12なかよしこよし

結局昨日の夜は殆ど寝付けなかった。それはあたしも愛梨ちゃんも。そしてあの二人も。

「俺夢に出てきたんやけど……めっちゃ追っかけられた…」

午前の練習は始まっていて、青空の下テンポのいいボールを打つ音が響いている。
控えめにそよぐ風に癒されながら、昨日の夜被害にあった謙也くんと丸井は眠そうに目を擦っていた。

「あれさ、皆記念撮影するじゃん」
「おん」
「あたしらの見る?写真」
「絶対いらん。どうせ何か写っとるんやろ絶対いらんわ」
「すげーよ、これ雑誌に送ったらお金くるんじゃないかってくらいすげーよ」
「いらん!!見せんな!!こっちくんな理久!!」

鬼の形相で怒る謙也くんに舌打ちをする。ちくしょう怖がりさんめ!!マジで怒んなよ!!
写真には、あたしと愛梨ちゃんの真ん中からあの最終的に化け物と化した女の子が写りこんでいた。もうその時から顔溶けてたんだねって思ったのが最初の感想だ。
データを愛梨ちゃんから貰って、愛梨ちゃんの端末からは既に削除されている。

「それ、見せてほしいんですけど」

声をかけてきたのは日吉だった。あー……なんかそういうオカルト的なの好きだったよねあんた…

「これこれ。どう日吉くん」
「うわこれはまた……しっかり写りこんでますね」
「この子な、最終的に顔溶けてって両目が落ちて、首伸びてた」
「遭遇したかった…!」

そんな本気で悔しそうにされても……
こっちはマジ死に物狂いだったからな…塩持ってってよかった…

「この写真、いる?」
「いいんですか」
「いいよ、送っちゃう送っちゃう」
「ふ、ありがとうございます」

LINEの画面から彼のトークへ写真を載せるとすぐに既読がついた。送った写真を見て彼は楽しそうに微笑んだ。趣味が怖い。

「猫宮さんは、こういうの平気な人なんですか?」

首を少し傾げて、日吉がそう聞いてくるものだから胸がきゅんとした。クソ可愛い。首をそれ……コテンって。狙ってんの?何なの?ふざけないでほしい可愛い。

「平気だし割と好き…七不思議とか、あの掲示板あるじゃん、実体験の怖い話まとめサイト。あれめっちゃ見るよ!でも自分が体験するのは嫌だけどね、お化け屋敷含め」
「話聞いたり読むのが好きってことですか」
「そうそう。そのほうが楽しい」
「じゃあ後で俺の怪談聞いてくれません?皆嫌がるんですよね」
「マジかよ超楽しみ」

そんな約束をして、彼は練習に戻って行った。そしてあたしは裏方へ。
まあ洗濯して、干して、乾いたら畳んで。後はドリンクボトル洗ったり道具の整頓だったり。作業はとても単純で、簡単だった。助かるぅ
やることが無くなったのでコートのほうへ向かうと、愛梨ちゃんと芽衣子ちゃんはそれぞれスコア係をしているようだ。スコアのつけ方分かんないんだよね、未だにテニスのルールを理解していない。
芽衣子ちゃんの隣には白石が立っていて、何やら二人でスコアボードを見ながら話をしている。美男美女とはこのことか…絵になるね。

「サボり」
「ちげーし」

にゅっと横に現れたのは仁王だった。にやついてんじゃねー

「気になるんか、あの二人」

あの二人とは白石と芽衣子ちゃんのことで。気にならないわけではないけど、別に嫉妬とかの類ではない。

「君が思ってるようなことじゃないよ」
「なんじゃ、残念」
「仁王くんは彼女できた?」
「居ると思うか?」
「なんかこう、3人くらいに唾つけてそう」
「おまんの中の俺のイメージどうなっとんじゃ」

眉を顰めじとっと睨む仁王に対してとぼけたフリをした。いやだっていそうじゃない?今日はあの子、明日はあの子ーとかやってそう。

「立海は皆彼女居ないの?」
「居らんなぁ……でもファンクラブはあるぜよ」
「マジで!!!?!?そんなファンタジーみたいなもんが!!?存在すんの!!?めっちゃ見に行きたい!!」
「そんな反応するんおまんくらいじゃ。話じゃ氷帝もあるらしい」
「あー……まあ跡部くん居るしなぁ」

