もう開き直った。
とりあえず嫌がらせは解決したんだから、もういいだろう。まだ咲良はびくびくしていたが、嫌がらせが止まったことが分かると少しずつ元気を取り戻していった。
さー!!!!もうすぐ体育祭ですよ!!!!元気にいきましょう!!!!
あたし100m走と借り物競争にしたんだ!!!あたしが走ることが意外だったのか、クラスの皆は目見開いて吃驚してた。あたし運動できない子だったのねそうですか。
リレーは白石、謙也くん、咲良、山下だそうで。驚いたのは咲良が陸上部だったってこと。だって前の世界ではバレー部だったもの。まあいっか!!!
体育祭の無駄に盛り上がる感じ好きなんだよねー騒げるの楽しい。
奇数クラスが西、偶数クラスが東なので、我ら3-2は東である。東の応援合戦は男子陣によるもので、皆学ランを着ての応援だそうだ。見慣れとるがな。もうちょい何か捻ってくんなかったのかなーなんて思っていると、実行委員の女の子に声をかけられた。
「猫宮さん」
「ん?」
「猫宮さんもよろしくね!」
「んんんんんんんん?ん?なに、ん?」
「多分これ!サイズ合うはずやから!昼休みに練習することになっとるから来てな!!」
「あれ?応援合戦て男子だよね?」
「猫宮さんが入ってくれたらますます盛り上がると思うんよ!っちゅーかめっちゃ見たい長ラン姿…!!」
「仕方ないなぁ!!」
ねー。単純。あたしが。
****
「理久、何や元気になったな」
自販機で飲み物を買いながら謙也が言う。
その言葉に白石は頷くも、腑に落ちないという顔をする。
「……元気になったんならええけど、無理しとるようにも見えるんよなぁ」
「あと何で理久が応援合戦の練習参加しとんねん」
「それは俺も知らん」
「…なあ白石」
「ん?」
「理久とまた付き合わへんの?」
「……なんやねん急に…」
「どう見たってお前理久のこと好きやろ」
「何でそう思う?」
「いやもう理久相手にしとる時のお前の顔も態度も違いすぎやん。めっちゃ好きやん」
「そない俺のこと見とったんかお前、こわ」
「何でそうなるん!?別にお前見とったんちゃうわ!!」
「ほな理久のこと見とったん?やらしいわぁ」
「お前なぁ……!!」
白石は一呼吸置いて、謙也を見据える。
「好きやで、理久のこと」
「急に真面目になるなや……せやから付き合わへんのかって」
「理久が俺に興味なさそうやもん」
「でも一番白石に懐いとるやろ」
「懐くのと恋愛感情はちゃうやろ。今言ったら逃げられそうやから、まだアカンねん」
「あー……機会を窺っとるわけか」
「せや、諦めとるわけちゃうで?俺がそう易々と逃がすわけないやろ」
「……あー心配した俺がアホやったわ」
「そういうことや」
呆れたように溜息をつく謙也に、白石は含み笑いをした。
****
「ッしゃー!!!体育祭きたー!!!!」
「理久うっさい」
「白石!!体育祭だよ!!祭りだよ!!もっと元気出して!!」
「理久が元気良過ぎんねんもう少し静かにしろ」
「えー!!!!!」
体育祭当日、朝から絶好調です。
咲良とも千昭とも喋らなくなってしまったけど!!今日も元気です!!!
こうやってテンション上げてないと!!カビやらキノコ生えてきそうなくらい落ち込んじゃうんだよね!!うふ!!!
朝からはしゃぐあたしを白石は呆れ半分で相手をしてくれる。わりーな!!
プログラムが始まるとあたし含め生徒達はさらに湧き上がる。応援も楽しいよねー一人じゃなかったらもっと楽しいよね!!大丈夫まだ泣かない!!
