35坊ちゃんの粋な計らい

「理久、その首の湿布どないした」

我が四天宝寺はもうすぐ文化祭。今はクラスの催しを決める話し合いをしている。
別に案があるわけでもないので皆の意見に合わせることにしたため、話を聞きながら適当に相槌を打っていたところに白石が声をかけてきた。

「一昨日さあ」
「おん」
「リビングでスキップしたら穿いてたスウェットの裾踏んづけてそのまま滑ってすっ転んで腰強打したんだけど若干むち打ちになったっぽい」
「………」
「お母さん大爆笑で、弟には『人間ってあそこまで弾むんだ』って失笑された」
「………理久って普段何考えて生きとるん?」
「えー?目先の楽しみなことかな」
「俺理久の将来がめっちゃ不安や…」
「失礼な奴だな」
「お、うちのクラスの催し決まったみたやで」
「話逸らすな………軍服カフェだと………」

黒板をよくよく見てみると、そこには軍服カフェとの文字が。
おー……コスプレかい………え!何!てことは白石の軍服見れんの!?うわー!写真撮りまくりたい!!

「白石の軍服楽しみ過ぎる」
「……なあ理久」
「何」
「理久は俺に興味あるん?」
「あるよ!ありまくりだよ!文化祭一緒に写真撮ってね!!」
「そういう意味ちゃうくて……」
「ていうか軍服って皆着るの?謙也くんも?うわ白石と謙也くんのツーショット撮りてえ」

"人の話を聞かない"理久に、白石は溜息をついた。
いや、話を聞いていたとしても理久は理解できないだろう。そもそも白石が自分に好意を抱いているという考えが無いので、白石が遠回しにアピールしてもストレートにアピールしても気付くことはない。

「文化祭、楽しみやな」
「ね!文化祭ってカップルできやすいよね、楽しみ」
「は…」

楽しみ……?もしかして理久は好きな奴が居るのか…?なんだ楽しみって…

「楽しみって……どういう…」
「他人の色恋って面白いよね…微笑ましいというか……」
「……」
「何白石」
「理久は好きな奴居らんの?」
「居るように見えるか?」
「愚問やったな」
「でしょう」
「好きなタイプは?」
「好きになった人がタイプ」
「強いて言うなら?」
「ええ?うーーーーん…………自然と会話が弾む人……?」
「ふーん」
「何笑ってんだ」
「別に」

可能性はゼロではない、そう感じた白石はにやける口元を手で覆い理久から顔を逸らした。

****

文化祭が近づくにつれ、準備時間が増えていく。
咲良も千昭も既に部活は引退しているため、少し遅くまで作業をした後三人で寄り道をすることがしばしばある。とても楽しい……

実行委員が手配してくれた軍服が届いたとのことなので、サイズ確認がてら皆で試着をしてみることになった。
うひょーかっけーイギリスの軍服っぽいな……
男女別れ着替えを済ませると、お披露目会と称して教室に集まった。

さすがは男子、めちゃくちゃ似合っている。中でもやはり白石と謙也くんだ。お前らなんなのその……その………色気アカンでしょ……無理無理無理かっこよすぎかよ。あー!!!謙也くん手袋脱ぎ方!!!やらしい!!!これは涎もんですわ………おいおい見てみろよ女子の顔…歓喜、まさに歓喜。

「ちゅーか理久もや!似合いすぎやろ!!」
「え?マジ?千昭も可愛いね」
「やめろそんなイケメン顔で可愛い言うんやめろ!!」
「千昭顔真っ赤だけど」
「理久のせいやろが!!!」

千昭とのやり取りを咲良はすぐ近くから連写していた。連写する意味ある……?

