どれだけ抵抗したとて季節は過ぎていく。
気が付けば卒業間近で、別れが近づく先輩後輩、もしくは友人。残りの時間を惜しむように思い出作りに勤しんでいた。
いつものメンバーは無事高校へ合格し、春から同じ高校へ通う。代わり映えしないがそれよりも安心感が勝った。よかったあああああ
財前には「理久先輩だけ落ちとったらおもろかったのに」とつまんなそうな顔で言われたが気にしない。肩にグーパンしたらめっちゃ倍返しされたけど気にしないもんね。
受験もひと段落したので放課後に白石謙也くん財前と共に近くのファミレスへやって来た。
頼んだ食べ物を待つ間、合格祝いということで財前からはピアスを貰った。
あまりにびっくりして頭でも打ったのと心配したが、机の下で足を踏みつけられた。おい痛いぞ
「別に高いもんちゃいますよ」
「白石……あの財前が………あの財前がおかしくなったよ……」
「ちゅーか待て!俺には何もないんか!元部長やった俺には何もないんか!?」
「それ言うたら俺もや!いっちゃん財前の面倒見てやったの俺やろ!」
不服申し立てをしたのは白石と謙也くん。まあそりゃそうだ……何であたしだけ
「一応理久先輩女の子やし。先輩らはええやん別に。来年俺も同じ高校行くんでまた一緒にテニスできますねこれでええでしょ」
「「なんもよくない」」
「財前中見ていい?」
「………どうぞ」
財前は恥ずかしいのか、頬杖をついてそっぽを向いてしまう。可愛いとこあるじゃねーの。
ガサガサと、小さな包みを開ければシンプルな白い箱。恐る恐る開けてみると、これまたシンプルな星のピアスだった。うっわあああああああめっちゃ好みなんだけどやべえ
「財前センス良過ぎかよ………ありがとう……これ毎日つけるわ…」
「おい白石!少しは抵抗したらどうや!彼氏以外の奴にアクセサリーもろてんで!?」
「いやまあ財前やし……あとそれ理久に似合いそうやな」
「この彼氏クソやな!」
「彼女居らんやつに言われたないわ!」
ぎゃんぎゃん騒ぐ二人を尻目に、目の前に座る財前に改めてお礼を言う。
すると財前は居心地悪そうに「どういたしまして」と呟いた。
「でも何で急に」
「……まあ………世話になったし。あとこれからまたライブ行く時の為に媚び売っとこ思って」
「ちくしょう売られてしまった任せろ」
「期待しとりますわ」
フッと笑う財前に、さんきゅーとあたしも大きく笑った。
そして未だに隣で言い争う白石達に一喝したところで、ようやく注文した物が運ばれてきた。
****
まだまだ肌寒い日が続くこの日。
僅かな緊張に腹がキリキリと痛むが、待ち遠しくもあった。
卒業式。
あたし達三年生にとっては最後の一大イベントだ。
卒業生は下級生の手によって胸に花のブローチをつけてもらう。あー卒業なんだなと実感すると、少し寂しくもあった。
予行練習の通り順調に進む式の最中、あの運命の日から今日までのことに思いを巡らせる。
いやあ色んなことがありましたなあ……そうだよ、忘れがちだけどここテニプリの世界なんだぜ。そんな世界で今中学校卒業すんだぜ、すごくね?
