36急募:ヒロイン

「白石大事件だ」
「なんやねん急に呼び出して」
「文化祭に氷帝御一行が来るらしいぞ」
「大事件やないか」

朝は何故かすっかり忘れていて昼休みに屋上で真剣な表情で白石に告げると、最初あからさまに『どうせろくな事じゃないだろ』という顔をしていた白石が一瞬で真顔になった。いやいいんだけど、いいんだけどあたしに対する態度が最近勢いを増して雑。

「何でそんな話になってん」
「一昨日衣装来た写真を向日くんに送ったら何故かそんな話になった」
「ちょい待ち、お前氷帝の奴らと連絡取っとるんか」
「氷帝というか向日くんとたまーにね。好きなバンドについて語ったり」
「聞いてへんで」
「何で白石に言わなきゃならんのだ」

眉間に皺を寄せあからさまにムッとする白石に首を傾げる。本気で意味が分からない。誰かと連絡を取るのに白石の許可が必要なのか。

「俺とは連絡取ってくれへんやん!大抵無視やん!」
「ほぼ毎日会ってるのに家帰ってから連絡取る必要ある?」
「ホンマお前はブレへん奴やな……もうちょい俺にデレるとかないんか?」
「白石はあたしに何を求めてんの?」

見るからに拗ねてみせる白石に溜息が出た。何この子供………ああそういや君中学生だったな……忘れてたわ…
お前そんなキャラじゃないだろ、と視線を送る。けれども白石はその意図を知ってか知らずか拗ねた態度を止めることはない。可愛いけども。

「で、氷帝来ますけどどうしますか」
「さあ」
「お前……何を拗ねてんのよ…」
「自分の胸に手を当てて考えてみぃ」
「あたしが悪いの!?」
「理久以外に誰が居んねん」
「あーハイハイ謙也くんに相談してくるからもういいですー」

寄りかかって座っていた壁を支えにして立ち上がる。屋上の出入口に行く為には白石の前を通らなければならないため、白石の目の前を通り過ぎるように歩き出した途端足を引っ掛けられた。思ってもみなかった出来事に受け身を取る暇もなくべしゃっとそのまま転んでしまった。

「いいいいった………!!!!何すんだ白石お前ぇえええ……!!」

床にぶつけた顔面を押さえながら四つん這いで痛みに耐える。めっちゃくちゃ痛い……!!白石は仮にも女の子のあたしに何をしてくれているのだろうか…!!
痛い痛いと唸っていると背後から白石の両腕が腹に回り、後ろ向きに抱き起されたかと思うとあたしを抱き抱えたまま白石は座り直してしまった。いや何してんだ

「え………?白石何してんの?」

そう聞いても白石は答えてくれない。ただ背後から回された腕の力が強まるだけだ。
腕に力を入れあたしの左肩口に顎を乗せ密着している。もう直に耳元で白石の息遣いが聞こえてしまい硬直する。

「………あの……白石さん…?」
「……朝から思っとったんやけど、理久…何かいつもと違う匂いせぇへん?」
「あ?あー香水だと思う。めちゃくちゃ好みの見つけたもんで……ちょっと匂いフェチ?だから自分につけて癒しをと思って……そんなに匂う?そこまでたくさんつけてきてないけど…」
「ええ匂いやなぁ…」
「それは大変嬉しいんですけどね……そろそろ離していただけないかと…」
「何で?」
「何で!?いやだっておかしいでしょこれ……」
「理久が俺以外の奴構うんが悪い」
「全然意味が分からない…」

鼻をすんすんと鳴らし人の首筋に顔を埋める白石に顔を顰める。
この人は本当何がしたいのだろうか……こんなことをしている暇があったら好きな子に告白でもしてきたらいいものを…
しかしさすがのあたしでもこの状況は辛い恥ずかしい照れる。

「ねえちょっと……こんなとこ白石の好きな子に見られたらどうすんの…ていうかいい加減恥ずかしいってば」
「……その好きな子、理久やって言うたらどうする?」
「は……」

その瞬間、視界がぐるりと動いた。
気付いたら床に仰向けで寝ていて、目の前には白石が居る。覆いかぶさるようにあたしの真上を塞いでいた。

「白石…」
「俺が好きなんは、理久やで」
「冗談………」
「俺が冗談で好きでもない子抱き締めると思っとるんか」
「…いやー……ありえなくもない…」
「なんでやねんあるわけないやろ」
「さいですか…」
「あーあ、ホンマは文化祭で告ろう思とったのに上手くいかへんなぁ」
「すんません…………あちょっと待て、じゃあ何?好きな子の特徴ってあれ」
「理久のことやで」
「全然違うじゃん!!!!!」
「いや、そう思っとるんお前だけや」
「おい嘘だろ」

