03刺客登場

朝は時間が無かったので午前中の休み時間に財前の教室へと走る。
なんとしても直接伝えたかったのだ、ライブのチケットが当たったことを。
あたしの卒業祝いに彼はピアスをプレゼントしてくれたので、そのお返しに何が欲しいか尋ねたところ、ライブのチケットと答えた。もともとそのライブはあたしも行く予定だったので彼の分も申し込んだのだ。そして当たった。最高。
LINEで昨日の内に伝えてもよかったのだが、直接伝えて奴の喜ぶ顔を拝んでやろうと思い意気揚々と一年の教室へと向かう。

さあ開けるぞとドアに手をかけようとしたところ、あたしが開けるよりも早く誰かがドアを開けた。
あまりの勢いにびっくりして体を硬直させていると、ドアを開けた犯人は財前だった。
財前は何故か焦ったような苛立っているような顔をしていて、あたしを見るなりどこかホッとした表情をする。

「びっくりした………どうしたの財前…」
「理久先輩丁度ええとこにきましたね先輩の教室行きましょう」
「は?何で?」
「ええから行くで」

雑に腕を掴まれ来た道を戻る。
横目で見た財前の表情は少し余裕が無さそうで、何があったのか気になるところだ。
あたしの教室につくなり一緒に中へ入ってあたしの席に座り項垂れる財前を、白石も謙也くんも咲良も千昭も不思議そうに見ていた。

「え?理久、財前どないした」

白石にそう問いかけられるもあたしだって分からない。

「分かんない……とりあえず引っ張られてきたんだけど………」

あたしの椅子は財前に取られているので座るところがないあたしを白石は手招きし、自分の膝の上に座らせた。いややめろバカップルかよ。
すぐさま白石の膝を下り、突っ伏す財前の側に行くとしゃがみ込んで様子を窺う。まあ突っ伏してるから顔なんて見えないのだけど。

「財前どうした?」

そう聞くとちらりと顔を上げてこちらを見下す。
マジでどうした?すごく複雑そうな顔ですけど。

「……今日転校生来た」
「え?中途半端な時期に来ましたね」

もうすぐ五月に入ろうとしているが、まだ財前が入学してから一か月経っていない。変な時期に転校生なんか来たもんだなと不思議に思った。

「その転校生女で、俺の隣の席に来たんやけど、めっっっっっっっっちゃ鬱陶しいんすよ……何でか俺がテニス部やって知ってるし何かと話しかけてくるし…反対側の隣女子なんやからそっちに話しかけたらええのに何で俺ばっかやねん……もう明らかに男にしか興味ないみたいな雰囲気やし、テニス部のマネージャーやりたいとか言い始めたからシカトして逃げようとしたところに丁度理久先輩来て助かりましたわー…」

んん……んんんんんん………!!!?!?
……………これは…………………これは………!!!?!?
このよく知っている展開はまさか………!!!?!!?今!!?今なの!!?すっかり平和ボケしてて頭から抜けていたよ!!!!!
もしかしてもしかしなくともトリップ第二弾来たんか!!??!?しかも年下かーーーーーーーい!!!!
なんてこった……まさかマジでこんな日が来るとは………うおおおおお同じクラスとかじゃなくてよかったあああああああ
財前には悪いけど!!良かった!!

「ど…どんな子?可愛い系…?」
「まあかわええ方やろうけど俺は無理。男好きが滲み出とって気色悪い」
「あそう……」

立ち上がって財前の背中をさすってやる。
さすりながら白石達を見ると、何とも言えない表情をしていた。うん……これは手助けしづらい………うちらにはどうにもできん…

「あ!!財前!!ライブチケット当たったよ!!だから元気出して!!」
「ええことと悪いこと同時に起こるとか俺どうしたらええん……教室戻りたないわ…」
「泣くな財前〜」
「泣いてへんわ」

****

渋々戻っていった財前を見送り空いた自分の席に座ると、財前くん大変だねと咲良が呟いた。

「ねー……可哀想に…ていうかテニス部のマネージャーやりたいらしいけど、白石どうすんの」
「財前の話聞く限りじゃお断りやな」
「まあもし来た時どうするんか今の部長次第やけど……なんや嫌な予感しかせえへんわ」

苦笑いを浮かべそう言う謙也くんに同感だ。多分、マネージャーになるんじゃないかな……白石が部長ならまだしも、今はまだ三年が仕切ってるから何も言えないだろう。
テニス部大変だな。

