「え、今日午前だけなの?」
6日目である朝、朝食の際に白石から告げられる。
実質、合宿は今日で終わりなのだという。明日の午後には皆それぞれ帰るのだそうだ。じゃあ何で今日午前だけ?
「午後は自主練にして、夜親睦会らしいで」
「今更…」
「理久も参加やからな」
「いや明日帰るために今日は早く寝たいので遠慮する」
「強制参加やから遠慮させれへんねんすまんな」
「すまんと言いながら謝罪の気持ちが伝わってこない」
いやマジで。あたし混ざるより男同士で飲み食いしたほうが楽しいだろうし、明日に備えて早く寝たいし。あとそんなの混ざったらあたしは白石から離れられなくなりそう。ずっとしがみついてなきゃならないと思う。
「まあ参加できたらねー」
「できたらやなくてするんやて」
「少しはあたしの気持ちを察してくれるとかないわけ?おいあの頃の心優しい白石を返してくれ」
「心優しかった俺を殺したんはお前やってはよ気付いたらどうや」
「えー!こんなにも楽しく絡んでいただけなのにあたしが何をしたっていうんだ!」
「さー今日も練習頑張るでー」
「白石ィ!無視しないでよ白石ィ!」
白石は無視を覚えた!こうかはばつぐんだ!
****
とりあえず参加できたら、ということなので。
普段よりも早めにお風呂に入り、夕食の時間より少し前にベッドに入った。そう、もう寝てしまうのである。さすがに寝てちゃ参加もできないし、参加させられることもないだろう。ノックされても電話鳴らされても気付かないし。幸い眠気も充分ある、今しかない。
うとうととあたしを襲う眠気が心地いい。ベッドに入ってまもなくあたしは眠りに落ちたのだった。
部屋は寒くない程度に冷房が効いている。
ほんの少しの寒気を感じた。布団をかけているはずなのに、背中に風が当たったかと思うと再び布団の感触が戻る。何だか布団を一瞬剥がされてまたかけ直された感じだ。
一瞬の寒気に体を少し震わせ反対側に寝返りを打つと、何か大きなものにぶつかる。頭は半分寝ているため、その温かい大きなものにすり寄ると抱き枕のように抱き着いた。
………抱き枕?
ハッとして目を開ける。恐る恐る見上げると、困ったような照れたような表情の白石が居た。いやお前人の布団入ってきといてその顔何なんだよ。
じゃなくて!!
「うわあああああああ!!?!?」
あまりに吃驚しすぎて飛びのくとベッドから思い切り落ちた。
「あー、理久大丈夫か?」
「いだだだだだ………大丈夫じゃないよ!?何してんの!!?!?なっ、何してんの!!?!?!?!?」
「起こしにきた」
「何で隣で寝てんの!?」
「いやー………つい出来心で…」
「馬鹿じゃないの!?ていうかどうやって入った!?」
「鍵開いとったけど」
「ガッデム!!」
凡ミス!!!痛すぎる凡ミス!!!!!!鍵!!!!鍵って!!!!!!
「……白石ちょっと座ろうか」
「ハイ」
二人でベッドの上に正座をする。
「いいか、出来心の意味が分からないけどもな、女の子が寝てるベッドに何故入っちゃうの。普通に考えてアカンやつでしょ」
「この前理久は女の子やないって結論になったから大丈夫やで」
「女だわ!!!ちゃんと胸あるわ!!!」
「自分の胸鷲掴むなはしたない。そういうところやで!」
「正論でむかつく!!………いいかい白石、昨日言ったでしょう、白石に好きな子ができたら全力で応援するって。こんなことしたら好きな子に嫌われるんだぞ…」
「理久は嫌いになったん?」
「白石と添い寝できて大変嬉しかったですありがとうございます」
「ならええやんか」
「あのさぁ自分で言うのもあれだけど気持ち悪くないの?こんなあたしのこと」
「慣れた」
「慣れか〜『友達だから』的な感動する返答は幻になってしまったか〜」
「何か俺ら今から初夜みたいな絵面してへん?」
「今すぐ足崩せ!楽にしろ!正座してるのがだめなんだ!!」
初夜て!!初夜て!!!!白石と初夜!!?!?あたしと!?誰がオイシイの!?
