33ヒロイン不在の理由

理久は気付いた。
気付いてしまった。

そう、白石の好きな子のことだ。

"鈍感でアホでうるさくて人の話聞かへん子"

うわ〜〜〜〜あたし気付いちゃった……そうだよ何であのヒントでわからなかったんだよ…
そう………だよな……そりゃ言えないよな………けどあたしには…言ってくれたっていいのに…一緒に合宿した仲じゃんか…


複雑な思いを抱え、楽しそうに談笑する白石を見つめる。
あーそうやって楽しそうに……そんな可愛い顔皆がいる教室でしちゃだめだよ……嫉妬しちゃうじゃん…
あ、でもまだ付き合ってないし相手は気付いてないんだよな……鈍感って言ってたし…
じゃあ嫉妬も何もねーか。
うわーこれあたし一人じゃ抱えらんねえよ、重すぎるよこの問題。
やっぱあれなのかなー友情だと思ってたけど実は恋心でした的な……思春期の頃の友情と恋情って難しいらしいからね!!白石もちゃんと中学生してんじゃん〜〜〜〜超にやつく……

「おい白石、理久がめっちゃ気持ち悪い顔してこっち見とる」
「さっきの時間いきなり『そうだったのか…!』って言い出して一人でえらい動揺しとってん。ついに狂ったんちゃうかな」
「お前好きなくせに手厳しいよな」
「俺も何で好きになったんかようわからんくなってきたわ」

白石の好きな子って…謙也くんしかいないじゃん…………
鈍感で?アホで?うるさくて?人の話聞かない子?
謙也くんしかいないじゃん〜〜〜〜〜〜あ〜〜〜〜〜突然の供給有難し〜〜〜〜〜〜〜
やめてやめて〜〜〜〜涎止まらないからやめて〜〜〜〜〜〜
いやいやいや……これ喜ぶのあたしくらいか………そうだよな、彼らにとっちゃナイーブな問題だからな、割と深刻かもしれん。なんせ男の子同士だもんな〜ここはやっぱり女のあたしが良き理解者となり、相談に乗ってあげなきゃならない……良い方向へ向かえるように………
そっかぁ〜この世界にはヒロインいないんだな!わかった!!あたしはお助けマンなわけだ!!!わかったわかった……あたしは白石と謙也くんのためにこの世界に呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーンしたわけか。
じゃあ咲良達との確執の件いらなかったんじゃねえか?あれ結構精神摩耗したんだからな。

いやーしかし、なんて繊細な問題だ……ここは誰かに相談に乗ってもらうしかない……あたし一人じゃ抱えきれないって……

「理久、さっきから何こっち見とったん」
「二人仲いいなーって。白石いい笑顔してたぜ」
「何言うてんねん普通やろ」
「まあまあ、大丈夫だって。あたしが何とかするから!」
「何の話をしとんねん」

****

バイトを終え帰路につく。
未だに頭の中は白石と謙也くんのことでいっぱいいっぱいだ。どうしたもんか………あたしがどうにかすると言っても、本人が隠してるからなぁ……どうにも手が出せん…
ううむ………ここはやはり彼に頼るしか…きっと彼も気付いてるだろう。同じ部活で一番近くで見てきたのだから……ここは情報を共有して……

思い立ったが吉日、その"彼"にLINEでメッセージを送った。

****

「で、相談ってなんすか」
「わざわざご足労いただいt「はよ言え」すいません」

食い気味にくるなぁ……財前よ、もう少しあたしを先輩だと思ってほしい。

「白石に好きな子が居るんだけど…」
「………はぁ(落ち込んどるんか…?)」
「あたし気付いちゃったのよ、その相手。もうどうしたらいいかわかんなくて…」
「……(あー……)…まあ…元部長……言いづら……部長の気持ちは真剣やと思いますよ。そない悩む必要ないと思いますわ」
「元部長ってやっぱ言いづらいんじゃん………やっぱ真剣なのか〜だよな〜……あの白石だもんな。好きな子の特徴言う時すごい優しい顔してたんだ……大好きなんだなって思った…」
「特徴?」
「"鈍感でアホでうるさくて人の話聞かへん子"って言ってた」
「あー当たっとるわぁ…」
「やっぱり……財前も気付いてたんだね………何か咲良も知ってる感じだったし…あたしだけ気付いてなかった…白石の友達失格だね…」
「いやまあ気付かんのも無理ないんやないですか?これからどうにかしてったらええですやん」
「だよね……そうだよね……」

