06二人、しでかす。

「白石先輩居ますか?」

休み時間、トイレに行くため教室を出ると、そこにはあのマネージャーが居た。
遠慮がちに聞いてくる姿を見ると、そこまで悪い印象はない。普通に可愛いTHE女の子って感じだ。
髪ふわっふわだなー……これは男共は放っておかないわ………

「ちょっと待ってね」

振り返って謙也くんと談笑している白石に声をかけた。

「白石ー!お客さん!」
「は?誰……」

白石は不思議そうな顔をして寄ってくると、あからさまに表情を硬くする。マネージャーを見た途端、だ。
ちらりと謙也くんに目をやる……と思ったらさっきまで居たとこに居ない。
!?と教室を見渡せばここから一番遠くの隅っこに居た。いやもう面白すぎて吹き出しちゃった。あいつ何してんだ腹よじれる
というかそんな場合ではない。あたしトイレ行きたいんだよ漏れる
白石も来たことだし、とトイレに向かおうとしたあたしの手を誰かが握った。

「……この手何白石…」
「まあええからええから」
「よくないんだよ…あたしトイレにだな……」
「照井さんどないした?」
「おーい白石おーーーーーい」

人を拘束しておきながら無視をする白石を脳内で殴った。
どうしたと問いかけられた照井さんは、あたしと白石を交互に見ては困惑した表情を浮かべる。

「えっと……部長が今日の部活ミーティングだけだって伝えておいてって言ってました」
「あ、そうなん?わかった、おおきにな」
「いえ………あの、二人って…」

じっ……とあたしを見つめてくる照井さんの言いたいことは分かった。これで分からない奴はいないかそうか。
ていうかマジでトイレ行きたい、本当に行きたい。

「俺の彼女やで」
「…一応」
「一応って何やねん!」

白石が笑顔でそう答えると、照井さんは一瞬眉を顰めたがすぐ笑顔になって初めましてと自己紹介をしてくれた。周りに花でも咲いてるんじゃないかという程の可愛らしい笑顔で、よろしくお願いしますと頭を下げる。

「猫宮理久です。いつもこのアホがお世話になってます」
「理久が酷い」
「いえ!むしろ私がお世話になってて……助けてもらってます!白石先輩すごく優しくて…」

白石を見てほんのり頬を染める彼女はどっからどうみても恋する乙女でした。マジか。もしや本命白石なのか。マジか。これあたし負けるパターンか……?やっべちょっと不安になってきた……なってきたんだけど今トイレ行きたすぎて上手く危機感を感じられない。
さーて白石はどんな顔してんのかなって思って横を向けばやけに具合悪そうな顔してた。何?吐きそうなの?どんだけこの子苦手なの?

「おい優しい白石先輩、そろそろ手離してくれないか。トイレ間に合わない」
「あ、俺もトイレ行く」
「男女で連れしょんなんて聞いたことないよ」
「今流行りやで」
「ダサすぎでしょ」

そんなやり取りを見て、照井さんはくすくすと笑っていた。笑い方まで可愛いって何だ理想の女の子かよ

「仲良いんですね」
「めっちゃええよ〜結婚するもんな」
「初耳〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「今初めて言うた」
「聞かなかったことにするわ」
「何で!?」

途端に、背中がゾワリとした。これが所謂殺気ってやつじゃないだろうか。まあ出所は分かっているので、気付かないフリをしてどうしたのと照井さんに声をかけた。

「いえ……羨ましいなあって」
「え?こんなムードもクソもないプロポーズが?やめといたほうがいいよ」
「軽く俺ディスるんやめてくれますか」
「…白石先輩と付き合えるなんて、羨ましいです」

ゾクゾクと背中に悪寒が走る。あー白石達が嫌がってるのってこういうことなのかなと、目だけで白石を見ると若干顔色が青い。毎日こんな悪寒に襲われているんだとしたら、本当お疲れ様である。そりゃ精神も摩耗するわな
羨ましいですと言った彼女の目は笑っていない。私に頂戴と、言われているような気がした。
ていうか

「トイレ!!!!!本当漏れるんだって!!!!!年甲斐もなく泣くよ!!?!?」
「あーハイハイ行こか。ほな照井さんおおきにな」

手を離してくれないのなら引っ張るまでだ。ちくしょうビクともしねえ!
白石が照井さんに声をかけた直後、やっと手を離されたので一目散にトイレへダッシュした。

****

「お邪魔しまーす」

土曜日の午後に白石と謙也くんと財前が(無理矢理)遊びにくることになって、謙也くんと財前は寄り道をしてから来るらしく先に白石が来た。二人には着いたら勝手に上がれとLINEを入れておく。

