夕食を食べ終え、白石と廊下を歩いていると奥のロビーから愛梨ちゃんがひょっこり顔を出した。
「理久ちゃーん!打ち合わせしよ!」
「はーい」
そう返事をすると、横から白石に肘で小突かれる。何だよ
「いつの間に仲良くなってん」
「さっきご飯食べてる時に向日くんが連れてきたんだよ」
「へぇ」
ロビーに行くと愛梨ちゃんの他に跡部と幸村が居た。あ、これは白石も参加ですかね。
どうやら予想は当たっていたようで、ソファに座ると隣に白石も座った。
「まあ打ち合わせって言ってもそこまでないんだけど!」
ケラケラと笑う愛梨ちゃん元気だなーと思いつつ、ちょっと引っかかることがある。あたしが呼ばれる打ち合わせということは、マネージャー業のことで。それなのに芽衣子ちゃんが居ないのだ。
これは聞いてもいいのだろうか、いやでも空気悪くしたくないしなぁ……うーーーーーん……
「理久ちゃんはこういうの経験ないんだっけ?」
「ない。全くない。」
「まーあと二日だけだし、ドリンクとか表のことは私やるから洗濯お願いできる?」
「オーケイ。………あのさ、芽衣子ちゃんは?」
あたしが名前で呼ぶと、白石は目を見開いて驚いていた。だろうな、急に名前呼びだもんな。できることなら避けたかったよあたしも。
「理久お前いつから……!?」
「…さっきご飯食べてる時ですね……」
「マジかい…」
芽衣子ちゃんの話を出すと、愛梨ちゃんは少し困ったような顔をして、誤魔化すように乾いた笑いを溢す。
「あの子にもちゃんと頼むよ。…………すげー接しづらいけど」
「おおふ……」
愛梨ちゃんの顔から一瞬表情が抜け落ちた。闇の部分を見た気分だ。
接しづらいとは……いや分かるけど!でもあたしの「分かる」っていうのは色々事前情報があるからで。愛梨ちゃん達は初対面なのに何故そこまで…
「なーんかなー……すごく演じてる感あって苦手なんだよね、照井さん。気持ちが全然読み取れないのよ」
「確かに。俺達もそれをすごく感じた。その割に初対面にも関わらず積極的だから困っちゃったよ」
愛梨ちゃんの言葉に幸村も頷いた。
幸村、あたしん時と態度ちゃうくないか。あたしん時は「うぜえ!帰れ!」みたいな感じだったのに何故そこまで角が取れてしまったんだ。いいことだけども。
「何かあればうちの理久が何とかするから大丈夫や」
「白石黙ってて」
「その為に来たんやもんな!」
「お前さ?そう言いながら全然関係ないことも全部あたしに投げてくんなよ?マジでやめてよ?」
「え?何て?」
「いやマジホント白石嫌い」
「あーはいはい照れ隠し照れ隠し」
「空気読めないポジティブ野郎だな……」
「夫婦漫才は余所でやってくれないかな」
あたしと白石のやり取りを見ていた幸村が口を挟む。夫婦漫才とかやめてほしいそんな楽しいもんじゃない。うわ、あの白石のドヤった顔すげえむかつく夜中落書きでもしてやろうか。
「白石くんと理久ちゃんすごい仲良いね」
「え?気のせい気のせい」
「理久?」
「痛い白石ちょ痛いいたいったたたたた!!太股抓るって何!?あり得なくない!?」
「俺ら付き合うとるからめっちゃ仲ええねんで」
「そうなの!?えー!ちょっと早く言ってよ理久ちゃん!」
「いやあたしも今初めて聞いtいだだだだだ!!白石いったい!!!抓る力増してる!!」
猛抗議するも白石は若干青筋を浮かべている。キレたいのはあたしもだよ!