ファンクラブとか、漫画の中だけの話かと思ってた……あ…ここ異世界だわあり得るのか。え〜〜〜〜いいな〜〜〜〜〜女の子同士の泥沼とか見たい〜〜〜〜
でもイジメとかあるのかな……それは怖いな…。四天宝寺で良かった……

「猫宮なら、付き合ってやってもええんじゃがの」

ずい、と顔を近づけられ、彼はまたしてもにやりと笑った。何考えてんだかわかんねーなお前は……
思わず身を反ってしまう。イケメンに顔近づけられるのは慣れないもんだな…

「あたしそこまで魅力的な女になってしまったのか……」
「だとええのぅ」
「違うのかよ」

さあ?と笑って、仁王が肩に腕を回してくる。いや何なの、仲良しアピールかよ。
しかも地味に体重かけてくるから重い。あれ?壁扱い?

「何そこいちゃついてんだよぃ」

後ろから声がして、仁王と二人で振り返るとやけに眠そうな丸井が居た。
気だるげに欠伸をしていつものようにガムを膨らませている。

「丸井くん眠そう」
「あんなもん見て眠れるほうがおかしいっつーの。つーか猫宮てめえ!あん時はよくも……!」
「なんだっけ?」
「ああー!その顔めっちゃむかつく!!」

そう言って、仁王と反対側のあたしの隣に来ると、仁王と同じように肩に腕を回してきた。やめてよ両手に花状態じゃん誰か写真撮ってくれ。
丸井は少しこちらに寄って、小さめの声で話し始めた。

「つーかさ、お前んとこから来たあのマネージャー、白石目当てに見えっけどどうなの?」

すると仁王も同じように少し前屈みになりどうなんじゃ、と聞いてきた。いやお前ら近いって。イケメンサンド最高だけどあっつい。目も幸せだし耳も幸せだよありがとな!!

「多分…?」

謙也くん達にもうそう言われたから多分そうなんだろうけど、うーん。
唸りながらあの二人を見て腕組みをする。

「何でそんな曖昧なんだよ……」
「いやー周りがそう言ってるだけで、あたし自身そういう場面見たことないからさ……」
「今!あそこで!そういう場面に!なってんじゃねーか!!」
「あれ!?あれがそうなの!?えっ、あ、えっ!!?」
「ぶふッ」

隣で話を聞いていた仁王が噴き出した。肩を震わせてめっちゃ笑ってる。死刑。

「お前には!あの花咲かせまくってるオーラが見えねーのかよぃ!」
「ま…全く見えん……」
「目取り換えてきたほうがいいんじゃねーの?」
「昨日の林にあの化け物の目玉落ちてないかな」
「その話は…!思い出させるな……ッ!!」

地雷だったようです。丸井は一瞬で顔を青くしてぶるぶると震えた。
そんなに怖かったのか……いやあたしも怖かったけどね…可哀想に……

「大丈夫丸井くん、多分今日の夜は日吉くんがとびっきりの怪談聞かせてくれるらしいから。それ聞いて忘れちゃお!」
「馬鹿じゃねーの火に油だろうが!!聞かねーわ!!」
「仁王くんは?……………いつまで笑ってんだお前は!!」
「あー涙出てきた……ッく、猫宮アホ過ぎじゃ……!ぶふッ」
「シンプルにむかつく……」

そして二人は人の頭をわっしゃわっしゃと撫でコートに行ってしまった。その際丸井は大きな溜息をついて、白石もお前もよくわかんねーと呟いていた。白石も?あたしも分かんないわ。
ふと視線を感じて、顔を向けると白石と目が合った。
白石は、芽衣子ちゃんに何か言うとこちらへ向かってくる。なんだろ

「息詰まる…」
「えっ何で」
「照井さんと話しとるとあの視線がきつい……去年の先輩ら思い出すわ」
「随分好かれてますねぇ」
「妬いた?」
「いやまだ」
「まだってなんやねん」
「…なんていうか、心配にならないというか。白石はあたし一筋でしょ?」

ねー?と横から彼を見上げると、不意を突かれたような顔をして赤くなった。やだ!!何その顔新鮮!!

「〜〜〜〜ッお前そういうことを急に言うな!」
「あたしも白石一筋だから大丈夫」
「なんやねん急に……いつものツンツンツンツンツンツンな理久どこ行った…」
「ツン多くない????」
「まだ足りないくらいやで」
「マジかよ」

白石は、未だ火照る自分の顔を片手で覆いながらこちらを睨みつけてくる。
イケメンの照れ顔最高だね。そう思ってちょっと噴き出すと、後頭部をスパンと叩かれた。ウケる。