「うちは溜まり場じゃないんですけどね」
「何か遊びに来過ぎて理久の部屋落ち着く」
「それは確かに遊びに来過ぎですね少し控えようか」
「無理無理」

ジーンズにTシャツとラフな格好の白石はまた人のベッドにダイブした。ダイブするのがブームなの?人の部屋来るたびやってるけど

「あのさぁ」
「ん?」
「初めてマネージャーの子と話した時さ、悪寒というか…すごい寒気感じたんだけど、それは白石達もなの?」

そう聞くと、白石の表情は曇った。多分これはイエスだな。
ベッドに寝そべる白石の近くに腰を下ろして、どうなのと催促をする。

「せや。それなんよ……もう話す度背中がゾクゾクするもんやから疲れてしゃーない……」
「あー………それは大変な…」
「あの子と話しとる時の財前ホンマすごい顔やで。見せてやりたいわ」
「吹き出しそう」

確かに、と白石は小さく笑った。そしておもむろに起き上がって後ろからあたしを抱き締める。首筋に顔を埋めたかと思うとべろりと舐められ体がびくりと跳ねてしまった。

「何しとんじゃ……!」
「美味しそうやったからつい」
「一か月お触り禁止するよ」
「それは勘弁」

途端に体を離され、白石はベッドにごろんと仰向けに寝そべった。ちらと見れば目が合う。どうした?と目で問いかけられ、一人で勝手にうーんと唸りながら前を向く。
ちょっと、我儘なことを言ってもいいだろうか。女々しいことを言ってもいいだろうか。

「もし、あたしが消えたらどうする?」
「シャレにならん質問やめろ」
「いや万が一の話。元々ここはあたしの世界じゃないんだから、絶対は無いわけで。絶対一生このまま存在するなんて確証ないから。その時どうなるんだろうなって。…白石はどうするのかなって」
「どうもせんわ。理久は居なくならんし」
「じゃあ、もしマネージャーの子…照井さんが先にこの世界に来て、あたしが後から来たとしたらどうなってただろうね。こうして白石と一緒に居ることもなかったのかな」
「理久、そんな話するだけ時間の無駄やで」

きっと白石は苛立ってる。分かってる、こんな話白石を怒らせるだけだって。でもね、今聞いておかないと、どんどん不安になりそうなんだよ。どれだけあたしを好きでいてくれたとしても、白石の心は読めないから。もしかしたら自分のほうが好きなんじゃないかって不安になるんだよ。だからこうやって試すようなことをして、自分が傷つく日がきても小さな怪我で済むように予防線を張って。
うわ自分最低かよ

「……いやー…ごめん………ちょっとね……もしかしたら白石はいつかあの子になびいちゃうのかなって、思って。苦手だって言うけど何かのタイミングで仲良くなるかもしれない。もしそうなった時あたしいらなくなるのかなって……思いまして…」

ついに白石は声を発さなくなった。背中に感じる圧がすごい。すんげー怖い。

「あのマネージャーの子が来てから、つい最近まで物凄く平和で今の生活を当たり前に思ってたんだけどそういえばあたしは元々この世界の人間じゃなかったなって改めて思い知らされたというか………あたしが別世界の人間だって分かってるのは白石だけだから、やっぱりそういう要因もあって一緒に居てくれてるだけなんじゃないかって考えてきちゃっ…て……」

言い終わる前に背後から伸びてきた手でベッドに押し付けられる。
ぐっと肩を押し付ける手の力は強く、痛みに顔を顰めた。恐る恐る見上げた白石はめっちゃくちゃ怒ってて、初めて見る顔に喉がヒュッとなった。

「理久、笑えへん冗談やめろ」
「……ごめん…」
「次こんな話したらキレる」
「もう若干キレてらっしゃいます……」
「今の話、一言で言うと絶対ありえへんからな。何もかも。絶対俺は理久を手離したりせえへん、死んでも離さんわアホ」
「………すんません……」
「二度と、こんな話すんなよ、二度とやで。次は許さへん」
「…分かった、ごめん」

申し訳ないと目を伏せ謝ればおでこにキスをされた。
遠慮がちに白石を見れば今度は唇にキスを落とされる。その優しい唇に、無意識に安堵した。

「俺には理久だけなんや。理久以外いらん。以上」
「大変申し訳ありませんでした……」

怒った白石物凄く怖かった。二度と怒らせんとこ……誓うマジ誓う…
っていうかさ

「謙也くん達遅くね…?」

白石によって抱き起されてベッドの縁に座りながら首を傾げると、ゆっくりドアが開いた。
あまりにも静かに開くものだからポルターガイストかと思って思わず白石に飛びつく。
ドアを開けたのは、謙也くんだった。

「………」
「なんだよ謙也くんかよびびらせんなよ!!」
「………」
「謙也、何黙っとるん」
「うわ財前も後ろに居たびっくりした」
「…理久先輩」
「何…」


「今の、別世界の人間とかって、何のことっすか」

白石と二人でピシリと固まる。
咄嗟の言い訳も思い浮かばずただただ顔を青くした。
まずい、聞かれてたのか、やばいまずいどうしよう
助けを求めるように白石に視線を移したが同じ気持ちだったようで困惑の表情を浮かべてこちらを見ていた。


や っ ち ま っ た ぜ 。