10嵐の前のなんとやら

自家用ジェット機ではなかったが、跡部が手配したヘリに乗って東京まで行くらしい。
初めてのヘリにあたしは大興奮だった。

「やばい!飛ぶ!!飛ぶ!?白石これ飛ぶ!?」
「ヘリやからな、飛んでくれな俺らどうやって東京行くん」
「うっほおああああ!!初ヘリ!!あ!エチケット袋!!でもあたし乗り物強いから平気!!」
「良かったな。せやからもうちょい大人しゅうしよか」
「うわーッ!!飛んだ!!ミッションインポッシブル!!」
「何言うとるんやコイツ」

高鳴る胸を落ち着かせながら自分でも目がキラキラしてるって分かってるくらい興奮している。一息ついてようやく落ち着くと、本来の目的を思い出した。

「ひとしきり騒いだけど」
「おん」
「今から地獄に向かうんだよなぁ…」
「お前のテンションの落差激し過ぎて疲れるんやけど」

白石はやれやれといった顔をして、あたしの頭を撫でてきた。頭撫でられるのって本当恥ずかしいからやめてほしいなぁ
あーやだなー女の子相手だとちょっと人見知りするんだよなあ……耐えれるかなぁ…

****

「あああああ!!!!!理久さん!!!!!!」

合宿所に着くなり大きな赤也の声が響いた。
見つかるの早い……思わず白石の背に隠れてしまったあたしは悪くないと思う。

「会いたかったっスよー!!!!!」
「!?白石退かないでちょっ……うわああああああああ」

白石の背に隠れたにも関わらず、何故か白石は横に避けた。何も遮るものが無くなってしまったので目の前から突進してきた赤也が思い切り飛びついてきた。後ろにひっくり返らなかったことを自分で褒めてやりたい。
理久さーん!!と叫んでは正面からがっつりしがみつかれ前が見えづらい。お前中学校ん時より少し育ったな?育ったよな?重い崩れ落ちそう

「来てくんないかと思った!!!」
「いや来るつもりなんてなかったんだけどね…」
「何も変わってないっスね!!!」
「おい聞き捨てならないな」

人にしがみつきながらお話しないでほしい。顔近いし。助けて、と白石に視線を送ると"がんば!"といい笑顔で小さく拳を作られた。お前はそれでいいのか。

「やっと来たね」
「幸村くん〜〜〜〜この子剥がしてくれ〜〜〜〜〜」
「暫く君に預けるよ」
「いや勘弁して!!」
「久しぶりだね猫宮さん」
「話聞いて!!」

これじゃあ埒が明かないので、皆が集まる食堂へ向かった。このままだと歩きにくいからと赤也に離れてもらおうとしたら、何故か今度は背中に背負う形となった。「これなら歩けますよね!!」じゃない。歩ければいいってもんじゃない。
食堂に入ると懐かしの面々……まあ懐かしいのは立海メンバーだけだ。氷帝はよく遊びに来るし。当たり前だがそこにはマネージャーの照井さんも居て、もう一人知らない女の子が居た。
照井さんはあたしを見るなりほんの少し顔を顰めたが、見なかったことにする。
赤也の重みに耐えていると、跡部が声をかけてきた。

「よう、待ってたぜ」
「待たせたな」
「理久何かっこつけとんねんさっきまで逃亡しそうやったくせに」
「白石うるさい」
「猫宮、必要なモンを今から俺様のメイド達を連れて買いに行ってこい」
「ええー!!!またあの恐怖味わうの!?メイド"達"って!!一人でいいから!!」
「うるせえ早く行ってこい」

そう言って跡部は赤也を引き剥がしてくれた。おおおお身が軽くなった
途端に両腕が誰かによって拘束された。吃驚して両側を交互に見ると、いつかの買い物を手伝ってくれたメイドさん達だった。
そのままあたしは彼女らに引きずられ、今来たばかりの合宿所を後にするのだった。

****

既に外は薄暗く、買い物を終えて戻ってきた頃には彼らは夕食を終えていた。
あたし一人で食べるの?超気楽なんだけど。
そろっと食堂へ入ると中は閑散としていて、安堵した。
はー落ち着く……
ゆっくり静かにご飯を食べていると、食堂のドアが思い切り開いた。思わず味噌汁吹き出すところだった。

