39余波と胃痛

文化祭騒動があってからというもの、当然自分の周りは穏やかではなくて。
いや、いつものメンバーは穏やかだがそれ以外の外野が大変騒がしいのだ。

今現在、あたしは裏庭に居る。要は呼び出しだ。
何故一度別れたお前がまた白石と付き合うのか、どんな手を使ったのか、というか別れろよ、みたいな。
もう何度目だろうか、この呼び出しは。
目の前の、中学生にしては化粧の濃い女の子が腕を組みながら何か文句をつらつらと述べている。その後ろには彼女と同じように険しい顔をしている女子が4人程……呼び出してくるのはこのグループと、あと2グループ程がいる。
咲良をイジメていた人達は自分達が弱味を握られているのを分かっていてか、何もしてこなかった。
もういい加減疲れたし、学校でのゲームの時間めっちゃ削られるし。
止まることなく浴びせられる罵詈雑言にヘェヘェと相槌を適当に打ち、今日も彼女達が捨て台詞を吐きながら去っていくのを見届ける。

いつまで続くんですかねこれ。

まあ物理的なイジメは無いにしろ、こうして呼び出されていることを白石は知っている。バレてないと思ってるのは呼び出しをする彼女達だけなのだ。
呼び出される度に白石には「俺から言うか?」と言われるのだけどそれはやめていただきたい。彼氏に守られる程乙女ではないからだ。
そんなことをされた日には自分の不甲斐なさに引きこもりになりそうだ。素直に白石にそう告げると深い深い溜息をつかれ、デコピンをされた。
お前は男なんだから、少し力加減をしてほしいものだとその時は額を押さえながら唸った。

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「まだ続いとるん?呼び出し」
「続いてるよーヘェヘェって言いながら聞いてる」
「緊張感の欠片もないな」
「いやもう毎回言うこと同じだからね、さすがに飽きるよね」
「罵倒されるのが飽きるって何やねん」

その日の昼休みは白石、謙也くん、咲良、千昭と一緒に机をくっつけてご飯を食べている。
あたしは大変早食いであるため一足先に食べ終わり、最近の話題である呼び出しについて白石に聞かれていた。

「けど、理久大丈夫なの?他に変なこととかされてない?」

不安気にそう尋ねる咲良に、笑って首を横に振る。

「何もない。大丈夫大丈夫。あるとしたら後輩からの呼び出しがこないだあったよ」
「!?何それ聞いてへん」

白石達は驚いたように目を見開いた。

「白石先輩のどこが良かったんですか!?何で付き合ったんですか!?今すぐ別れて猫宮先輩ウチと付き合ってください!!…って」
「「「そっちかーい!!!!」」」

見事に白石達は典型的なツッコミを入れてくれた。実際あたしもした。

「え、ちなみに女の子…?」
「そう」

マジか、と咲良は半笑い。
げらげらと笑う謙也くんを鬱陶しそうに千昭は見ている。
そんな話をしていると、机に置いていたスマートフォンが震えた。
このバイブは多分LINEだろう、誰からのメッセージか確認するために画面を開くと、向日からだった。

≫こないだの文化祭の猫宮の写真、立海の切原に送ってもいいか?

何でだよ。

眉間に皺を寄せスマートフォンと睨めっこしていると、どうしたと白石に声をかけられた。

「いや、向日くんが、こないだの文化祭の写真を立海の赤也くんに送っていいかって」
「何で急に切原クンやねん」
「わからん。別に悪いことはないけどなあ」

≫いいけど、急にどうした?
≫今日の午後立海と合同練習なんだけどよ、日吉が四天宝寺の文化祭行ったこと話したら切原が写真くれってしつこいらしくてなー
一応お前の許可取ってからっつーことで、日吉に聞いてくれって頼まれた!
≫日吉くん偉いな。送っても大丈夫だよ。代わりに今すぐ赤也くんの写真くれ交換条件だって言って
≫え、切原の写真なんてどうすんだよお前……
≫会ってないから見てみたいの!何だその「変態…」みたいな雰囲気は!
≫俺の考えてることよく分かったな…こわ……
≫お前次会った時覚えとけよ
≫忘れたー!

向日、次会う時はお前の命日だ覚えておけよ。
ギリリと歯を噛み締めていると早速写真が送られてきた。………?ん?全員…あれ?

「あれ?何で引退してるはずの3年が居るんだ?」

無意識に零れた一言に白石が反応した。

「どないした?」
「いや、今日午後から氷帝と立海が合同練習するらしくて、赤也くんの写真くれっていったら立海全員集合写真が送られてきた。何で?」
「どういうこっちゃ」

二人でスマートフォンを覗き込みながら再び向日にメッセージを送る。

≫何で立海3年居るの?引退は?
≫いやなんか、幸村達もやりてえって言ったらしくてこうなった。ちなみに俺ら氷帝も3年全員参加だぜ

「ええー……」
「羨ましいわー……俺もテニスしに行きたい…」
「今から新幹線乗ったら間に合うよ」
「アホ言うな」
「いてっ」

行けるわけないやろ、と頭を叩かれた。

「立海ってどんな人達が居るの?」

咲良が見たい見たいと言うので画面を見せると何故かピシリと固まる。

「……咲良…?」
「……………この人、誰…?」

恐る恐るといった感じに咲良が指をさしたのは、ゴリラこと真田だった。
やばい、思い出したぞ、前の世界じゃ咲良は重度の真田厨だった。おいまさか

「……かっこいい…………」

目を輝かせるその表情はまさしく恋する乙女だ。嘘だろ……まさかここで真田厨が目覚めるとは誰が予想できただろうか。え待って待って、白石好きだったのに?白石からの真田?ジャンル違い過ぎない?

「理久今すぐこの人の連絡先ゲットして」
「ねえ咲良?この人?本当にこの人?隣の人じゃなくて?」

真田の隣には幸村がいる。幸村を指さそうとして間違えて真田になったんじゃなくて?

「違う、帽子の人だよ」

真田だーーーーー帽子って言ったらもう真田しかいないーーーーーー
連絡先を聞いてくれと頼んでくる咲良の目はマジだった。隣に居た白石も唾を飲み込んでしまう程に。

「いやちょっと待って待って……急に聞くのおかしくない?ていうか真田くん絶対LINEとか苦手そうだよ……いやそれより連絡先って…いやいやいや無理無理無理…」
「お願い!今逃したら後がない気がする!!」
「いや待てよ、来年高校で咲良がテニス部マネやったら会える可能性出てくるんじゃない?」
「無理あたし陸上部入るから」
「ブレない…」

お願いお願いと騒ぐ咲良に、少し時間をくれと告げると、いい返事を期待していると言わんばかりに「頼んだ」と言われた。おっかない。
この日から毎日学校へ行く度咲良にまだかまだかと聞かれるようになる。呼び出しを食らうより頭を抱える事案が増えてしまったことに、自分の行動がいかに浅はかだったかを呪わずにはいられなかった。最高に胃が痛い。
こればっかりは助けられないと白石と謙也くんいも見放された。なんてこった。

向日や幸村達には相談しない。絶対面白がるから。