両手をテーブルの上で組み、真剣な表情で頷く。
目の前の財前は、彼が注文した店で一番高いパフェを食べている。くそ、人の金だからって容赦ねえな……

「白石にはお世話になりっぱなしだし、あたしが少しでも力になってあげられればなって思ってさ」
「……ん?」
「けど一人で考えてちゃきっと上手い案とか出てこないし、もしかしたらあたしのせいで壊しかねないし、一番二人を見てきた財前と相談したいなって思って」
「………んん…?(何か話がおかしい…)」
「?どうした財前、可愛い顔して」
「は?」
「いだッ!足蹴んなよ!」
「理久先輩、ちなみに、部長が好きな子って誰か分かります?」
「…うん………謙也くんでしょ?」
「……………」
「財前財前、そこ口じゃなくてほっぺだよ。ほっぺにクリームついちゃったよ、お茶目さんの出来上がりだよ。舐めようか?」
「気色悪いホンマやめろ」
「日に日に口が悪くなっていく…」

何だよ……可愛いジョークじゃんか………そんな本気で嫌がらなくても…嫌がる顔も可愛いけどね!猫に威嚇されたみたい!きゃわ!!
すると、しばらくきょとんとしていた財前が少し前屈みになりブルブルと肩を揺らし始めた。お前何笑っとんねんコラ

「財前、財前お前何笑ってんだ」
「……ッ…ぃや………くっ……ぶふッ…………部長かわいそ…ッ」
「何がだ!白石が誰に恋しようが自由でしょ!笑っちゃだめだろ!」
「先輩静かにしてください……ッふ………無理お腹痛ッ……」
「いつになく爆笑じゃん………何なの…あたしずっと悩んでたのに…!」
「ホンマあんたはアホやな……はーお腹痛い………パフェ出てきそう…」
「きったな」
「あんたのせいやろが」
「何でよ!」
「とりあえず、この話は保留で。俺がちょっと何とかしますわ」
「なん……だと………あの面倒くさがりな財前が自ら……!?」
「俺のこと何やと思ってるんすか」
「クソ生意気な後輩と思いたくない後輩」
「こんな可愛い後輩他に居らんやろ」
「何?聞こえなかった」
「……」
「いっだ!!!だから足蹴んなって!!!」

****

次の日、白石と謙也は財前に呼び出されテニス部部室に居た。
深刻そうな表情の財前に、二人はごくりと喉を鳴らす。

「財前、話したいことって何や?」

しびれを切らして謙也が財前に尋ねる。

「今、理久先輩が大変なことになっとります」
「いつも大変やろ、一人で。なあ白石」
「せやな、いっつも隣で騒がしいわ、一人で」
「アカン、普段からあの人おかしすぎてイマイチ深刻さが伝わらへん」
「何やねん財前、ストレートに言えや」

謙也に急かされ、大きな溜息をつく。そして意を決したように財前は口を開いた。

「今理久先輩の中で、部長は謙也さんのことが好きっちゅーことになってます」
「「は」」
「どうにか力になってあげられへんか模索中らしいですわ」
「「はあああああああああ!?」」

見事にハモる白石と謙也。
その表情は驚愕と困惑が混じった様な何とも絶望的なものになっている。

「な、ざ、え」
「謙也さん落ち着いて」
「あ〜〜〜〜〜せやからあいつ俺ら見て気色悪い顔しとったんかそういうことか〜〜〜〜」

額に手を当てがっくりと項垂れる白石を、財前が慰めるように肩を叩いてやった。

「ちゅーか何で財前がそれ知っとんねん」
「昨日相談されました。パフェに釣られて行ってみたら思っとった以上に地獄みたいな相談でしたわ(ホンマは大爆笑したけど)」
「ホンマに地獄や……白石はよ責任持って付き合えや…」
「あいつどんだけアホやねん………俺の手に負えへんわもう…」
「あ、部長の好きな人の特徴?鈍感でアホでうるさくて話聞かへん子っちゅーの、理久先輩はそれ聞いて謙也さんやと思ったらしいですわ」
「あいつシバく」
「まあ確かに理久先輩と謙也さん似とるとこありますね」
「やめろ!あそこまでアホやないわ!」
「いやどっちもどっちっすよ」
「なんやと……!」
「よし」
「………どないした白石」

絶望的な表情から一変、真剣な表情になった白石は部室を出て行こうとする。

「おい、白石?」
「今から理久ん家行くわ」
「は!?」
「あのアホの誤解解いてくる」
「あ、面白そうやから俺も行きたいっすわ」
「え、ええ……ほな俺も…」

即席理久ん家特攻隊の誕生である。

****

その頃理久は

「ッしゃああああああああああフルコンきたあああああああああああああ長かったああああああああああああああ!!!!!!」

スマートフォンを高らかに掲げベッドの上で跳ねていた。