09前途多難

謙也くんと財前に打ち明けてからというもの心の軽いこと軽いこと。
あれから特に大きな出来事が無く割と平和な日常を送っていた。

そんな矢先。
何ということでしょう。
目の前の三人の落ちっぷりと言ったら半端ない。三人というのは言わずもがな白石謙也くん財前である。
各々椅子に座りさっきから溜息ばかりを吐いている。その異様な光景を目の当たりにして咲良と千昭は別の席で昼食を取り始めた。裏切者め。理久にしか相手にできないでしょ?じゃないよあたしにもどうしようもないよこれ
何て聞こうか迷っていると、不意に自分のスマートフォンが震えた。誰かからのメッセージのようだった。
開いてみるとそれは幸村からで

『合宿待ってるね』

合宿????

「何の話?」
『え、白石から聞いてないの?』
「白石も謙也くんも財前もなんかハチャメチャに落ち込んでて何も聞いてない」
『どういうこと?笑』
「あたしが聞きたい……さっきから溜息しか聞こえないわけよ」
『今週末三連休あるでしょ?それ使って立海、四天宝寺、氷帝で合宿みたいなことやるんだよ。場所は東京。』
「いや行けないし…」
『マネージャーになったんじゃないの?そっちマネージャーできたって聞いたけど』
「あたしじゃないよ」
『赤也が浮かれてるよ、君に会えるって』
「ごめんって言っといて」
『来なよ』
「無理ですって……」

怒ったスタンプを連打されたので通知をオフにしてスマートフォンの画面をブラックアウトさせた。うるさい幸村

「今週末合宿か」

そう言うと三人はぎくりとした顔をして、同時に溜息をついた。

「最悪や……あーーーー今すぐインフルエンザにならへんかな」
「財前、もうすぐ夏ですけど……先輩達も一緒なんでしょ?」
「それがな、俺らだけやねん。幸村クン達と面識のある俺らだけ。幸村クンと跡部クンが計画しとったみたいで、俺らも呼ばれたわけなんやけど…」

何か言いたげに言葉を切る白石を首を傾げて見つめる。
何だよ、いいことじゃねえか。楽しんでこいよ

「何でかマネージャーもついてくることになってん」

あっちゃーーーーー!!!!心中お察しします!!!!!

「やっべえな」
「何でか理久がマネージャーやと思ったらしくてな。そのマネージャーの分の旅費も跡部クンが負担するわー言うてもう顧問に話通してしもたらしいんやわ。逃げ道がない」
「オワタ状態なわけですね」
「よし理久、一緒に合宿行くで」
「急に言われましても。明日からじゃん。無理なんですけど」

マネージャーも一緒に行くということは今日聞いたらしい。サプラーイズ(笑)って言ったら三人に思い切り蹴飛ばされた。超痛いんだけど

「跡部くん達が居るならへっちゃらっしょ」
「無理」
「死ぬ」
「むしろ死にたい」

とりあえず飯食えよお前ら。

****

実はこの三連休、バイトが無い。
店長の蘭さんが親戚の法事に行くらしいのだ。ですので、撮り溜めていたアニメを消化しようと朝から奮闘中だ。
白石達はもう着いた頃だろうなあ、大丈夫かな。死なないかな。
そんなことを考えていると、物凄い勢いでスマートフォンが鳴っている。怒涛の通知ラッシュだ。
ちらりと見てみると立海と氷帝のうるさいメンバーからの個人メッセだった。メッセというか、スタンプラッシュ。うっせえ
気付かなかったことにして、あたしはスマートフォンの電源を落とした。

気付くといつの間にかお昼は過ぎていた。あっという間だなーと思いながらも、まだ休みは充分にある……そう考えれば自然と顔がにやついた。
ご飯食べたらあれを見て、これの続き見て、それ終わったらランニングがてら本屋でも行こうかな
走ることは好きだがアウトドア派なわけではない。どっちかっていうと常に家に籠っていたい。買い物とかは必要になった時にしか行かない。ウィンドウショッピング?無理無理疲れる

さーご飯食べよーと下へ降りると、タイミング良くインターホンが鳴った。
宅配便か何かかと思い、母親がしまっているハンコを手に取って何の躊躇いもなくドアを開けてしまった。

「………」

インターホンを鳴らした人物を見て絶句した。極端に言うと幽霊でも見ている気分だからだ。だって、今大阪に居るはずのない人物……

「白石何で居るの!!?!?」
「来ちゃった」
「来ちゃったじゃねーよ!合宿は!?」
「一応行った」
「一応って何!!?」
「まあ話は後や。時間無いからはよ行くで」
「意味分かんないんだけど」
「持つのはスマホと財布だけでええやろ。他はまた跡部クンが揃えてくれる言うてたし」
「白石、白石さんちょっと、うわあああああ勝手に上がるな!!」

突如現れた白石(仮)は我が物顔で部屋へ上がるとベッドに放置されたあたしのスマートフォンと、鞄に入っていた財布を取り出した。
訳が分からないのでどうすることもできずただ白石を見つめる。意味が分からない意味が分からない何でコイツえっちょっと何してんの

「よっしゃ、行くで」
「は、えっ、何が…」

今は状況を理解することに精一杯で、白石に手を引かれるまま車に乗り込んでしまった。

「誘拐じゃねーか」
「いや俺彼氏やん」
「彼氏でもこれは誘拐じゃねーかよ」
「理久会いたかったわー」

嬉しそうにあたしの手を握る彼に大きな大きな舌打ちをしてやる。
というか待て、今からどこに行くってんだ

「白石」
「ん?」
「今からどこ行くの」
「決まっとるやろ、合宿や」
「な!ん!で!!!」
「いや真面目な話、聞いてくれるか」
「えー………何よ…」


事の発端は四天宝寺が合宿所に着いた四時間程前に遡る。
今回の合宿、マネージャーは四天宝寺からだけだそうで、全員あたしが来るものだと思っていたらしく最初の段階でちょっとした騒ぎになったらしい。
練習自体は午後からなので、午前は各自休息の時間となったらしいが、そこで問題が起きたわけだ。

「俺ら四天宝寺だけでなく、立海も氷帝も照井さんのことを受け付けへんねん」
「マジかよーーーーーーーーー」
「ものっそい絡んできよるん。少し馴れ馴れしいくらいに」
「容易に想像できてしまう…」
「これはヤバイと思ったのか、跡部クンに俺呼び出されてん。今すぐ理久を連れてこいって」
「なーーーーーーーんであたし。あたしマネージャー業やったことないから無理だよ」
「そこはな、心配せんでも氷帝側からマネージャーできる子連れてくるらしい。跡部クンのお墨付きや」
「じゃああたしいらなくない!!?」
「男の俺らじゃ女の子相手だと色々不都合あるし、その氷帝から連れてくる子と何か問題起きた時に対処しづらいから理久に犠牲になってもらおうっちゅーことや」
「犠牲」

犠牲。今、犠牲って言いましたか。
というか話が無理矢理過ぎて納得できない。

「納得いかない」
「去年俺が苦労した分今回はお前に苦労してもらおうと思って。何か文句あるか?」
「無いです精一杯犠牲になります頑張ります」

そう言うと白石は満足気に頷いて、頼んだでとサムズアップをした。
何とも男らしい表情だった。
正直むかついた。