「おい、時間無くなるぞ。そろそろいいだろ」
跡部のその言葉に、愛梨ちゃんはハッとして立ち上がった。
「そうだった!理久ちゃん外行こ!多分皆集まってるから」
「え?何が?」
「合宿終わりだと疲れてそれどころじゃないかもしれないから、今日やるの!」
「何を?」
「肝試し!」
「わーお……」
これまた定番な…………食堂から塩貰ってこよ。
****
集合場所に向かうと既に皆集まっていて、口々に遅いと文句を言われた。あたし悪くねーし。
肝試しの内容は大変簡単で、ただこの林の中の道を行って戻ってくるだけだという。突き当りはY字の分かれ道になっていて、その真ん中に小さな祠がある。そこでペアの人と記念撮影をして帰ってくるというものだ。記念撮影て。絶対何か写るだろこえーな
順次ペアは出発するで、必ず他のペアとすれ違うことになるな……おどかしてやりたい。
それはそれとして………メンバーの中に芽衣子ちゃんが居ない。何故だ。
近くに居た謙也くんにこそっと聞くと、怖いものが苦手らしく不参加らしい。えー……仲良くなれるかもしれない機会ですよ…チャンスですよ……
簡単に作ったクジでペアを決める。
まさかの愛梨ちゃんとだった。ラッキー超楽〜
「女子固まったのかよ、つまんねー。猫宮の泣き顔見てやろうと思ったのに」
「むしろ泣かすぞ向日くん」
「別に俺へっちゃらだもん」
「とか言いながら何鳳くんの腕掴んでんだよ離せよ」
「ちげーよ!!鳳が怖がってるから掴んでやってるだけだよ!!」
「向日先輩言いがかりはよしてください…」
ビビりめ……バレバレなんだよ…
あたしと愛梨ちゃんのペアは最後から二番目で、一番最後のペアは丸井と謙也くんだ。謙也くんだと……すれ違う時おどかしてやろ!!!!!!!!!
あたしと愛梨ちゃんの番になって、一つの懐中電灯をあたしが持って道を進む。
愛梨ちゃんも平気なようで、お互い好きなものの話とか、学校の話をしながらずんずんと歩いて行く。
途中、あたし達の前に出発した幸村仁王ペアとすれ違った。足元気を付けるんだよと幸村に言われ、二人で返事をすると完全にノーマークだった仁王に思い切り肩を叩かれ短い悲鳴を上げてしまった。仁王も幸村も爆笑してた。今すぐ転んでほしい。
「祠みーっけ!ま、別に曰くつきの場所じゃないし何もないよね」
「ちょっとした散歩になったね」
祠の前に並ぶと、愛梨ちゃんのスマートフォンで二人で記念撮影をする。
パシャリと音がして、さー戻るかと思ったその時、後ろから女の子の声がした。
「ねえ」
爆音で響く心臓の音がうるさくて、今にも破裂するんじゃないかと変な焦りを感じる。いや今はそんなこと心配してる場合じゃない、何で、誰の声だこれは
「あたしともあそんでよ」
無理。
こういう時、映画とかなら振り返るだろうけど無理振り返れない。振り返ったらきっと後悔する。
あたしは!!決して振り向かないぞ!!
愛梨ちゃんに目配せをして走り出そうと、愛梨ちゃんに目を向けると
「あ、そ、ぼ」
あたしと愛梨ちゃんに間に、おかっぱで顔が溶け出してる女の子が居た。身長が似ているせいでおもっきし顔を見てしまった。
「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」」
林の中にあたしと愛梨ちゃんの叫びが響き渡る。その瞬間、お互い弾かれたように一目散に走り出した。
なんだあれなんだあれなんだあれ!!!!!何でよりによって!!!!!!あたし達ん時だよ!!!!!!