「猫宮、そろそろ100m走始まるで。……大丈夫か?」
「何だ山下!大丈夫だよ!楽しみ!!」
「いやお前走るのめっちゃ嫌いやったやん」
「あー!!あー!?あー…………あれはほら…運動苦手なほうが可愛げあるかと思って……」
「なんやそれ」
「山下もリレー頑張れよ」
「それを言うな……プレッシャーで死にそうなんや………白石と忍足やで…?俺がポカしたら大ブーイング決定やん……」
「走る順番は?」
「白石、忍足、成瀬、俺」
成瀬って咲良のことね。名字。
「アンカーじゃん……」
「めっちゃ胃痛い……」
「何とかなるなる。じゃあ行ってくるわ!」
「他人事やと思って……!!」
「他人事だからね!!」
お腹を押さえて顔を青くする山下を置いて100m走に出る人達が集まる場所へ行く。
皆緊張するねーとか言いながらわいわい楽しそう。いいな……いや一人でも別にいいんだけどね…
ていうか100m走かーめっちゃ久しぶりだなーちゃんと走れるかな…練習しとけばよかったかなぁ
そんなことを考えていると、いつの間にかあたしの組の番だった。スタート位置に立つとどこからか大きな声が飛んできた。
「理久ー!!!転ぶなよー!!!」
謙也くんかい。余計なお世話だ。任せろ、という意味で軽くピースをしてやった。
係の『位置について』の掛け声でクラウチングスタートの構えをする。緊張の瞬間である。あーぞくぞくする、悪い意味で。大会とかは嫌いだったなぁプレッシャーに弱いんだもんあたし…
係の合図がかかったと同時に地面を蹴り走り出す。
少し筋肉と体力がついたおかげか、思っていた以上に走れている気がする。足が軽い。回転のスピードが落ちることなく余裕の一着となった。
一緒に走っていた人達は少し遅れて次々とゴールする。いやー短距離もいいな、スカッとするわ。そう思いながら振り返ると、皆唖然としていた。
……そうだね!!あたし走れない子だったね!!でも遅く走るほうが無理!!
微塵も疲れを感じないまま自分のクラスへ戻ると、白石と謙也が驚いた様子で近寄ってきた。
「理久お前走れたんか!?速過ぎひん!?」
「謙也くん後で勝負しようよ、負けたほうがお好み焼き奢るの」
「はー!!負けへんし!!」
「からの?」
「負けへんわ!!!」
ムキになる謙也くんを笑っていると白石が頭を撫でてきた。
「お母さん、皆が見てるからやめて恥ずかしい」
「何や反抗期か!?一等賞かっこよかったで理久〜!」
「一等賞って言うのやめて!!小学生みたいだからやめて!!」
「後でシール貼ってやらな」
「やめろ!!」
すると、慌てて走ってきた山下に無理矢理連れ出された。グイグイと腕を引かれ人気のない場所へと連れて行かれる。
「山下何!?」
「頼む!!リレー代わってくれ!!」
「いやもう腹括んなさいよ……」
「猫宮めっちゃ足速いやん!?あれ俺よりも速いって!ホンマ頼む!一生のお願いや!!」
「いやいやいや……もうメンバー決まってんだし山下元気じゃん……代わる必要性がないじゃん…」
「怪我したら代わってくれるんやな!?よっしゃ今から障害物競走やから怪我してくるわ!!頼むで!!」
「待て山下ぁあああああああああ!!」
山下は嬉しそうにグラウンドへ駆けて行った。何をしでかす気だ山下。お前の代わりにでもなったらあたしが咲良からバトン受け取らなきゃならないんだぞ、今度はあたしが胃痛いって。
どうしようと悩みながら戻ると、白石に腕を引かれる。
少し不機嫌そうな、怒っているような雰囲気を纏う白石に一瞬怯んでしまった。
「何話しとったん?」
「いやー………………何でもない…」
「言え」
「無理…」
目を逸らし気まずそうにしていると、障害物競走が始まった。頼むから変なことしないでくれ山下、マジで頼むから……!!
そう心配しながら山下を目で追う。すると白石に頬を引っ張られた。
「ひらいひ……いひゃい…」
「お前山下見過ぎ」
「らって……あ!?」
やってくれたな山下。あいつ今わざと転んだだろ。大転倒である。
痛そうに足を引きずり何とかゴールをしたものの、流血沙汰だ。あちゃーと頭を押さえ、あたしは山下の元へ走った。
「……白石、顔怖いで」
「気のせいやろ」
「さよか…」
****
「山下ぁああああああああ!!」
「これで約束通り、頼んだで!!」
「いやまだ許可貰ってなくね?」
「先生!俺怪我してもうたんで…申し訳ないけど猫宮にリレー代わってもろてええですか?」
「山下お前!!!!!」
残念ながら許可は下りました。
……………マジかよ…