柳がどう取り計らったのかは分からないが、咲良は真田と地道に連絡を取っているようだった。柳マジック凄すぎる。あの真田だよ?絶対無理だと思ってたわ。
そして咲良は嬉々として逐一内容を教えてくる。まあ面白いからいいんだけどもね…ごめんな真田お前のメッセージ内容筒抜けだぜ!
それはそれとして、未だ続く呼び出しにどうしたもんかと考えていたところ、あまりにもあたしに改善の余地が見られないと思った(今更)らしく、物が隠され始めた。
教科書やらペンやら上履きやら。
お前ら白石にバレたくないんじゃないんか、そんなことしたら普通に誰だって気付くだろ。頭悪すぎかよ。
幸い隠された物は割とすぐ見つかったというか、クラスの皆が至る所で見つけてきてくれた。意図的に探したとかじゃなく、「これ猫宮さんのじゃない?」って。有難いし、すぐ見つかるような所に隠すなよとも思う。下手くそか。
「理久、やっぱり俺から言うたほうがよくないか」
「いやいらんやめろ、別にあたしは無傷だ」
「鋼の心過ぎる…」
隣の席で心配そうにする白石に手を出すなと伝えるのはこれで何度目だろうか。
いやいや心配してくれるのは嬉しい。けど無理、王道とか無理。いたたまれなくなるから無理。
「まあ隠された物はこうやって戻ってくるわけだしさ、いいからいいから」
「そう言うたってなぁ……」
「せやで理久、少しは白石頼ってやれや。こいつ見かけによらず落ち込んどるんやで」
「謙也、余計な事言わんでええねん」
白石に睨まれた謙也くんはバツが悪そうに目を逸らす。落ち込んでるの?ごめんウケる
「なんとかなるって〜〜〜〜」
あっけらかんとそう答えれば、白石も謙也くんも「だめだこいつ」と言わんばかりに溜息をついた。最近お前ら溜息多いぞ、幸せ逃げるんだぞ。
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ある日の昼休み。
ご飯を食べ終えると、白石と謙也くんは自販機へ行くと教室を出て行った。
咲良と千昭が雑談をする中あたしはゲームに夢中になっている。
この曲、最近やっと一番難しい譜面でコンボを繋げられるようになってきたのだ。今日こそはフルコン頑張るぜと咲良達に意気込みイヤホンを片耳にはめ曲をプレイする。
あーいっつもここで失敗するんだよなあ……くそうもっかいだもっかい。
残り少ないHPを使いスタートボタンをタップする。
すると、いつもミスをする場面でミスをしなかった。ここを過ぎれば後は今までミスはしたことがない。これはやばいいけるぞ、と緊張のあまり手に汗が滲んでいたその時だった。
「猫宮さん」
ふと頭上から声がした。これあれだ、あたしを呼び出す人達だわ。悪いな今それどころじゃないんだよ後にしてくれ。
慣れた曲であればゲームをしながら会話ができたりもするが今回は無理。声を出すことすらできない。
ていうか見て分かんだろ今忙しいんだよ。
とりあえずこれが終わってから返事をしようとゲームに集中する。やばいいけるこれフルコンいけるいけるいけるもう少し………!!
「無視すんなや!」
彼女はそう言うと、耳にはめていたあたしのイヤホンを引っ張った。
そのおかげで最後のノーツをミスり、当然ながらフルコンを逃してしまったのだ。
怒りが一気に込み上げ叫びそうになるのを堪える。待て待て待て……今ここで騒いだら色々面倒だ……つうかクソが!!ふざけんななんでよりによって今なの!!?!?お前は空気の読めないメルマガか!!?!?何で今なんだよもう少し時間ずらしてこいやクソが!!!!
怒りで全身が熱くなる。ふー……と息を吐き必死に自分に落ち着けと心の中で呟いた。
「話あんねん、はよ来て」
それが人に物を頼む態度か。毎回毎回何でお前らにあたしの休み時間をくれてやらなきゃならないんだ。
あたしが言い返さないのをいいことに毎日毎日飽きもせずこのやろう。
呼び出される度思っていたことだったが、考えたところで……と思っていたので別にいいんだけど。いいんだけど、今回はちょっと違うよね。ね?
え?何?死にたいの?何?いやホント、ふざけんな?お前これここまでコンボ繋げるのどれだけ時間かかったと思ってんだ?あたしめっちゃゲーム上手いわけじゃないからひたすら数こなしてくしかないわけよ。たくさん数こなして今ついにコンボ途切れることなくいきそうだったのに?お前のせいで?あ?
気付いたら、座ったまま思い切り自分の机を蹴り上げていた。
ガッターンと大きな音を立て前の席の椅子にぶつかりながら机が倒れる。そこに丁度良く白石と謙也くんが帰ってきてしまった。
イヤホンをスマホから外しポケットにしまうと椅子から立ち上がる。
もう頭にきすぎてきっと顔に表情は無いだろう。睨んでやることすらむかつく。
何か言ってやろうかとじっと彼女らを見やるが、いくら彼女らの顔を見ても言葉は浮かんでこなかったので押しのけるようにドアへと向かった。
呪詛でも吐いてやればよかっただろうか。マジでお前ら地獄見せてえ。
ドア付近で今の出来事を驚いたように見ていた白石と謙也くんに午後サボりますと一言告げ、教室を後にした。
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「ってことがあってね〜我慢したあたし偉くな〜い?本気で殺したかった」
「女の子が殺すとか言っちゃいかんばい」
「まあもういいけどね!千歳に欲しかったカード引いてもらったし、結果的にフルコン決めれたし」
「理久が来た時は般若が来たんか思った」
「そんな酷い顔してた?」
「しよった」
「恥ずかしい」
へへへと笑うと千歳も呆れたように笑った。
「六時間目出ようかな」
「おー、いっちきない」
「千歳はサボり癖もう少し治したほうがいいよ」
「……努力するけんね」
午後まるまるサボる気でいたが、千歳のおかげで気分が晴れたので最後の授業には出ることにする。まあそれまではまだ時間があるので千歳を他愛のないお喋りをしてからだが。
あー………ていうか机蹴り飛ばしたままだった……大丈夫かな…
「あ゛ッ……痣できてる」
「どげんしたと?」
「さっき思わず膝で机蹴り上げじゃってさあ……多分その痣?」
「………」
「千歳引かないで、千歳に引かれるとさすがに傷つく」
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結論から言うと、あの日以来呼び出されることは無くなったし物を隠されることも無くなった。
そしてどこからどう広まったのかは分からないが、『ゲーム中の猫宮に話しかけてはならない』という暗黙のルールができたらしい。
これは財前から聞いた。
あの時のあたしの顔が殺人鬼みたいだったんだってよ。それうちのクラスの人達が言ったってことでしょ?だって見てたのクラスの人達だけだったもんね。
誰だよ出てこいちくしょう