「愛梨ちゃん何あれ!!!!?!?」
「私が聞きたいいいいいいいいいいいいいいぎゃああああああああああ!!!」
「顔溶けてたよね!!!!?!?」
「やめて思い出させないで!!!!!!」
「どこいくの〜まって〜」
「「うぎゃああああああああああああああ!!!!」」
すぐ後ろで女の子の声がする。
あの溶けた顔が後ろに居ると思うと足が速くなる。無理無理無理無理……と走っているあたし達の間に後ろから顔がにゅっと伸びてきて、思わず見てしまった。
目玉が落ちかけてた。
「「うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」」
もういっその事失神してしまいたかった。もうあたしも愛梨ちゃんも泣いてる。無理あれは無理
その時、向こうに明かりがちらついた。今度は何!?と思って目を凝らすと、最後のペアの丸井と謙也くんだった。
「うわあああああ!!!!!戻って戻って!!!!丸井くんも謙也くんも戻って!!!!」
「お前らさっきから何の叫び声だよ!?何でそんな全力疾走して……」
「丸井くんいいから!!戻って!!!」
「ッあ!?」
「愛梨ちゃん!?」
なんということだ、愛梨ちゃんが転んでしまった。急いで踵を返し愛梨ちゃんの元へ駆け寄ると、少し乱暴に腕を引いて立ち上がらせる。
よろりと足元がふらついていて、もう走れないような状態に見えた。
けれどもあの化け物は確実に居て、暗闇からぬるりと姿を現す。
それを見た丸井も謙也くんは絶句していた。
「…………うわあああああああああああ!!?!?」
「ぎゃあああああああああ理久が変なの連れてきよったあああああああ!!!!」
「あたしじゃねええええええええええええええ!!愛梨ちゃん走れる!?!?」
早口で聞けば、愛梨ちゃんは涙目でふるふると首を振った。
だよね!!!!よーーーーしわかった!!!!!!!
火事場のなんとやら。愛梨ちゃんを背負うと、恐怖で動けなくなっている丸井と謙也くんの横を走って通り過ぎた。
「理久ちゃん!!?」
「丸井くん謙也くん置いてくぞ!!!!」
「「置いてくなあああああああああああ!!!!!」
さすがに人一人背負って走るのはきついが、そんなこと言ってらんない死にたくない。
もう最初の女の子の面影はなく、得体の知れない化け物となったそれは、一定の速度で追ってきていた。
あたしと丸井と謙也くんは必死に走る。もう少しで皆が居るところに出れる。
あ!!!!!塩!!!!あたし塩持ってきてた!!!
「猫宮何だよあれ!!?!?」
「祠に居たんだよおおおおおおおお目玉が!!!ボロンて!!!落ちた!!!」
「ざっけんな想像しちまったじゃねーか!!!!」
「ていうかさ!!!あたし塩持ってきてた!!!効かないかな!!?!?」
「あれに!!効くと!!思うか!!?やってみるか!!!」
「ノリがいいね丸井くん!!!!」
幸いあの化け物はまだ遠い。
立ち止まってポケットに入っている塩を丸井に取ってもらうことにした。
「ポケットに手突っ込んでいいのか!!?一応お前女だけど!!?」
「こんな時にそんなこと言ってらんないでしょうが!!!はよ取れや!!」
あたしがそう叫べば丸井は男らしい顔つきで頷いてあたしのポケットに手を入れた。
「キャー!!!丸井くんのえっち!!!!!!」
「死ね猫宮てめぇ!!!!!!!!」
「あはははははは!!!!はよ塩投げて!!!!」
「お前後で覚えてろよな!!!!」
小さな袋に入れられた塩を取り出したタイミングで、その化け物の姿が見えた。
もうね、めっちゃ気持ち悪い。なんか首長い。目が無いから真っ黒い空洞になってる。もうこれ今日夢に出てくるやつや。
四の五の言ってられない、塩が入った袋の口を開け、袋ごとその化け物に投げつけると上手い具合に中の塩が袋から飛び出し化け物に降りかかったらしく、きっしょくわるい悲鳴を上げて化け物は悶えるように消えていった。効くんかい。
暫く唖然としていたが、再び恐怖が込み上げ三人で爆走した。
****
皆の元へ辿り着くと、叫び声が聞こえていたらしく質問攻めにあった。いや、あたしも分からん。
謙也くんは未だにパニクって財前にうるさいとキレられている。丸井はもう呆然としていて、ただただぜえぜえと息をしているだけだった。
もう一周回ってあたしはおかしくておかしくて、ひたすら笑ってた。
「あはははははは!!なんかすげーの居た!!!塩効くんかい!!!あっはははははは!!!」
「理久!!しっかりせぇ!!何があったんや!!」
「後で教えるわ!!!」
「なんでやねん!!!」
若干キレ気味の白石に頭をスパァンとぶっ叩かれた。それすらも面白くて笑いが止まることはない。
そしてその夜、一人じゃ眠れないと部屋についてきた愛梨ちゃんと一緒に夜を過ごした。
思い切りあの化け物が夢に出てきて全然寝れなかったけどな!!