どれ程の間沈黙だっただろうか。なんかもう30分くらいな気がするけど多分3分も経ってない。
だらだらと汗をかきながら頭をフル回転させる。
どうしよう、どうやって誤魔化そう、だって普通に話したって納得するわけないじゃない。白石みたいに気付いてて理解しているならともかく、謙也くん達は何も気付いていないのだから。そんな相手にどうやったら通じる?いや通じないでしょ。
あーやばいパンクしてきた、どうしようマジこれ、今何を言ったって動揺し過ぎて逆に怪しくなる気がする。スマートに嘘つけないよ今どうしよう
喉が詰まる、声すら出せない、謙也くん達を凝視して固まっているあたしの背中を白石が優しく叩いた。
「言ってもええんちゃう?」
「え……」
「俺は分かっとることやし、ちゃんと説明したら謙也達も納得してくれるやろ」
「いや……いやいや………こんな映画みたいなこと誰も信じれないでしょ…あたしが頭おかしいだけじゃん…」
「気付いとるのが理久だけ、ならな。でも俺が居るやろ」
そうだけど、そうだけど……
「そう…だけど……あたしを庇って話合わせてるだけだって思われたら嫌だし…あたしは平気だけど白石まで変に見られるのは嫌なわけで……ていうかもうこんな話してるだけでおかしいんだよねうわもうどうしようしくった…」
起きてしまったことだからもうどうしようもないんだけど、しかも二人の前でこんな会話してたらアウトだろう完璧に。
「あーーーーーーー………バレたから元の世界に帰るわさよなら」
しれっと逃げようと立ち上がったあたしの腕を白石ががっちり掴む。
指が食い込む程の力で、物凄く痛い。白石それ女の子相手に出す力じゃない…
振り返ると、とても焦った顔をしていた。マジで帰ると思ったんだろうな、帰れるならとっくに帰ってるわ。方法知らないんじゃ。
「………嘘だよ。帰る方法知らんし」
「やめろマジでやめろ本気で泣くで!?」
「えちょっと見たい」
「殴ってええ?」
「仮にも彼女!!」
「俺ら無視して夫婦漫才すな!!」
しびれを切らした謙也くんが叫んだ。
あ、そうだったごめんね。すんませんとベッドに座り直し、まあ座りなさいとソファを指した。
二人がソファに座り、再び沈黙流れる。………覚悟を決めるか。
経緯を、細かく、ゆっくり話し始めると、二人は訳が分からないといった表情を濃くしていく。それでも根気強く、時には白石を混ぜながら話し終えた頃には謙也くんも財前も思考停止しているようだった。遊びに来たのに頭使わせてごめんな
「いやいや……そんな話…嘘やん………だって理久…一年の頃からずっと四天宝寺居ったんやで?」
「マジで?存在してたのあたし」
「居ったわ……白石は三年でクラス一緒になったけど俺は理久と三年間クラス一緒やったんやで」
「なの!!?!??え!!?マジで!!!?!?」
「まあ話したことなんてなかったけどな…」
マジかよ……ここにきて衝撃の事実………
「……でもな…この話がホンマなら理久の変わりように納得がいくもんなぁ…前とはホンマ別人やもん」
「納得できるくらい別人なのか」
「せやで。…ちゅーか白石も、覚えとらへんの?付き合ってた頃のこと」
ちらと謙也くんが白石に目をやると、白石は申し訳なさそうに首を横に振った。
「全く。朝練行ったらお前らが俺の彼女がどうとか意味わからんこと言うてるし、教室行ってみたら知らん女の子二人居るし。しかもその知らん子…理久が彼女やとか言われて何が起きたんか分からんかった。成瀬さんのことも分からんかったけど、彼女は普通にしとるから俺だけおかしいんかと思ったら理久だけ様子がちゃうかった」
「あの時はねー……頭痛かったね…。しかも白石が気付いてるなんて思ってもみなかったし」
二人で気の抜けた笑いを溢す。
あの頃は本当に精神面が忙しくて、若干苦い思い出になりつつあった。今じゃ落ち着いているけど、あの頃はとにかく不安で仕方なかったのだ。
白石も、あたしも。
「で、俺らは理久にとって漫画のキャラクターやと」
「…………そう…。だから白石と付き合ってることになってるなんて意味わかんなかったし、そのせいで学校中から嫌われてるし、死にたかったよね」
笑いながらそう言うと謙也くんは表情を暗くする。いやごめん……そんな…笑い話だったんだけど…
おどおどしていると隣に座っていた白石があたしの肩にもたれかかってきた。態勢きつくない?なんて思いながら白石を見ればちょっと悲しそうな顔をされる。待ってそんな暗い話じゃないって……
「…いや……すまんそんな暗い話じゃなくて…笑い話だったんだけど…」
「笑えへんわ」
「すんません……でもね、そういうこともあって、テニス部には関りづらくて。咲良とのこともあったし…だからちゃんと白石と別れて、自分の学校生活守るためにテニス部とは距離取ろうって思ったのにさ……思ったのに…」
