13衝撃

「猫宮〜」

とりあえず愛梨ちゃんに言われたことを全てやってしまったので、ぷらぷらと散歩をしていたら向日がこちらへ走ってきた。なんだろう

「何?」
「俺これからロードワークなんだよ。一緒に走らねえ?」
「行く!あれ、向日くん一人?」
「そ。体力作り」
「いいですねー付き合う付き合う」

念のため愛梨ちゃんに許可を得に行くと、「向日くんのお守よろしくね!!」と言われた。お守。愛梨ちゃんにとって向日は何なんだろうか。
向日と並んで走っている時、先程愛梨ちゃんから言われたことを聞いてみた。

「愛梨ちゃんにさぁ」
「んー?」
「向日くんのお守よろしくねって言われた」
「よーし帰ったらあいつシメる」
「あんまり迷惑とかかけちゃだめだよ…」
「その気の毒そうな顔すんな!むかつく!」

キーッと怒る向日を見て、ああなんか苦労しそうだな。無駄にうるさいしなと一人で納得してしまった。そう考えると我が四天宝寺は優秀だ………うーん…どっちもどっちかな。

「あいつさ」
「うん?」
「今年初めて知り合ったんだよ。他校から転校してきてさ。俺の隣の席なんだけど、最初は様子窺ってたわけ!変なやつだったら嫌だなー絡まれたくねーなーって」
「ほうほう」
「んでよ、先生に校内案内してやれって言われてさ!何で俺だよってめっちゃキレた」
「これまた定番な…」
「でもまあとりあえず案内してやったんだけどよ」
「うん」
「話してみたら、なんかお前と似てたんだよ」

へへ、と少し照れ臭そうに笑う向日を見て、心が少しあったかくなった。な、なんだその友情を感じてしまうエピソードは……へへあたしも照れるじゃねーか…
お互い離れていても、あたしのことを友達だと思ってくれる向日に感謝した。口では言えない、恥ずかしいから。

「なんか変な奴だった!ちょっと馬鹿だなとも思った!猫宮には負けるけど!」
「一回止まれお前ェ!!!!」

別に!!あたしは!!オチを期待していたんじゃない!!!

「仲原あいつお前と同類だぜ?頭の作りが」
「ねえ向日くんわざと?わざと喧嘩売ってる?」
「そのままのこと言っただけなんだけどなー、怒った?」
「怒ってないよとでも言うと思ったか?????」
「んなことよりさ」
「んなことより!!!!?!?」

おいまだ話は終わってないぞと目で訴えるも、いきなり向日は真剣な顔つきになって言いづらそうに口を開いた。

「ほらお前んとこの、マネージャー?何でマネージャーになったわけ?財前とか、ああいう女子嫌いだろ」
「いや、まだ三年が部長だからさ。現テニス部部長がオッケーしちゃったんだって、彼女可愛いし」
「はぁ?あれが?可愛い?マジかよ」
「え?可愛いでしょ普通に」
「容姿はいいかもしんねーけど、その容姿の良さすら潰してしまう程のあの不気味なオーラはやばいだろ」

不気味。
あー、分かった。あたしがピンとこない理由分かった。
そこまで興味ないから芽衣子ちゃんのこと殆ど見てない!見てないから分からないんだ。他の人達は良くも悪くも興味はあって、しかも芽衣子ちゃん自身が絡んでくるからそういうオーラを感じ取ってしまうんだろう。

確かにな、誰かと話してる時以外ってゲームのことかライブのことか漫画のことくらいしか考えてなくて周り見てなかったな。失態。


「白石のことちゃんと見といてやれよー?取られても知らねーぞ」
「いやまあそこは…頑張るけど……」
「ま!そもそも白石が猫宮以外んとこ行くようには見えねーけどな!」
「そう願ってる……てか仁王くんから聞いたんだけど向日くん達のファンクラブあるんだって?詳しく教えて」
「あー!!あれな!!あのうざったいやつ!!」

