25回避能力皆無

昼食をとっていると、スマートフォンが振動した。
メールかとも思ったが長い間震えているので見てみると、直哉からの電話である。

「もしもし?」
『姉ちゃん持ってった鞄にDVD入ってなかった?』
「あー!あったよ、あれ何?」
『最近レンタル始まったホラー映画。やっぱりその鞄か〜見たかったのに』
「お?もしかしてピエロのやつ?」
『そうそう、姉ちゃんは映画館で見てきたでしょ』
「あーあれかー!わりーな、借りに行ってこい」
『めんどくさ………あ、姉ちゃん東京バナナ買ってきてね』
「もうちょっとさ、元気にしてる?とかないの?」
『現金?何?聞こえなかった』
「小学生の耳衰え早過ぎだろ」
『東京バナナよろしくねじゃあね』

一方的に切られる。
通話が終了した画面を見ながら溜息をついた。うちの弟可愛くねぇ……
そういやシアタールームあったなぁ……跡部に言って貸してもらうか。ホラーだから苦手な人居るだろうし、まあ一人で見たいし……ていうか合宿所にシアタールームあるってなんなんだろ…初めて出たテニプリの恋愛ゲームもどき思い出すなぁ…あれなんかビリヤードするとことかあったんじゃなかったっけ……息抜きにやるとか言って…なっつ。

「今の誰?」

正面に座っていた白石が声をかけてきた。

「弟ー東京バナナ買ってこいってさ」
「へぇ、弟クンの写真とか無いん?」
「あ!あるある、無理矢理一枚撮ってもらったやつが」
「どれ」

アルバムからその一枚を探し白石に見せると顔が固まった。
そんな酷い顔してないはずだけど……!?

「瓜二つにも程があるやろ…!」
「今丁度身長も同じくらいだから双子で通せる」
「似すぎ!」
「間違っても弟をあたしの名前で呼ばないでね、後で怒られるのあたしだから」
「それは見てみたいわ」

****

昼食終わりの跡部にこそっとシアタールーム使用の許可を得る。
何でそんなこそこそしてんだよと言われたが、まあ見るのがホラーだから下手に人を集めたくないと言うと納得してくれたようだった。
皆が部屋に戻ったのを見計らってDVDを持ちその部屋へ向かう。

「あー!何してんスか猫宮さん!」

何で居るんだい切原ッッッ!
切原と、いつものメンバーの丸井に仁王。さらに丁度居合わせたらしい菊丸と越前、向日と忍足(眼鏡)コンビが居た。このエンカウント率どうにかならないだろうか。

「いやちょっと、散歩…?」
「まさかまた外行く気じゃねーだろうな。白石にチクるぜぃ」
「違うわ!やめて!」
「何持ってんスか?DVD?映画?今から見に行くとこ?」
「お……おお…まあ…」
「じゃあ皆で見ましょうよ!」
「いや…これアメリカ映画だしそんな興味ないんじゃないかな…」
「いいっスよ!暇だし!」
「いやいやいや…ただ少年少女の青春映画だからつまんないかも…」
「俺白石さん達呼んできますね!」
「人の話を聞いて……ッ!」

わーっとダッシュで行ってしまった彼を見送ることしかできなかった。なんてこった。

「どこで見るんだよぃ」
「……シアタールーム…」
「じゃあ行くか。赤也にはLINE入れとく」
「映画とか見るの久しぶりだにゃー」
「ま、暇潰ししとったとこやしなぁ……なあ岳人」
「俺寝ちまうかも」

どうしよう………本当はホラーなんですって言いそびれた…これ……そういや切原って怖いのだめじゃなかった…?


