02秘めたる独占欲

春。
寝てしまいそうな程の柔らかな日差しにぐらりとくる。きっとあたしだけではないだろう。この季節は仕方ないのだ。

うちの学校は男子は学ラン、女子は紺のブレザーに斜めストライプ柄の赤ネクタイ。だから男子達は何も変わり映えしない。まあ白石とか謙也くんは学ランで見慣れてしまっていて今更ブレザーとか見慣れない…いや似合うんだろうけど!ちょっと想像つかないというか
財前はブレザー似合いそうだよね。
今日から高校二年生なわけで、クラス替えの紙が貼られている掲示板へ行くと既に生徒でごった返していた。うーわこれ見れんのかな……
つま先立ちをしながら掲示板を窺うが、見えません。くそう……お前ら見終わったんならはよどいてくれや……
すると、あたしの前に居た人達が退くために動いた。それはいいが、こちらはつま先立ちだったものでぶつかられたおかげでバランスを崩し真後ろにふらつく。

あ、やべ

「セーフ、」

後ろに倒れる、と思った瞬間そんな声と共に誰かに受け止められた。
驚いて後ろを振り向くと、困り顔の白石が居た。

「理久あぶな」
「助かった……頭打って死ぬ運命かと…」
「縁起でもないこと言うなアホ」
「すまん……おはよう」
「おはようさん」
「俺も居るで!!」
「おうおはよう謙也くん寝癖すごいね」
「それは言うな……!!」

ぴょこぴょこと跳ねる寝癖に目がいくのは仕方ないと思う。
そんなことをしていると、咲良達が人の群れから這い出てきた。

「咲良!千昭!居たのか!!おはよう!」
「理久おはよー……内臓出るかと思った…」
「すごい人やったもんな…めっちゃぎゅうぎゅうやったで…」

朝から疲れ気味の二人の背中を撫でてやる。

「あ!うちら同じクラスやで!ついでに白石くんと忍足くんも!」
「「ついでに」」
「やったー!!去年離れてたからね……よかった…ついでに白石と謙也くんも」
「「ついでって」」

皆同じクラスとは。何たる幸運。
去年は咲良と千昭、あたしはそれぞれバラバラのクラスになってしまい大変寂しい思いをした。お弁当は一緒だったけどやっぱりクラスが違うと色々と不便なことが多かったのだ。
神様に感謝をしながら教室へと向かう。
苦難が待ち受けているとも知らずに。

****

あれから無事財前はテニス部に入り、昼はテニス部の皆で集まっているらしい。
あたしは咲良と千昭と教室でのんびりお弁当をつついている。
休み時間に食べていた飴の破片で舌の先端を切ったせいでおかずが沁みる。たまに飴って凶器だよなあ……

「でね、真田くんがね」
「うんうん」

お昼は決まって咲良の惚気だ。別に嫌ではない。むしろ面白い。
千昭ですら面白がって興味津々に聞いている。写真ですら伝わるあの堅物な真田との惚気だよ?面白くないはずがない。
お弁当を食べ終わり、まだ時間があるからと三人で自販機に向かった。
プラプラと歩いていると、自販機のそばに見知った人影を見つける。

「あ、理久先輩」
「よぉ」
「もう少し女の子らしい挨拶できへんのですか」
「ちゃーっす!」
「あんたの中の女の子像どうなっとんねん」

この財前の辛辣さ、大変安心感がある。そんなあたしは少しMなのかもしれない。

「白石達は?」
「今から来ますよ」
「ふーん………おしるこ飲むのあんた…」

ふと、財前の手に握られているおしるこの缶を凝視する。うげえ……甘そう…

「飲みます?」
「いらね……」

目を細め首を横に振りながら、自販機にお金を入れると緑茶のボタンを押した。
ガコン、と音を立て落ちてきた冷たいそれを手に取りキャップを開ける。

「いっつも思っとったけど、先輩緑茶か水しか飲んでなくないっすか」
「ジュース甘くて飽きるんだよね……コーヒーは苦くて飲めないし」
「コーヒー飲めへんの?子供やん」
「おしるこ飲んでる奴に言われたくねーなァ!?」
「こんなとこで喧嘩すなー」

そう言って割り込んできたのは白石だ。喧嘩じゃないし、喧嘩だとしても財前が悪いからな!喧嘩売ってきた財前が!悪い!
白石の後ろで財前が舌を出している。おいお前仮にも先輩だぞ。くそ、何が辛辣さに安心感があるださっきの自分を殴ってやりたい。苛立ちしかねぇわ!
白石を押しのけて財前に文句をつければ、奴は耳を塞いで知らんぷりをしやがる。そうだなお前はそういう奴だったよ……!!

「理久と財前は相変わらずやなー」

謙也の言葉に白石は頷く。
理久と財前の言い争いを見守っていると、近くの会話が白石の耳に入った。

「猫宮さんや」
「かわええよなー……にしてもホンマに白石と付き合っとるんか…?」
「まあ仲ええけど、友達ってだけにも見えるよな」
「なー……もしかしてただの噂なんちゃう?ホンマは付き合ってへんかったりして」
「俺にもチャンスあるんかな」
「試しに告ってみぃや」

三人程の小さな会話。
それは謙也も聞こえていたようで、恐る恐る白石を見ると、若干目が怒っている。
なんと命知らずな会話をしているんだと元凶に言ってやりたかったが、触らぬ神に祟りなし。謙也は口をつぐんだ。
すると、理久が一瞬顔を顰めた。白石と謙也、財前は不思議に思い首を傾げる。

「どないした?」

白石が声をかけると、理久は顔を顰めたまま舌を出す。
その舌の先は少し赤くなっているようだった。

「休み時間に飴の破片で切ったところが痛い」
「だっさ!」
「財前おだまり!!」

僅かに白石が微笑んだ。これは何か企んでいる時の顔だと謙也は知っている。
何をする気だと隣から警戒するように窺う謙也に、白石はにやりと笑う。

「理久、もっかい見せてみ」
「んえー……いってぇ………血出てる?」

何の警戒心もなく舌を出す理久の顎を掴み、一瞬、あの会話をしていた三人に視線をやる。目が合った彼らはびくりと体を硬直させると、それを見た白石は嘲笑うかのように小さく笑って、無防備に差し出される理久の舌をぢゅるりと吸った。自分の舌も添えながらねっとりとその小さい舌に吸い付いたのだ。

その場が凍り付いたのは当然だろう。
ひそひそ話をしていた三人は唖然とし、それ以外にも少なからず居た生徒も同様唖然としていた。誰もが白石と理久に釘付けである。
目をかっぴらいて固まる謙也に、滅多にお目にかかれないであろう驚きまくっている財前。
咲良と千昭は黄色い声を上げていた。さすが女子である。

白石は、吸い付いた理久の舌を自分の舌で押し戻し軽い口付けをして離れた。

「舐めといたからすぐ治るで、多分」

にっこりと微笑む白石に、理久は徐々に顔を赤くしていく。

「おま………!!!!?!?!?」
「昼そろそろ終わるんちゃう?戻るでー」
「バカ白石!!!!!」

そう叫ぶ理久に白石は大いに笑った。