームな!」
「俺だけ!?」
理久がゲームに逃げたので集まった者達はてんでんにばらけた。
残ったのは白石のみである。理久はちらりと白石に目をやり、すぐゲームに視線を戻した。
そんな理久を、白石は頬杖をつきながら静かに見守る。子供が遊んでいるのを見守るように。その視線の意図が分かった理久は机の下で軽く白石の足を蹴り飛ばしてやった。
****
「赤也、何でそこまであいつに懐くんだよ。まあいい奴ではあるけど、何かあるのか?」
部屋に戻る途中丸井が切原に問いかけた。最初あんなにも毛嫌いしていた切原がこれ程懐くなんて、皆口にせずとも同じことを思っていた。
「んー………目っスかね!」
「目?ちょっと怖いよなあの目、きついっつーか」
「いやぁそうじゃなくて、話してる時の猫宮さんの目、先輩達と変わらないんスよ。先輩達と話してるみたいな、なんていうか」
「もっと分かりやすく言えよぃ」
「女子と話す時って今までは目がギラギラしてたっつーか、何かを期待してる目しか見てこなかったんスけど、そういうのが無いんスよ。本当に普通っつーか…安心して会話ができるっつーか……」
切原も自分で言っていてよくわからなくなってきたようだ。切原は細かく考えながら会話をしていない。ただ自分の感覚で接していたため上手く言葉にできないのだ。
「少し分かる気がするな」
「分かってくれますか幸村部長!」
「まあちょっと馬鹿なところは……ちょっとじゃなくあるけど、いい子なのは確かだったね。馬鹿だけど」
「馬鹿じゃな」
「うわぁ否定してやれないっス……けど猫宮さん、さっきので傷付いてたらどうしよう…」
「大丈夫そうだとは思うけど、後で様子を見に行ってみるかい?」
「はい!」
****
一通り遊んだ立海メンバーは暇つぶしがてら理久を探しに行く。まあ部屋に居られては様子を見ることは叶わないのだが、幸いロビーに居たらしい。居たには居たが……
「………………白石、何しているんだい」
ロビーには白石と謙也と財前、千歳に氷帝の面々が揃っていた。青学は各々部屋で過ごしているのだろう。
もちろん理久も居る。正座をさせられて。
ロビーの床に正座をさせられる理久の前には腕組みをする白石が立っていた。そんな光景に幸村は顔を顰める。
「聞いてくれ幸村クン、このアホどうにかしてくれへんか」
「とりあえず何があったの…」
「未だに外土砂降りやろ?しかも雷も鳴ってる。そんな中傘差して外出ようとしたアホがコイツや」
そう言って理久を指さす。
「何でまた…」
「よっしゃ理久、理由言うてみ」
「…………雷の迫力を体験したくて…」
「どないしてくれようこのアホ」
大きな溜息をつき額に手を当てる白石を幸村は慰めるように肩を叩いた。
すると見かねた跡部が口を開く。
「今頃事故の後遺症でも出てきたんじゃねえか、危ねぇから白石お前紐で繋いどけ」
「いや、後遺症も何も元からこんなんでしたよ理久先輩」
「そうか、それじゃあどうしようもねえな」
突っ込みどころが違うのではとも思える財前の言葉に謙也も千歳も頷いていた。
周りの言葉に理久は肩をすくめる。
「ごめんて……無意識だったんだって…」
「無意識でこの雷雨の中外に出ようとする奴がいるんか?」
「いやほんとごめんて…………」
一応中身は一番年上である。中身は高校生なはずの理久は中学生に叱られすっかり小さくなってしまっていた。しっかり反省しているかは別であるが。
もう白石と理久以外皆笑っていた。肩を震わせ顔を隠しながらブルブルと全身震えている。
「白石笑われてるよ」
「笑われとんのお前や」
「ねえ足痺れた!!足!!感覚ない!!」
「踏めってことか?」
「鬼かよ!!」
痺れた足を崩し床に倒れこむ理久の足を踏むフリをする白石に理久は必死に逃げようとするが、まあ逃げ切れるはずもなく僅かに足を踏まれた。
「ッぎゃー!!!!!無理無理無理無理無理無理白石馬鹿てめコラァ!!!」
「次アホな真似したらこんなもんやないで」
「すいませんでした!!本当にすいませんでした!!!」
「分かればええねん」
「足に力を入れるなぁあああああああああああ!!」
いつの間にか白石は楽しそうに理久をいじっている。
その反面理久は噛みつかんばかりに白石を涙目で睨み付けていた。
理久で遊びながらも立つ為に手を貸してやる白石はまだ優しいほうだろう。痛みに泣き叫ぶ理久を笑いながら抱き起こしてソファに座らせてやっている。
「なんか、心配以前の問題みたいっスね」
「もう俺お腹痛い」
「幸村部長笑いすぎっスよ…」
「赤也なんか目じゃねえくらいの馬鹿だなアイツ」
「どういう意味っスか丸井先輩!!?」