「猫宮!!」
「向日くんかようっさ……食事中!あたし食事中!」
「んなことよりさ!」
「んなことより!?」
「こいつ、お前と同じように急遽来た仲原っつーんだよ。仲良くしてやってくれ!」

勝手に話を進めやがる向日に頭にきたが、目の前に現れた見知らぬ女の子に緊張してしまった。内巻きボブがよく似合う可愛らしい女の子だった。

「氷帝二年の仲原愛梨です」
「四天宝寺二年の猫宮理久です」

いやそもそもさ、飯食ってる時に連れてこなくてもいいじゃん向日よ。
後ろで申し訳なさそうにしてる鳳を見ろ、さっきからすいませんすいませんって頭ぺこぺこしてんだからなお前のせいで。

「同い年だしため口でいい?」

元気ハツラツ!な感じの仲原さんは、後腐れのない話し方で、とても喋りやすかった。

「理久ちゃんって呼んでいい?私のことも愛梨でいいから!」
「愛梨ちゃんね、分かった」
「ご飯食べてる時にごめんね…向日がめっちゃくちゃにうるさくてさ」
「俺が悪いのかよ!」

どう考えたってそうだろう。お前が悪い。
ご飯食べ終わったら明日の打ち合わせしようと言って愛梨ちゃん達は食堂を出て行った。よよよよよかった……いい子そうでよかった…
よ…よーしちゃっちゃとご飯食べて仲を深めるぞ……ていうか照井さんどうなった。あの子とも関わらなきゃならないんだよな…大丈夫かなぁ
そんなことを考えているとまたしてもドアが開いた。完全に油断していたものだから味噌汁でむせてしまった。誰だちくしょう

「あ…あの……」

ひっひえ〜〜〜〜〜〜照井さんやんけ〜〜〜〜〜〜〜〜

「すすすすみません驚かせてしまって…!」
「いや……大丈夫…どしたの?」
「挨拶をしておこうかと…思いまして……明日と明後日よろしくお願いします!」
「いやこちらこそ…何故かあたしも来てしまってごめんね……あたしマネ業よく分からないから教えてくれると嬉しいな」
「はい!頑張ります!」

は〜〜〜〜〜〜笑顔クソ可愛いな。これだけ見るといい子なんだよなー……

「あの私……何故か皆さんに…その……あまり良く思われてないみたいで…」
「あ……あー………あたしも最初そうだったよ。喧嘩したし。皆女の子のこと良く思ってないみたいでさ。あたしは和解?したからこうやって仲良くしてもらってるだけで、照井さんとは初対面だから皆ぎこちないんじゃないかな〜なんて…」

当たり障りのない理由をよく考えれたなと思う。あたしの言葉に彼女はどこかほっとした様子で、小さく微笑んだ。

「………あの……理久先輩って呼んでいいですか…?」

んんんんんんんんんんんんんんんんん。んんんん。一気に距離縮めてきたぞー………「だめです!」なんて言えるわけないしな……後が怖い!後が怖いけど!ここは!OKを出さねば!

「いいよ〜じゃああたしも芽衣子ちゃんって呼んでいい?」
「はい!よろしくお願いします!!」

眩しいくらいの笑顔で、彼女はあたしの手を取り喜んだ。
もう確実に、何か面倒なことに巻き込まれる未来しか見えない。
こうなったら白石に八つ当たりだ。ていうかご飯食べないと!!!!!

****

「理久まだ食うてたんか!おっそ!」
「あーーーあーーーーー白石マジ嫌いだわーーーーーーーーー」
「ガチトーンで言うのやめぇや!へこむわ!」
「グリーンピース並みに嫌いだわーーーーーーー」
「食えってか!そのグリーンピース食えってか!口移しなら食べてやってもええで」
「気が散るからどっか行って」
「何でそんなイライラしとるん!更年期か?」

そんなこと言われて白石を蹴飛ばしたあたしは!!悪くない!!!!