はぁい、応援合戦の時間ですよ。
最高に気分下がってるけどね。
長ランに着替え集合すると、女子生徒達から黄色い歓声が聞こえた。
いつもの制服とさほど変わらないってのになぁ…いつもの違うのって白い手袋してるとことハチマキしてるとこと学ランがちょっと長くなったとこだけじゃん…
リレーのことで気分が落ちる中自分も手袋をはめていると、数人の女の子達に声をかけられた。
「猫宮先輩…!!」
「?ハイ」
「一緒に写真撮ってもろてええですか…!?」
「?いいよ」
「ホンマですか!!」
一人ずつツーショットを撮ると、嬉しそうにお礼を言って帰って行った。何だったんだ。白石とか謙也くんじゃなくていいのか。
「うわ、理久先輩似合いすぎやろ」
「お、財前。どうよ」
「似合いすぎて腹立つ」
「とか言って写メ撮るな」
「今日のブログネタおおきに」
「は!?」
「ええ写真撮れましたわ」
「撮影料!!」
「あ、謙也さん達も撮っとかな」
「撮影料!!!!!!」
「理久始まるで〜!!」
白石に呼ばれたので財前にパンチをしてそそくさと走って逃げた。後が怖い。
完全に男子しか居ないとこにあたしが居るのは大変おかしいとは思うが、長ラン似合ってるからいいや。
「理久似合いすぎやろ…」
「白石も似合ってるよぉ」
「いっつも見とるようなもんやん」
「まーねー」
「後で俺とも写真撮ろうや」
「いいよ!!!」
ニッと笑うと、白石はまたあたしの頭を撫でた。何だろうな、白石はあたしを動物か何かかと思ってるのかな。
練習通りに応援合戦が始まり、あちらこちらから黄色い声が飛び交う。
聞き間違いだろうか、「猫宮先輩ぃいいいいい!!!!」と言ったあたし宛ての声も聞こえている。マジか。声がしたほうを見ると、先程写真を撮った子達だった。あー二年生か……
ふと一瞬考え。
応援の振りをしながら視線だけ彼女らに向けると軽くウインクをしてやる。
途端に彼女達は叫びながらその場に崩れてしまい、やっべーと思ってすぐ視線を元に戻した。崩れる程か!?あたし女だぞ!?白石とかじゃなくていいの!!?!?
無事応援合戦が終わり即座に着替える。
あーリレー………憂鬱だ…………山下ホント許さねえ…覚えてろよ………ああああああああああ嫌だあああああああああああ無理だあああああああああああ咲良と顔合わせづれぇええええええええええ
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まだ始まらないでくれと祈れば祈っただけ時間が早く進んだような気がする。さあ目玉の対抗リレーですよ!!始まっちゃうよ!!!あー!!!!!!始まる!!!!!
「えー………怪我をした山下の代わりに……アンカーを務めさせていただきます猫宮です。急で申し訳ありません…」
「何急にかしこまっとんねん、気持ち悪い」
「あー謙也くんの言葉に深く傷ついたわ。これは責任取って嫁に貰ってくれなきゃならないやつだわ、いつ結婚する?」
「え、いらん…」
「直談判って手もある」
「ないわ!!」
咲良と言葉を交わすのが怖い。かと言ってここで白石と話してしまうと咲良に申し訳ないので謙也くんに相手をしてもらう。謙也くんの陰からこっそりと咲良を覗き見すると、白石と楽しそうにお喋りをしていた。よかった……白石ありがとよ…
そんなあたしを見た謙也くんがこそっと声をかけてきた。
「なあ理久、成瀬さんて白石のこと好きなん…?」
「多分…」
「ええの?」
「何で?」
「理久も仲ええやん、白石と」
「?どういうこと??」
「……白石取られるかもしれへんやん…?」
「あー……まあもし咲良と付き合ったら遊んでくれなくなるだろうけど、仕方ないでしょ……代わりに謙也くん遊んでね!」
「そういうことやなくてな……」
どういうことだってばよ。いやまあ仲いい友達が別の友達に取られると辛いものがあるけど、その人が決めたことなんだから仕方ないよな…いいんだ……咲良の幸せがあたしの幸せさ……白石と遊べなくなるのはちょっと寂しいかなー……まあたまには相手にしてくれるだろう。
そろそろリレーが始まるようだ。各々位置につく。
うわーこの緊張感、懐かしいわぁ………
そういえば……前にも思い出しそうだった咲良との思い出。体育祭関係だった気がするんだけど、何だったかなぁ……うーん思い出せない………つーか咲良からバトンかぁ……大丈夫かな…いやまあバトンの受け取りは何となく覚えてるけど……まあ大会とかじゃないし落とさなきゃ大丈夫だよね
スタートの合図が鳴った。
湧き上がる歓声、余裕の様子で白石も謙也くんも上位で走り終えた。バトンは今咲良が握っている。
おあー緊張する……くっそ白石も謙也くんもめっちゃはえーな…二人が走ってる時の女の子達の歓声といったらもう……絶叫に近かったぞ…
あーやべやべもうすぐあたしの番やないか緊張やっべぇえええええ
その時だった。
咲良が転んでしまったのだ。
すぐ立ち上がって走り出したが、接戦だった数人に追い越されほぼ順位が大幅に落ちてしまう。
そんな光景を目の当たりにして、いつのか分からない映像がフラッシュバックした。
『…ごめん……ッ!!』
咲良の声が頭の中に響く。
いや、今走ってくる咲良が言ったのではない。たった今思い出した記憶の中の咲良がそう言ったのだ。
そうだ、運動会、何で忘れていたのだろう。
今と同じようなことが、前にもあったじゃないか。小学6年生の時の運動会。あの時、今と同じようにあたしは咲良からバトンを受け取るアンカーだった。
そしてあの時も、咲良は転んでしまったのだ。
転んでも必死に走って、バトンを渡す直前に咲良は悔しそうな表情で『ごめん』とあたしに言ったのだ。
そんな咲良にあたしは一言叫んで、怒涛の追い上げをして一着でゴールしたんだ。
それから仲良くなったんだ、そうだ。何で忘れてたんだろう、咲良と一緒に居るようになったのは、あの日からだ。
「……ッ!ごめん……!!ごめん理久………!!」
これは夢か幻か。
あの時と違うのは、咲良が泣いていること。悔しそうに、涙を浮かべてあたしの名前を呼ぶ。ごめんと叫んでいる。
もしかしたら、あたしはまだスタートラインにすら立っていなかったのかもしれない。
もしかしたら、これから始まるのかもしれない。
……そうなのだとしたら。
自分の中で熱い何かが込み上げる。目頭が酷く熱く感じた。
もし、今日がスタートラインだとしたら、あたしは期待してもいいのだろうか。
またあの日々のように咲良と過ごせるようになるのだろうか。
………一緒に居ても、いいのだろうか。
もうこれ以上望まないよ、だから、お願いだから、このチャンスを掴ませてくれ。
泣いてる咲良なんて見たくないよ。あたしの中にある咲良はいつも笑っていて、あたしの一番の理解者で、かけがえのない存在だったんだ。
頼むから、また、あの笑顔を見させてよ。
ごめん、と咲良はバトンをあたしに伸ばす。
だからあたしはあの時と同じように、大きく笑ってこう言うのだ。
「大丈夫!」
バトンを受け取る。
きっと大丈夫。
あの時と同じように。