「せやからはよ理久がマネージャーやってくれればええだけの話なんやて」
「そうやで!?今すぐ入部届書こ!!?」

いつからあったのか、謙也くんが自分の机から真新しい入部届の紙を出してくる。ほらここに!書いて!と押し付けられるも丁重にお断りをした。

「バイトがあるので無理でーす」
「バイトバイトって……!!バイトとテニス部どっちが大事なん!?」
「バイトwwwwwww」
「めっちゃ腹立つ!!!」

即答して謙也くんを一蹴する。金稼ぐほうが大事ですすいません。まあ白石とバイトって言われたら白石だったろうけどね。
というか、この件白石には相談しておいたほうが良さそうだなぁ。まだ確信したわけじゃないけど…

****

白石と謙也は部活へ向かうべく教室を後にする。
すると廊下の先に財前が壁に寄りかかり立っていた。

「何しとんねん財前」

謙也が声をかけるなり怖い顔をして舌打ちをした。白石も謙也も何となく察しがついて、ああ……と頷いてしまった。

「部活について来ようとしたんで逃げてきました」
「マジか……その子にちゃんと断っとる?」
「断っとるも何もフルシカトしとりますよ。なのに何であんなめげへんねんますます気色悪いわ謙也さんに譲ります」
「俺かていらんわ!!」
「とりあえず部活行くでー」

言い争う謙也と財前の背中を白石が押し部室へと向かった。

****

「今日からマネージャーをさせていただきます照井芽衣子です…!経験は無いですが頑張ります!」

そんな紹介を受け部員の中に思い切り表情を引き攣らせた者がいた。言わずもがな白石謙也財前である。中でも財前の顔つきは酷いもので、地獄を見ているかのようだ。
確かに可愛い子だと白石は思った。だからだろう、他の部員が妙にデレデレしている。そして部長はこの可愛らしさに二つ返事で了承したのだとそう感じてしまった。後から聞けば実際そうだったらしい。
白石がちらりと財前を見れば今すぐにでも帰りそうな顔をしていて、どうしたもんかと心の中で溜息をつくと共に関係ない理久への怒りが込み上げる。あいつがマネージャーになっておけばこんなことには、と。
まあそれはただの八つ当たりになりかねないのでぐっと堪える。

ふと、視線を感じ顔を上げるとその彼女と目が合った。
目が合うと彼女はふわりと笑い、恥ずかしそうに視線を逸らす。いや、逸らすなら最初からこっちを見るなと白石は思った。
確固たる理由は無いが、これから面倒なことになるだろうと予感する。きっと謙也も同じことを思っているだろう、さっきから小さい溜息しか聞こえない。


始終機嫌の悪かった財前にハラハラしながらも無事部活は終わった。
部室は三年生、一・二年生で分かれており、人数もそこまで多くないので割とゆったり部室を使うことができる。三年生と仲が悪いわけではなく、むしろ仲良くやらせてもらっているのでそこも大変有難かった。
新しいマネージャーは三年生の部室に一緒に連れて行かれたらしく安堵する。

「最悪やホンマ最悪や何であの女が居んねん行動早過ぎやろ…」

ロッカーにもたれながらぶつぶつと文句を言う財前に苦笑した。

「まあ……まだ何かあったわけやないし、先輩らが可愛がってくれるやろ」
「俺教室行ってもあいつが居るんすよ?しかも席隣っすよ??死ねって??」
「落ち着け……財前落ち着け…」

いつもとは違った意味で財前が怖い。
こんな時に理久が居てくれたらどれだけ助かっただろうか……あのやろう…と白石は心の中で理久に八つ当たりをする。

「よっしゃ、帰り理久の店行くか」

そう言うと、財前がぴくりと反応する。
理久は気付いていないだろうが、財前は物凄く理久が好きだ。懐いているという言葉のほうがまだしっくりくるだろうか。いつも悪態ばかりだが一番頼りにしているのは理久だけなんじゃないかとさえ思えてくる。
恋愛的な意味ではなく、どちらかと言うと姉弟のような意味合いでだ。理久と財前がじゃれ合っていても何とも思わないのはそれがよく分かるから。むしろ見ていて微笑ましいくらいなのだ。
いつか財前が『理久先輩が姉やったらもっと楽しかったやろうなぁ』と溢していたのを覚えている。それを聞いた俺は謙也と二人で財前をいじり、返り討ちにされた。
まあそれはいいとして。

「財前も行くやろ?」

俺の問いかけに小さく頷く。
くしゃりと彼の頭を撫でてやり、帰り支度の手を速めた。