シアタールームで待っていると、切原に連れられて白石謙也財前が参加する。いつものメンバーやないか代わり映えしねーな
映画館のような椅子ではなく、クッション性がめちゃくちゃいい長椅子に座っていたあたしの隣に白石が座った。

「理久一人で見ようとしとったんか、誘えや」
「いやぁ………それより忍足くん大丈夫?帰らなくていい?」

そう言うと、二人の忍足が反応してしまった。

「あ違う、眼鏡じゃないほう」
「今更やけど謙也でええねんで」
「そう?あたしも下の名前でいいよもう」
「じゃあ俺もいいっスか!?俺も赤也でいいんで!」
「好きに呼びなさい」

もう逃げることはできない。待ち受ける恐怖を知るのはあたしのみ。意を決してディスクをセットした。


もう最初っからやばい。そう、映画が始まると皆は気付いたのだ、ただの青春映画ではないと。
スクリーンの中の男の子は、小さな紙の船を追って排水口を覗き込む。

「…………あの…これって…ねえ理久さん…?」
「大丈夫、ちゃんと青春すっから大丈夫!」

隣に座っていた赤也が、多分顔を青くしながら尋ねてくる。

「ぎゃー!!!!腕!!千切れ……!!!ぎゃあああああああああ」
「謙也さんうっさい」
「これホラーじゃん!!?ねえおチビ!?ねえ!?!!?」
「つい最近リメイクしたやつっスね」

ホラーが苦手な者、まあまあ見れるという者がしっかり分かれているようだ。
菊丸謙也向日はめちゃくちゃ騒いでいる。まあ騒いでても映画は字幕なので話は追える。
反対隣に座った白石は怯えることなくスクリーンを眺めていた。

「……何や、俺の顔に見惚れたんか?」
「白石ホラー得意なの?」
「得意ってわけでもないけど、まあ見れるな」
「へー意外…」
「どういう意味やねん」

映画が進むにつれ赤也が少しずつくっついてくる。しまいには横から完全に抱き着かれてしまった。もう奴の声がうっさくて映画にびっくりどころではない。
後ろから「赤也うるせぇ!!」と丸井の怒号が飛んでくるが、本人は気付いているのか気付いていないのか、ただ泣き叫んでいた。
あのピエロがスクリーンから出てくるとこびびったなー思わず顔逸らしたよねーていうかいい加減首に引っ付いてる赤也のせいで首が痛い。
すると誰かの腕が腰に回る。グイ、と引き寄せられるように力が加わるが、赤也にしがみつかれているせいで力が加わる方へ行くことはできない。ていうかこの腕って…
ちらりと白石を横目で見ると彼もまたこちらを見ている。
何?という顔をしてやったが、すぐ白石はスクリーンを向いてしまった。何なんだ。腕そのままだし結構くすぐったいんだけど



映画を見終わると、騒いでいた奴らはぐったりしていた。わかる、疲れるよねアメリカンホラー。驚き疲れるというか
謙也が顔真っ青だったのは悪いことしたなーって思った。

映画中考えていたことがある。ちょっとあたしエンカウント率高すぎやしないかな……ここまで彼らに関わってしまうものなのか?何かの力が作用しているのか?
部屋に戻って頭をフル回転させる。
もし、もし白石は何も知らないままだったとして、世界の変化はあたししか知りえなかったとして。どうなっていただろうか。
まあ白石と付き合ってて?お互いベタ惚れだったらしいから白石にベタ惚れされるわけで。あたしは多分付き合っていけなかっただろうな……んで絶対別れる。そしたらまたおかしい話になりそうだな……

ベッドに仰向けに寝転がり、目を閉じた。
………やっぱりさー…目覚めたら元に戻ってるとかないかなー…いや今戻ったらまずいな。勉強内容すっかり忘れてしまったよ。
白石達に会えたことは何事にも代えがたい素晴らしいことではあるが………ちゃうねんあたしが生きるべき世界はここじゃないんだと思う。もしもこれが実は夢で、盛大な夢落ちとかだったらそれはそれでいい気もする…夢であってくれと何度願ったことか。

うーん………あたしはこのままでいいんだろうか。
どれだけ楽しくても、やっぱり不安でしかないよ