「はー…………初夜だとするならあたしが白石襲いたい…」
「俺が主導権渡すと思うか?」
「とか言いながら結局あたしに抱かれるんでしょわかる」
「おーそんなこと言うとるとホンマに実践したろうやないかコラ」
「ぎゃあああああああああ」
白石にうつ伏せに押し倒される。
押し倒される瞬間見えたぎらりと光った眼は男らしく、どれだけ毎日友達のように接していても彼も所詮男なのだと思わせる。彼は両手でまさぐるようにあたしの脇腹を掴んだ。
「ッッッ!!!wwwwwwwやめっwwwwwwwくすぐッ……!!wwwwww」
「おーおー誰が理久に抱かれるて?」
「ごめッwwwwww待ってwwwひっwwwww無理こしょばいッ!!!wwwwww」
「ごめんなさいは?」
「ごめんさッwwwwwwwも、マジwwwwwつらッwwwwww」
散々くすぐられ、やっと白石の手が止まった。
はーッはーッと荒れる呼吸を整えるので精一杯で、全身が熱い。呼吸困難になるかと思った。
あたしが息を整えている時、多分白石が首筋に噛み付いた。思い切り歯を立てられ痛みに体が硬直する。
「いった!!!!!今噛んだ!?噛んだの!?」
「ハッ、夕食の肉と勘違いしてもうたわ」
「よしお前表出ろ決闘だ」
「ええけど勝てると思うなよ」
「最近の白石マジこえ〜〜〜〜!」
噛まれたとこを手で押さえ起き上がる。
白石は不敵の笑みを浮かべ、明らかこちらを見下していた。くそ、そんな綺麗な顔に見下されたら喜んじまうだろが馬鹿野郎が
「さてお遊びはここまでにして。ほら親睦会始まっとるんやからはよ行くで」
「もう疲れた……白石のせいで疲れた…おやすみ……」
「しゃーない、今日は特別やで」
「ありがとう……今日はってか今日しかないけどな」
「さー行くでー」
「ぎゃあああああああ」
ベッドに横になったあたしを白石が担ぐ。いつか千歳にやられたように米俵担ぎだ。勘弁してくれ
「お前ええええええええ」
「理久うっさ」
「あたしのせいじゃ…いった!!!!!!!」
「あッwwwwwwすまんwww」
担がれそのままドアに向かう白石に文句を言っていたら丁度ドアから廊下に出る寸前だったようで、頭を上げていたあたしは後頭部を思い切りドアの枠組みに強打した。
すげえ音したけどあたしの後頭部大丈夫だろうか。
あたしを抱える白石は笑ってしまっていて震えている。やめろあたしまで小刻みに震えるからやめろ。
面白くて仕方ないらしい白石はしばらく立ったまま笑い続け、ようやく立て直すと親睦会が開かれているであろう食堂へ向かった。
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食堂へ連行されると皆に「待っていた」と口々に言われる。
渋々参加した親睦会は、まあ予想通り楽しかったわけで。楽しくないはずがないんだよなー分かってはいたけど何となく、あたしが参加するのはおかしい気がして。けれどもみんなそんなこと気にする素振りもなくあれ食えこれ食えと色々持ってくる。
地域の飲み会に参加して近所の人に構われてる気分だ。言えないけどあたしお前らより年上なんだからな!!言えないけど!!
彼らは気付いている。
理久の首に残る噛み痕と、薄っすら赤いうっ血した痕があることに。
まあ誰がやったのかなんて分かりきっているだろう。
皆口には出さないが、きっと皆の心は一つになったに違いない。
(((白石やるなぁ……)))
周りがそう思う中、白石は一人微笑むのであった。