「理久お前似合いすぎやろー!」

そう叫びながら近づいてきたのは謙也くんだった。
馬鹿野郎お前の方が似合っとるわ

「謙也くんこそな……今すぐ結婚しよ早く医者になって」
「金目当てやないか絶対嫌やわ!ちゅーかやめろその結婚しようとか言うの…!」
「何でよ、冗談だって分かってるでしょ?」
「それはそうやけど……」

ごにょごにょする謙也くんに近づくと、辺りをきょろきょろ窺いながら耳打ちをされた。

「お前がそういうこと言うと怒るやつが居るんやて……俺が怒られるんやからな…」
「え何で、何で謙也くんよ」
「この鈍感娘が………ええからもう結婚とか言うん一切禁止やからな……!」
「へいへい」

あ……分かった………謙也くん好きな子居るんだな……?その子に勘違いされちゃうからとかそういう…あーはいはい分かりました、あたしってばできる女だな…ごめんね謙也くん、あたし応援するよ!

「理久」
「お、白石。相変わらず何でも似合うね」
「おおきに。理久も似合うなぁ」
「白石はあれだね、司令官っぽい」
「ほな理久は俺の側近やな」
「えー!!現場突撃したい!!」
「アカン、絶対ヘマするからアカン」
「決めつけは良くないと思うんだよ」

****

その日の夜、あたしは白石と謙也くんと撮った写真を向日くんにLINEで送ってみた。
彼とは同じバンドが好きということで唯一連絡先を交換していたのだ。

「見て見てー……っと」

簡潔に文字を打ち送信するとすぐ既読がつく。反応はや


『この真ん中猫宮か!?似合いすぎだろ!!!むかつく!!』


うふふ、女子に褒められるのも好きだけど男子に褒められるのもなかなか優越感を味わえて嬉しいものだ。まあお前らが着たらこんなもんじゃないけどな、舐め回すぞ

『いつ着んの?』
「文化祭でだよ」
『ふーん。文化祭いつ?』
「再来週の土日」
『浮かれて転ぶなよ!』
「そんな子供みたいなことしないわ!」
『これ明日テニス部のやつらに見せてもいいか?』
「い・い・よ(ハート)」
『キモイ』
「なんでだよ!!!」

****

「宍戸!これ見ろよ」
「あ?」

向日はそう言って昨日理久から送られてきた写真を宍戸に見せた。

「四天宝寺の白石と忍足じゃねーか。真ん中の奴誰だ………………おいまさか…」
「猫宮」
「あいつ生まれる性別間違ったんじゃねーの」
「俺もそう思った」
「文化祭か何かか?」
「らしーぜ!再来週の土日だってよ」
「へぇ」

宍戸はその写真をまじまじと見ながら、自分の昼ご飯を頬張る。

「文化祭だと?」

二人の会話に反応したのは跡部だった。
跡部は、宍戸から向日のスマートフォンを奪うと画面を覗き込んだ。

「猫宮、元気そうじゃねーか」
「あいつは愛すべき馬鹿だった」
「確かに愛すべき馬鹿だったな」
「先輩達言いすぎですよ…猫宮さん居ないからって…」

馬鹿馬鹿言う宍戸と向日を窘めたのは鳳だ。眉尻を下げ困ったように笑って先輩に注意をする。

「ただの馬鹿じゃねーよ、愛すべき馬鹿だ」
「いや宍戸先輩、フォローになってないですよ…」
「愛せねえ馬鹿よりはいいじゃねーか」
「なんですかそれ…」

真剣な表情でそう言う宍戸に、鳳は心の中で理久へ謝罪をした。うちの先輩がすみません、と。

「よし、四天宝寺の文化祭行くか」

ちょっとコンビニ行くか、くらいのノリで跡部が言う。
その一言に向日と宍戸はえらく喜んでいた。他校の文化祭というのはやはりワクワクするのだろう、あれが食いたいこれが食いたいと計画を立て始めた。

「謙也にも会えるし、ちょっと楽しみやんなぁ」
「向日!猫宮に連絡しておけ。しっかりもてなせってな」
「りょーかい!」

****

ピコン、とLINEの通知音が鳴った。
誰だ?
画面に表示されたメッセージを見てみると、向日くんからのスタンプだった。
スタンプだけ……?首を傾げながらトークを開くと、そこには理解し難い内容が綴られていた。

『お前らの文化祭行くから!跡部がしっかりもてなせってさ!』

ハ…………ナンダト………………

厄介な気配しかしない…………これは明日白石達と作戦会議じゃ……