「…?」
「白石がしつこかった………」
顔を両手で覆って大きな溜息をつくと思い切り頭を叩かれた。白石結構力込めたなお前
「しつこかったって何やねん!」
「いやどう考えてもしつこかった……席替えして隣同士になったとはいえ何かある度に人の邪魔しよって………あれだけ無視してんのにめげないとか逆に切なくなったわ。本当最初はうざくてうざくて…!謙也くんとでも話してろよって思ってたのに、多分その頃謙也くんはあたしのこと苦手だったでしょ?だから近寄ってこなかったと思うんだけど、そのせいで白石のうざさは増していったのだった」
「普通仲良うなりたいって思うやん!周りがおかしなったの知っとるん俺とお前だけやねんから!!」
「あたしが迷惑がってんの分かってたよね?あたしの態度気付かなかったわけじゃないよね??」
「恥ずかしがり屋なんかと思って」
「はー!!出たよ白石の無駄なポジティブ思考!!何でそうなるんだよ!!」
「あと反応が面白かった」
「最悪だこいつ」
悪びれるわけでもなく笑っている白石にガンつけた。
そんなあたしを見て「全然怖くないで」とか言うので舌打ちをして顔を背ける。
くそ……原作のような好青年白石はどこ行ったんだ。
「せやから別れた後あんなに理久を構っとったわけか、白石は」
「まあな。何かあった時、現状把握しとる理久しか俺には頼れる奴居らんかったから」
「ていうか財前大丈夫?ずっと黙ってるけど」
さっきから言葉を発しなくなった財前を見ると、未だ複雑な顔をしていた。まあ信じられないだろうな
…嫌われるかな、頭おかしいって思われるかな。………離れていっちゃうかな。
まあそれは、彼が決めたことなら仕方ないし。あたしがどうこう言えることじゃない。
「……理久先輩は、居なくなるん?」
そっちかーーーーーーーーそうだねそんな話してたね。
「分からないんだよ。突然この世界に来たように、突然居なくなるかもしれない。何が原因でこうなったのかは分からないから、この先居なくなる可能性もあり得なくはないんだよ」
「……部長はそれでええんすか」
「理久は居なくならんし」
「白石の自信はどっからくんのかな〜」
すると、財前はおもむろに立ち上がってあたしの隣に座ると、ぽすりとあたしの肩にもたれかかった。
思わぬ行動に白石も謙也くんも、あたし自身も驚いて固まってしまう。
ぴったりくっついてくる財前は甘えるように頭を摺り寄せ、髪が少しくすぐったい。
「!、!?、!!?!?ざ……!?」
「……居なくなるとか、言わんといてくださいよ」
「い…いや……決定事項ではないけど…もしかしたらってことで……」
「だとしても、そんなこと言わんといてください。部長もそうやろうけど、俺かて理久先輩と離れたくないですよ」
「嬉しすぎて泣きそう……」
「理久!俺ん時と態度ちゃうやないか!」
「白石と財前では雲泥の差がある……泣きそう…」
「ホンマむかつく!!」
あたし達のやり取りを見ていた謙也くんが盛大に吹き出した。目尻に涙を浮かべ腹を抱えて笑う姿に意味が分からないとハテナを浮かべる。
「はー……あれやな。理久がどっから来たとか、どうでもよくなるな。俺らにとっちゃ今の理久が全てや。なあ白石」
「せや。理久は居なくならんし、将来俺と結婚するし、何も心配いらん」
「白石お前しれっとプロポーズするんやめろや」
「これ二回目」
「今回も聞かなかったことにするね」
「なん!でや!ねん!!」
隣で激おこな白石を笑っていると、不意に財前の腕が腰に回った。
吃驚して彼に顔を向けると思っていた以上に近くて息が止まる。
「ほな俺と結婚しますか」
にやりと口角を上げた財前に、思わずカッと顔を赤くし頬が引き攣った。
「財前理久を口説くな!!理久も何赤くなっとんねん俺ん時と態度違い過ぎやろって!!」
「財前は卑怯だぁ……」
「俺と財前の差は何やねん!」
「なあ俺も混ぜてや!」
白石と財前に両側から攻められ、さらには謙也くんが正面から抱き着いてきたせいで後ろに倒れ込んでしまった。何なのお前ら。仲良しかよ
「あっはははは!!何だこれ!!謙也くん重い!」
「俺かて理久が居なくなったら嫌やねんで!」
「はいはいありがとね、居なくなんないよ」
「ほなまた漫画読ませてや!」
「そっちが目的かよ」
あんな重い話してたのに何でこんなわちゃわちゃしてんだろ。
謙也くんはあたしが女の子だって理解してるかな?人の上に乗ってますけど
困りながら白石を見ると、何故か嬉しそうに笑ってた。あー白石にとって謙也くん達は大事な仲間で、話を受け入れてくれたことが本当に嬉しいんだろう。そう感じ取ってしまうくらいに、白石は嬉しそうだったのだ。
思わず泣いてしまいそうになる。
みんなが居てくれて、あたし今死ぬほど嬉しいよ。