この後ファンクラブの話で盛り上がって、ロードワークが終わる頃お互い息が絶え絶えだった。走りながらこんなに喋るもんじゃねえ。

「ていうかさ」
「?何だよ」
「向日くん背縮んだ?」
「猫宮が伸びたんだようるせーなチビじゃねーよ!!」
「まだそこまで言ってないんだけど!」
「まだって何だよまだって!!」
「そんな怒るなよ…カルシウム足りてないんじゃない?身長も(笑)」
「ぶっ殺す!!!!!」

****

昼食は早々に食べ終わり、しっかりイヤホンをしてゲームに勤しんでいた。周りは未だゆったりと食事をしていて、話しかけられることもなさそうだったので夢中で譜面と格闘していた。
数曲終えてふと顔を上げると白石が居た。吃驚して思わず全身が少し跳ねる。
びっ……くりしたー………外の音も聞こえないから尚更びっくりしたー…
片耳のイヤホンを外すと、白石はふふ、と笑う。

「めっちゃびっくりしとったな」
「そりゃな……急に現れたようなもんだからな…」
「まだゲームするん?俺暇やねんけど」
「…………白石」
「何や」
「すっげえ視線感じる…」

そう言うと、白石はバツが悪そうにそーっと目を逸らした。そんな彼に溜息をついて、視線の先を追えば芽衣子ちゃんと目が合う。その目は少し不満気で、嫉妬の色が混じっている。そういう彼女を幾度か見て、もしかしたら元々この世界の子かも?なんて思い始めた。じゃなかったらさ……ここまで嫌煙されてそれでもめげないって、ただ本当にイケメン狙いの何も知らない一般人じゃない…?
もしトリップしてきて彼らを知っていたとして。好きなキャラ達にここまで嫌がられてたら少しは大人しくなるもんじゃないの……?そこから始まる展開だってあるでしょうに……何が彼女を駆り立てるというの…

「理久」

テーブルの下で白石の足がコツンと当たる。どうした、と顔を向ければ外行くでと合図をされた。おっけいと頷き、手慣れた手つきでイヤホンをしまった。


「なあ」
「はい」

食堂を出てあてもなく二人で歩いている。
白石は神妙な顔つきで口を開いた。

「照井さんて、俺らが付き合うとること知っとるよな………?」
「…………多分」
「知っててあの積極性何なん?どういこと?理解が追い付かへん」
「不思議ですな〜」
「もっと人前でいちゃつくべきやろか…」
「マジでやめてくれ」

あたしの返答に白石はえーと言って口を尖らせた。そんなことしても可愛いだけだぞ可愛い……これブロマイドとして販売したら即完売するやつだ。
暫く二人で歩きながらふと窓の外を見ると、たまたま芽衣子ちゃんがどこかへ歩いて行くのが見えた。
どうしたんだろうと、ほんの少しの好奇心で白石と一緒に様子を見に行くことにした。白石は嫌がっていたが、じゃああたしだけで行ってくると言うと渋々ついてきた。無理しなくていいのに…

彼女が向かったであろう場所へ行くと、そこは建物の影になっていて人は殆ど来ないような場所だった。そーっと覗いて見れば芽衣子ちゃんはこちらに背を向けていて、何かを呟きながら右手で建物の壁を何度も打ち付けている。

「なんで、なんで、なんでッッッ」

押し殺したような低い声で何度もそう呟く彼女の表情は見えないが、多分めっちゃ怒ってるんだろうなとは思う。

「なんであんな女ばっかり……!!私のほうが可愛いのに…ッ!氷帝にも女が居るなんてあり得ない、皆何で私を見てくれないのよ……!!!」

あんな女。
はて、あたしのことかな?めっちゃディスられたな??おやぁ……いや別にいいんだけどさ可愛いわけじゃないし自分。

「こんなことならお願い欄にキャラ全員から愛されるって書いておけばよかった……何なの…いつになったら皆は私を見てくれるの……彼らの中心は私なんだから…。最後に愛されるのは……私だけでしょ…?」

もう心の中で茶化す余裕も無くて、壁に背を預けてただ地面を見つめていた。
嫌な汗をだらだらと流しながら、興味本位で来てしまったことを心の底から後悔している。ちらりと、白石を見ると、白石も同じように汗を流し顔を青くしていた。
きっとこの時、二人の心は寸分の狂いなく同じだっただろう。

((やっべーもん聞いてしまった……))