ショックを受けながらしれっと起き上がろうとするも許されず床へ押し付けられた。

「話終わってへんよ」
「無理……頭パンクしそう…」
「まあ返事は文化祭ん時聞くわ」
「え、文化祭までモヤモヤしてろと?」
「ちゃんと考えてくれっちゅーことや」
「考えても結論出る気がしない…」
「もう少し簡単に考えればええのに」
「簡単にってか……そんなことしたら学校中の女子に刺し殺されるわ…」

あたしの言葉に白石は笑った。
満足したようにあたしを起こし二人で立ち上がる。すると今度は正面から抱き締められた。

「いやホンマええ匂いするな理久……」
「自分でもそう思う」
「無差別にフェロモン振り撒くんやめてくれますか〜」
「え…白石に言われたくないんだけど……あんた最近告白される頻度多くなってるでしょ」
「文化祭近いからなぁ」
「モテますねぇ」
「そんな俺にお前はモテてんねんで」
「七不思議ですわ」

ようやく体を離されると手を引かれ屋上を後にする。
廊下に下りると自然と手を離されたので、あたしはトイレに行ってから教室へ行くと告げると白石はやんわりと笑って分かったと言った。

トイレに駆け込むと鏡の前に立つ。
鏡に映った自分の顔は真っ赤以上に真っ赤で、それすらも恥ずかしくて両手で顔を覆った。
白石が、え、好きって何。
何であたし……?もうわけわかんない………おいヒロインどうした…未だに現れないぞどうなってんだ……何がどうなってあたしを好きになってしまったんだ白石は…
……まさかとは思うけどあたしがライバルキャラにでもなるというのか…?えそれは嫌だ……そんなことになるくらいだったら最初から身を引きたい…

白石は……あたしの何がいいのだろう。
ただ……同じ境遇にあるからあたしを特別に見ているだけで、もしかしてそれを恋愛感情と勘違いしているだけじゃないのか。まだ中学生なんだし、まだ恋したことねえとか歌ってたし、あり得るんじゃないか……
どうしよう……そこはしっかり確認したい………けどどのタイミングで聞けばいいんだ…自分からこの話題に触れるのは恥ずかしすぎて死ぬ……どうしよう………もおおおおおおおおおおお何してくれとんじゃ白石の馬鹿ぁああああああああああああああああ

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そして気付いたら文化祭当日である。オワタ。
氷帝御一行は二日目に来るらしい。
若干不安だったカフェだが、思いのほか大盛況だ。
白石と謙也くんはともかくあたしまで写真を求められ大忙しだ。

「猫宮先輩めっちゃかっこええええええ写真撮ってくださいいいいいい」
「わーありがとね、いいよー」

白石の告白を忘れてしまうくらいの忙しさが少し有難かった。このまま何も無かったことにならないかなあなんて都合のいいことを考えては、そういうわけにもいかないよなと一人で落ち込む。

「あー居った居った理久先ぱ……」
「お、財前。いらっしゃい」
「………」
「何だよ」
「ちょっとだけときめいた」
「財前!?お前本当に財前か!!?どうした!!?」
「先輩似合いすぎやろ意味分からへん」
「お客様〜連写はお止めくださ〜い」

あたしに向けるスマートフォンのカメラを遮るように手で覆ってやる。

「あー今のええですね、今日のブログ楽しみやわ」
「撮影料よこせ?」
「後で部長と謙也さんとの写真もお願いしますね」
「人の話聞け?」

財前は満足そうにスマートフォンをポケットに仕舞い、あたしをまじまじと見る。つま先から頭のてっぺんまで。

「財前が着てるとこも見たいなー」
「俺このクラスちゃうし」
「財前とこは何やってんの?」
「お化け屋敷」
「定番だねぇ」
「入ります?」
「絶対嫌」
「………苦手なんすか?」
「怖い話聞くのはすごい好きだけど自分が体験するのは嫌。お化け屋敷なんて何でわざわざ驚かされにいかなきゃならんのだ」
「これは是非とも招待せなアカンな」
「しなくていいわ!!」

すると財前はあたしが被っていた制帽を奪うとすかさず自分で被った。
キュ、と制帽の位置を確認してあたしと目を合わせると不敵に笑う。
正直クソかっこよすぎて、周りから悲鳴が上がった。分かるあたしも悲鳴上げたいくらいだ。ちくしょう。

そうして人のクラスをかき乱した彼は制帽をあたしの頭に戻し手をヒラヒラ振って去っていったのだった。あの野郎分かってやがる……とんでもねえ後輩だ……