08要注意人物はむしろ白石

「で、マネージャーのことなんやけど」

買ってきてくれたお菓子を食べながら若干憂鬱そうな表情で謙也くんがマネージャーの話を口にする。
そういや白石との会話聞いてたのか。じゃあ言っといたほうがいいか

「多分あたしと同じで別世界の人間かなーと思うよ。財前がテニス部って知ってたのもそのせいじゃないかと」
「あれ、ちゅーか理久は俺らのこと知っとるんよな?どこまで知っとるん?」
「………。どこまで?うーん………………名前と学校と……なんかこう…好きなものとか……?」
「何でそんな曖昧やねん」
「もう忘れたんだよね」
「聞いた?おい白石聞いたか?忘れたやて」
「待って待って!いや!そこまで記憶力良くないんだよ!忘れたら読み返したりウィキペディアだったから!」
「ウィキペディアやって……俺らへの愛はそんなもんやったんか…」
「謙也、理久に期待したらアカンで。こういう奴や」
「言い返せなーい」

いや……ファンブック厚かったし……一人一人完璧に覚えれないって…ああそれが愛が足りないってことなのねすいませんね浅いファンですいませんね…
皆全部覚えてる?見なくても言える?というか本人目の前にすると絶対忘れるって

「謙也くんあれでしょ?イグアナでしょ?」
「イグアナが何やねんそうやけども」
「当たった!」
「当てずっぽうかい」
「白石は何だっけ、あれよあれ、あのー……おかゆじゃなくてあの、………リゾット!チーズリゾット!好物!」
「正解やけどおかゆと一緒にせんでほしい」
「俺の好物は?」
「謙也くんの……?………………えっ待って待って……なんだっけ…イグアナの印象強すぎて全然覚えてない待って……イグアナ……じゃないよね」
「食わへんわ!!!!!ペットやアホが!!!!!!」
「すいません」

うーわ……なんだったっけ全然出てこないぞ。頭文字すら出てこない。白石のチーズリゾットは単純に美味そうだなって思って覚えてたくらいだからな……

「パス!」
「クイズちゃうわ!ええけど!」
「ほな俺は?俺の好物は?」
「財前あれでしょおしるこ」
「ちゃいますー白玉ぜんざいですー」
「同じようなもんじゃん…」
「全然ちゃうし。間違うたから後で奢ってくださいよ」
「嵌められた…ていうか!こんな話じゃなくて!マネージャーの話!」

あ、そうだったと謙也くんがハッとする。財前は嫌そうに顔を顰めた。

「多分皆と仲良くなりたいんだと思うよ、好きだから。あわよくば愛されたい的な…?わからんけど」
「愛………?あれはさすがに無理あるやろ…もしも成瀬さんとか高良さんみたいな子なら普通に仲良うできるけど、あんな女子すら蔑ろにするような子無理やわ」

無理無理と謙也くんが首を振る。蔑ろ?マジかよ
なー?と財前に同意を求めると、財前も大きく頷いた。財前は溜息をついてから教室での彼女の行動を大まかに教えてくれた。

「最初の内はクラスの女子も話しかけとったんすけど、ほぼシカトで。当たり前のごとく今はもう誰も話しかける奴居らんくなりましたわ。あいつが話しかけるのは全て俺っちゅー地獄のような日々です」
「つよ……その子つよ…」
「なんちゅーか、俺だけは受け入れてくれるやろうっちゅー変な自信があるんすよあいつ。意味が分からへんあんだけシカトしとるんに」

トリップした人間の特権ですからね、キャラに愛されるっていうのは。まあ、"愛され設定なら"の話ね。それは言わないでおこ……説明すんのもめんどくさいわ

「まー……これからもグイグイくるだろうね。引きはしないと思うよ」
「「「無理」」」
「いや無理って言われても…」

彼らの目は据わっていて、その揺るぎない心はとても固いものであるということがひしひしと伝わってくる。本当に無理なんだな……
はは、と空笑いをしているあたしに白石がポッキーを向けてきたのぱくりと口に入れて食べ始めようとすると、何故か反対側を白石が咥えたので思い切り折ってやった。

「あー!何で折んねん!」
「何この状況でポッキーゲーム始めようとすんだよお前はよ」
「暇やったから」
「じゃあ白石抜きで話するから出てけ」
「すんませんでした」

せやからポッキーゲームしようやーと背後から抱き着いてくる白石を無視して謙也くん達に目を向けた。
財前は大変冷たい目で白石を見てた。そうだ、それが正しい反応だよ財前

「可愛い子なんだけどね……あの殺気がどうしても…。普通の子だったら仲良くできたかもしれないのになあ」
「いや、それは無理やと思うなぁ」
「何故だい謙也くん」
「あの子、白石狙っとるもん」