テニプリの世界で卒業式って何?もう意味分かんない。
というか二度目の中学校卒業なわけで。すごいよな、三年生の途中からだけど中学校を二回経験するなんてさあ……しかもあの白石達と。世の中何が起こるか分からないとはよく言うけどこんなの誰が予想していただろうね。
ましてや白石と付き合うなんてさあ………未だに夢じゃないかと思う時がある。
「理久」
「おー………これはまたすっからかんだね」
式が無事に終わり、下級生に見送られる中名前を呼ばれ振り返ると、見事に学ランのボタンを全て取られた白石と謙也くんが居た。もう本当に見事である。というかやっぱり謙也くんもちゃんとモテるんだねよかった
「ボタンもろて何が嬉しいんやろ……」
疲れた表情の白石がだるそうに正面からのしかかってくる。いや重いぜ白石……
「憧れの人の物は欲しいもんなのよ」
「そういうもんなんかなぁ……」
すると白石は、あっと声を上げ体を離す。
後ろに居た謙也くんに声をかけると、謙也くんもああと言って近づいてきた。
「何?どうした」
首を傾げ二人を見つめていると、手を出せと言われ手のひらを上にして差し出した。飴でもくれるのかなーなんて期待する。そして二人はあたしの手のひらにそれぞれボタンを落とした。
「……おおおおお!?何!?飴じゃなかった!!」
「俺らの第二ボタン、理久の為に取っておいたんやで」
「ちゃんと名前も書いといたから間違わへんで!」
そう言われてよくよく見ると、"蔵ノ介"、"謙也"とそれぞれ書かれていた。笑う。
「何であたしにくれんの」
何かとてもおかしくて、どういうことー、と笑いながら問いかけると二人は嬉しそうに笑って
「「大事な仲間やからな!」」
その言葉がどれだけ嬉しかったか。友達なのは当たり前だが、テニス部にすら所属していなかったあたしが彼らにとって仲間と呼んでくれる存在になっていたことが、死ぬほど嬉しかった。
本当に色んなことがあった。たくさんあった。こんなに仲良くなれるとは思わなかった。
仲良くなれなくたってここはあたしが憧れた世界で、憧れのキャラクター達が実際生きていて、もうそれだけで充分だったのに。
きっとあたしが現れたことで静かだった水面は大いにかき乱されたことだろう。
それでも白石は一番の理解者として側に居てくれて、謙也くんが向けてくれる笑顔に癒されて。
財前だって何だかんだ言いつつあたしの味方だと言ってくれて。
感謝してもしきれない。
ああもしかして、財前からもらったピアスはこういう意味もあったのかな。
そう思ったら涙が出てきた。
「おい白石!!理久が泣いとる!!」
「謙也からのボタンいらんかったんちゃう?」
「泣くほど!?嘘やん!!!」
いつも通りな二人の会話に今度は笑いが込み上げてきて思わず吹き出してしまう。
泣きながら笑うという傍から見たら気が狂ったんじゃないかという光景に、白石も謙也くんもオロオロと狼狽していた。
「二人ともありがとなばかやろー!!」
「えー今度は急に叫び出した……どうなっとんねんお前の彼女大丈夫か」
「ようわからんけどまあ喜んどるし結果オーライちゃう?」
そんなことをしていると遠くから名前を呼ばれた。咲良と千昭だった。
このメンバーで写真を撮ろうと言って、丁度良く近くに居た財前にスマートフォンを渡し何枚か写真を撮ってもらう。
その後に財前の元へ行くと、先日貰ったピアスを見せびらかした。
「ねえ財前!似合う!?似合う!?今日から解禁した!!」
「あーハイハイ似合っとりますよ」
「見てないじゃん!!」
「財前照れとるだけやんなー?」
「なー?」
白石と謙也くんがにやにやとしながら財前を茶化すと、財前は大きな舌打ちをして二人を睨みつける。睨まれた二人はこわーいと言いながら笑っていた。あいつらうざいな…
「ねえ財前、これ仲間って意味もあったりする?」
顔色を窺いながらそう問いかけると、財前は少し驚いたように目を見開き、照れた様子で首をかいた。
「……………まあ…」
「白石!!謙也くん!!財前がデレたぜ!!!!!」
「やっぱそれ返してもらいますわ耳ごと削ぎ落しますね」
「すいませんっした!!!!!!」
卒業式には似つかわしくない程の騒がしさだが、とても心地がいい。確かにもうここで学ぶことはないんだと思うと寂しくも感じる。
けど皆一緒だから、そんな寂しさもすぐ消えてしまうだろう。それはそれで残念だけどね。
「理久ー」
白石に呼ばれ彼の元へ駆け寄ると手を握られた。ん?
「帰るで」
「おっけ」
「なあ理久」
「何?」
「これからもよろしくな」
「もちろんでしょ」
「死ぬまでよろしくな?」
「それどう受け取ったらいいか分かんないんだけど…」
「そのままの意味や」
「………仕方ないよろしくしてやろう」
あたしの言葉に白石は笑った。握られた手の力が強まり、白石はあたしの手ごとブンブンと前後に振る。腕もげる。
大変嬉しそうな白石を尻目にまだまだ冷たい風に少しだけ顔を顰めたのだった。