やっぱりか。ちらりと後ろに居る白石に顔を向けると自然とキスをされたので白石の腹を肘で殴ってやった。そうじゃねえんだよ

「理久おま……ッ!肘はアカン肘は…!!」
「白石狙われてるらしいけど気付いてた?」
「気付くに決まっとるやろ……アピールが物凄いし。何回一緒に帰りましょうって言われたかなー…」
「ほっほう」
「その度断っとるんやで?でも次の部活でまた言ってきよるん。え、鳥頭なん?って言いたくなるわ」
「今日こそはイケる!みたいな感じかな」
「そろそろホンマに勘弁してほしい」

白石は額に手を当てながーい溜息をつく。幸せ逃げちゃうよ
よしよしと背中をさすってやりながらお菓子を口へ運んでやった。
自分の彼氏が狙われているということにもう少し危機感を感じなければならないところだが、なんせ去年が去年だったのでどうも実感が湧かないというか。

「理久、今年は去年みたくいかへんからな。白石のためにお前がマネージャーを牽制せんとアカンねんで」
「難しくない…?ただの出しゃばりみたいになるじゃん……」
「彼女が出しゃばって何が悪いん。そもそも彼女居る奴に色目使うてるほうが悪いんやからな」
「理久先輩は危機感が足りひんねん、危機感が」
「いやそれは分かるけどさあ……実際どうしていいか分かんなくない?」
「蹴散らしたらええんすよ、物理的に、ガッと、足とかで」
「それは一歩間違えると騒動になりかねないぞ」

ほな手?と言って拳を作る財前が怖い。しかもちょっと楽しそうだからさらに怖い。
お前それマジでやるなよ?不可抗力ですとか言ってやるなよ?あたし止めれる自信ないからな?

「あーもうやめやめ!楽しい話しようや」
「謙也くんが言い出したのに……」
「そういや気になっとったんやけど、理久って苦手なモンとかないん?」
「あるよ。犬」
「えっ何で?」
「小さい頃どっかから離れてきた犬に追っかけられて太股の付け根?辺り咬まれたことあってもうそれからトラウマ。小型犬だったからまだ良かったものの…写真とか動画で見る分には可愛いなーとは思うんだけど、実物見るともう怖くて無理」

咬まれるんはトラウマになるわーと謙也くんが痛そうに顔を顰めた。
あれはね、本当にね、死んだと思ったね。まだまだ子供だったあたしが走って逃げきれるはずもなく思い切り飛びつかれてがぶりと。未だに傷跡残ってるし。

「傷跡残ったやろ」
「まあね。でも服着てると全然見えないし。穿いてるもん脱がなきゃ見えんから大丈夫」

すると、白石があっと声を上げたので、どうした?と聞くと、何か納得したようにそうかそうかと一人で頷いていた。

「何白石」
「あの傷ってもしかして犬に咬まれた傷か」
「……え」
「聞こうと思って忘れてたわ」

少しの沈黙の後、口を開いたのは謙也くんだった。

「え、何で白石知っとるん?いつ見たん?」

不思議そうな顔をしてそんなことを聞くもんだから隣に居た財前は首を振って溜息を溢した。

「謙也さん鈍すぎ」
「は?どういうことやねん」
「穿いとるもん脱がな見れへん傷ですよ。恋人同士で?服脱ぐ言うたら何するんすかね?」

財前の問いかけに少しの間を置いて意味を理解した謙也くんは見る見るうちに顔を赤くしていった。真っ赤な顔のままあたしと白石を交互に見る。
口をパクパクさせて言葉すら出てこないようだ。
恥ずかしすぎてあたしは顔を両手で覆った。白石が最悪過ぎる。

「白石死ね……!!」
「すまんそういや気になっとったから」
「何で今思い出すんだよ……!!!!」
「あん時は夢中で忘れとっt「うわああああああいらんこと言うな!!!!!!」
「部長デリカシー無さ過ぎやろ…」

財前が珍しく呆れていた。ないわーと額に手を当てて息を吐いている。
うん、あたしもないと思うわこの聖書野郎。白石最悪だしあの時のこと思い出しちゃうしでもう頭ん中しっちゃかめっちゃかなんですけど!!?だから!!好青年な白石どこ行ったの!!?!?

「いいいいいいいつの間にそこまで進んだん!!ふしだらや!!」
「ふしだらて。初心か。あ、謙也は初心か」
「ふwwwしwwwだwwwらwwwww謙也さんアホやwwwww」
「おおおおお前ら……!!!!」

あたしをほったらかしにして白石と財前は謙也くんを弄り始めたので、申し訳なかったが助け船は出さないでおくことにした。
無理今助ける余裕ないわ自分のことでいっぱいいっぱいだわ。

とりあえず白石許さねえ。